パーセプションフロー・モデルは、消費者の心理や行動の変化を可視化することで、戦略立案を精緻化するフレームワークです。このモデルを理解することで、より的確なマーケティング施策の立案が可能になります。本記事では、その基本概念や利点、実践的な活用法を解説し、自社導入のヒントを提供します。
パーセプションフロー・モデルとは
最初に、パーセプションフロー・モデルの基本的な概念や特徴を詳しく解説します。
パーセプションフロー・モデルの基本概要
パーセプションフロー・モデルは、消費者が商品やサービスを認知し、興味をいだき、購入に至るまでの心理や行動の変化を体系的に整理するためのフレームワークです。このモデルでは、消費者の購買プロセスを「パーセプションフロー(自然な認識の流れ)」として捉え、各段階に応じた最適なマーケティング施策を設計します。
購買プロセス全体を把握しやすくなることで、企業は消費者の心理状態を的確に捉え、最適なアプローチを実施できます。その結果、マーケティング施策の精度が向上し、効果的な購買促進と顧客体験の向上につながる仕組みです。
カスタマージャーニーマップとの違い
パーセプションフロー・モデルとカスタマージャーニーマップは、どちらもマーケティング戦略の設計に役立つフレームワークですが、両者には明確な違いがあります。
1. 目的の違い
カスタマージャーニーマップは 「顧客体験(CX)」の全体像を可視化し、顧客が製品・サービスに関わる各タッチポイントでの行動や感情の変化を把握する ための手法です。主に、顧客がブランドや製品とどのように接触し、どのような課題を抱えているのかを整理するのに役立ちます。
一方、パーセプションフロー・モデルは、消費者の認識(パーセプション)や態度変容のプロセスに着目し、ブランドがどのように意識や購買行動を変化させられるかを設計する フレームワークです。購買の意思決定を促進するための戦略立案に活用されます。
2. 時間軸の違い
カスタマージャーニーマップは、顧客の購買プロセス全体(認知 → 興味 → 検討 → 購入 → 継続利用)を時系列で整理し、現在の顧客体験を改善するための指標として用います。顧客が感じる課題や不満、感情の変化を分析し、それぞれのタッチポイントで最適な対応を行うのが特徴です。
一方、パーセプションフロー・モデルは、現在の顧客認識から 未来に向けた意識変容 を設計することに重点を置きます。単に現在の顧客行動を理解するのではなく、ブランドがどのようなマーケティング施策を打つことで、消費者の意識を望ましい方向に変化させられるかを考えるのが特徴です。
3. 焦点の違い
カスタマージャーニーマップ は、ブランドや製品に対する顧客の「タッチポイント」と「体験」の視点から設計されます。市場全体ではなく、特定ブランドに特化して作成されることも多く、顧客の行動や課題を深く理解するのに適しています。
パーセプションフロー・モデル は、ブランド認知や購買決定プロセスにおいて、消費者の心理的な変化や態度変容を促進するために活用されます。特に ブランディングや広告戦略との親和性が高く、消費者がどのようにブランドを認識し、どのような知覚刺激を受けることで購買につながるのかを設計する ことを目的としています。
パーセプションフロー・モデルを作成するメリット
パーセプションフロー・モデルの作成を通じて、企業はマーケティング戦略をより効果的に設計できます。特に重要なメリットは以下の2つです。
消費者の心理変化を詳細に把握できる
従来のマーケティングモデルが消費者の行動に焦点を当てるのに対し、パーセプションフロー・モデルは消費者の認識変化に焦点を当て、認識の変化を促すための戦略を立案します。すなわち、消費者がブランドや商品をどのように認識し、意識を変えていくのかを可視化します。このモデルでは、消費者の心理的な変化を段階的に捉えられるため、各段階で適切なマーケティング施策を講じることが可能です。消費者の心理状態の変化を深く理解することで、より的確で効果的なマーケティング施策を展開できます。
マーケティング戦略を企業全体で共有可能にする
パーセプションフロー・モデルはマーケティングの4Pすべてに関わるフレームワークです。そのため、マーケティング部門のみならず、営業、商品開発、カスタマーサポートなど複数の部門と連携しながら活用することが求められます。このモデルを活用すれば、営業や商品開発といった他部門が、マーケティングの全体像を把握できます。それにより、自社のブランドがどのように認識され、どのように変化していくのかを部門間の共通認識として持つことが可能です。
このように、パーセプションフロー・モデルは企業全体のマーケティング活動を統一し、部門間の連携を強化することで、より効果的な戦略立案と施策を実現します。
パーセプションフロー・モデルの構成要素と顧客の状態
パーセプションフロー・モデルは、消費者が商品やサービスに対する認識をどのように変化させ、最終的に購入に至るかを、横軸の5つの要素と縦軸の8つの段階で整理し、可視化します。各要素・段階は以下の通りです。
横軸:パーセプションフロー・モデルの5つの構成要素
パーセプションフロー・モデルにおいて、横軸には以下の5つの要素が配置されています。
- 行動・態度:企業やブランド、商品・サービスに対する消費者の行動や態度
- パーセプション:外部刺激に対する反応や外部情報の解釈結果
- 知覚刺激:消費者に新しい認識を与える外部からの刺激や情報
- KPI:マーケティング活動における成功を測るための指標。例えば、コンバージョン率やブランド認知度などが該当
- メディア・媒体:消費者に対して適切な知覚刺激を届けるための手段。テレビ、インターネット広告、SNS、店頭などが該当
この横軸は後述する8つの段階ごとに設定され、どの「知覚刺激」を与えれば次の段階へ進むのかの分析に寄与します。例えば、消費者が「メディア・媒体」を通じて新しいパーセプションを得て、それにより行動が変化し、マーケティングの成果指標である「KPI」に影響を与えるといった流れです。
これらの要素が連鎖的に作用することで、消費者の認識変化が可視化され、マーケティング全体の構造を理解しやすくなります。
縦軸:顧客/消費者の状態(段階)
一方、縦軸に配置される消費者の状態とその変化は、以下の8つの段階に分けられます。各段階に対応する「行動・態度」の例と共に示します。
- 現状:特定ブランドに興味がない、もしくは競合製品を使用している。
- 認知:自社製品の存在を初めて知る
- 興味:製品に関心を持ち始める
- 購入:実際に製品を購入する
- 使用:購入した製品を使いはじめる
- 満足:使用して満足感を得る
- 再購入:満足度が高まり、再度購入する
- 口コミ:製品を他者に推奨し、ブランドが広まる
各段階で、消費者の行動・態度の変化やパーセプションに合わせた適切な知覚刺激を与え、KPIの設定やメディアの選定を行うことが重要です。
パーセプションフロー・モデルの作り方
パーセプションフロー・モデルの作成方法は以下のとおりです。
1. フレームワークを作成する
まずは自社の商品やサービスに合わせて、前段で説明した横軸と縦軸を組み合わせたフレームワークを作成しましょう。これにより、消費者の行動と心理の流れを直感的に理解でき、マーケティング施策の一貫性を確保しやすくなります。
2. ターゲット層を決め、フレームワークを埋めていく
マーケティング戦略を効率的に進めるためには、次にターゲット層を明確に定めることが重要です。例えば、競合他社の製品を使っている消費者をターゲットにする場合、「乗り換える理由がない」と感じている消費者に対して、認識の変化を促さなければなりません。テレビCMやSNS広告といったメディアを活用し、製品の新機能や独自のメリットを伝えると、乗り換えを促せます。
この際、価格を重視する層にはコストパフォーマンスの高さを、機能性を重視する層には最新技術や独自機能の優位性を訴求すると効果的です。適切な刺激を与えることでターゲットの行動を変え、自社製品への関心を引きましょう。
このような流れをフレームワークとして組み立て、実行することで、消費者の認識と行動を段階的に変えていくのがパーセプションフロー・モデルの目的です。
コンタクトセンターでのパーセプションフロー・モデルの活用案
パーセプションフロー・モデルの活用により、コンタクトセンターは顧客の状況を把握し、それぞれの段階に適したFAQやサポート体制を構築できます。これによって、問い合わせ対応がよりパーソナライズされ、顧客満足度の向上につながります。具体的には、以下のような形での活用が可能です。
- 認知・興味段階:商品やサービスに関する基本的な質問に対し、FAQページの充実を図り、チャットボットによる即時回答を導入することで、顧客の疑問を解消
- 購入・使用段階:購入直後や初期使用時のトラブル対応に向けて、取扱説明書のデジタル化や、よくある質問をベースにしたナレッジベースを構築し、サポートを効率化
- 満足・再購入段階:使用後のフィードバックを収集し、顧客に適した追加サービスや関連商品の案内を実施。問い合わせ履歴をもとに、個別対応を強化
このように、パーセプションフロー・モデルに基づいてコンタクトセンターの対応を最適化することで、顧客の体験価値を向上させ、長期的な関係構築につなげられます。
まとめ
現代のマーケティングでは、顧客の行動を表面的なデータだけで捉えることには限界があります。購買行動は、感情や思考、価値観といった目に見えない要素が複雑に絡み合っているためです。パーセプションフロー・モデルを活用すると、顧客の心理プロセスを可視化し、どの段階でどのような知覚刺激を与えれば行動変容を促せるのかを把握できます。本記事で紹介した内容も踏まえつつ、マーケティング戦略の見直しを進めてみてはいかがでしょうか。
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