コンタクトセンターの信頼性や業務品質を維持するためには、クレーム対応の標準化やカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)への対策が不可欠です。本記事では、責任者の方が知っておきたい実践的な対応策や、制度を整備する際の重要なポイントについてわかりやすく解説します。

クレームの対処方法とは?基本フローと実践ポイント
コンタクトセンターにおけるクレーム対応は、単なるオペレーション業務にとどまらず、企業の信頼性やブランド価値にも直結する、非常に重要な経営課題です。そのため責任者には、現場スタッフが迷わず対応できる体制を整えることが求められます。
まずは、効果的なクレーム対応のステップや、現場で役立つ具体的なポイントを紹介します。
謝罪と事実確認
クレーム対応の最初のステップは、「お客様に不快な思いをさせてしまったこと」について、限定的に謝罪の意を伝えることです。このとき、相手の気持ちに寄り添いながら、「よろしければ詳しくお話をお聞かせいただけますか」と声をかけることで、落ち着いて対話を始めるための土台ができます。
続いて、事実を正確に確認しなければ、誤解が生じ、広がってしまうおそれがあります。そのため、「いつ」「どこで」「誰が」「何をして」「何が起こったのか」といったポイントを冷静に記録し、分散した情報を整理することが重要です。
なお、過度な謝罪は、相手に主導権を握られる要因となったり、逆に責任を押しつけられていると受け取られたりする可能性もあります。誠実に謝罪し、同時に正確な事実確認を行うことが、信頼回復のために欠かせないポイントです。
傾聴と共感
クレーム対応を始める際は、相手の話を途中で遮らず、最後までしっかりと耳を傾けることが大切です。たとえ急ぎの状況でも、「お話しいただきありがとうございます」「ご不安なお気持ちだったのですね」などの共感の言葉を添えるだけで、相手の気持ちが和らぎやすくなります。
なぜなら、最初の対応によって与えられる印象が、その後の信頼関係に大きな影響を及ぼすためです。まずはおよそ3分間、相手の気持ちに寄り添いながら話を聞きましょう。内容だけでなく、相手の感情もしっかりと受け止めることで、冷静に話し合いができる雰囲気が生まれます。
解決策の提示とフォロー
解決策を提案する際は、こちら側の都合を一方的に押しつけることなく、相手の立場を理解したうえで誠実に提案することが大切です。もしすぐに対応できる場合は、可能な限り迅速に対応しましょう。一方、対応に時間がかかる場合は、今後の見通しを丁寧に説明し、相手に安心感を持ってもらうことが重要です。また、代わりの案や補償については、ためらわず自然な形で示し、常識の範囲内で最大限の誠意を示すことが信頼回復のポイントです。
対応後のフォロー連絡では、あらためて謝罪し、今後どのように改善していくかをしっかり伝えましょう。さらに、これからも関係を続けていきたいという気持ちを伝えることで、顧客との信頼関係を立て直せます。誠実な言葉と最後まで粘り強く対応する姿勢が、相手の納得や和解につながります。
意見への感謝
クレームは単なる不満ではなく、サービスをよりよくしていくための「改善の種」が含まれています。そのため、「ご指摘いただきありがとうございます」「今後の参考にさせていただきます」など、感謝の気持ちを伝えることで、お客様の怒りが和らぎ、建設的な対話を始めやすくなるでしょう。
もともとクレームは、期待があるからこそ生まれるものであり、無関心ではないことの証です。そのため、最後にあらためてお詫びの気持ちを伝え、「本日は貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました」と締めくくることで、信頼回復や企業イメージの向上につながります。
現場で使えるクレーム対応のコツ
ここでは、現場ですぐに使えるクレーム対応の具体的なポイントについて解説します。
言葉遣いとフレーズ例
電話応対では、言葉遣いが相手からの信頼を得るうえで非常に重要です。例えば、「できません」や「わかりません」といった否定的な表現をそのまま使うのではなく、「誠に申し訳ございませんが」や「確認いたします」といった丁寧な言い回しに言い換えることで、相手の不安や不満を和らげられます。
さらに、クレームを受けた際には、「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」や「早急に対応いたします」といった誠意の伝わる言葉を用いることが効果的です。
常に相手の立場に立って言葉を選び、敬意と心配りを持った応対を心がけましょう。
感情コントロールとメンタルケア
クレーム対応の現場では、オペレーターが冷静さを保つために「深呼吸」を習慣づけることが効果的です。感情的になっているお客様には、まず共感の気持ちを伝え、そのうえで具体的な対応策を説明すると、相手の気持ちも次第に落ち着いていきます。
また、管理職が定期的にスタッフのメンタルケアを行うことで、現場が安定し、離職の防止にもつながります。このように、オペレーターの感情の揺れを最小限に抑える仕組みづくりが、組織全体の信頼性を高めるポイントです。
エスカレーションと記録の徹底
業務対応の現場では、オペレーターは問題を一人で抱え込まず、適切なタイミングで上司に相談・報告できる判断力が求められます。
また、対応内容の記録は、再発防止策を検討したり、サービス品質を向上させたりするうえで非常に重要な資産です。さらに、このように蓄積された記録は、社内教育の教材としても利用できるため、現場全体の力を高める助けにもなります。
業務記録の作成と情報共有を徹底することは、組織全体の成長を支える重要なポイントです。
コンタクトセンターにおけるクレーム対応の重要性
コンタクトセンターに寄せられるクレームは、単なる不満の声にとどまりません。実は、業務を改善し、お客様との信頼関係を構築するうえで重要なきっかけとなります。ここでは、クレーム対応がどのように顧客満足度や売上、さらにブランド価値の向上につながるのか、その理由をわかりやすく紹介します。
正当なクレーム対応がもたらすプラス効果
正当なクレーム対応は、企業成長のための好機にもなります。例えば、お客様から寄せられた意見や要望(VOC:Voice of Customer)を丁寧に受け止め、それらをサービス改善に反映させることで、品質の向上や信頼獲得につなげられます。実際、誠実な対応を続けた結果、不満を感じていた相手が熱心なファンへと変わった事例も多く報告されています。このような好循環は、企業文化の成熟にも寄与します。
一方で、理不尽な要求や攻撃的な言動など、不当なクレームが発生することも少なくありません。次の項目では、カスハラに対する適切な対応策について解説します。
不当なクレームはカスハラにあたる可能性も
前述のとおり、正当なクレームはサービス向上の重要なきっかけとなります。 しかし、過度な要求や暴言を伴う不当なクレームは、カスハラと見なされることがあります。このような行為は、対応するスタッフに大きな精神的負担をかけ、ひいては職場環境の悪化を招く原因となります。そのため、企業はカスハラ対応を個人任せにせず、組織としてルールの整備や教育体制の充実を図り、ハラスメントに対して明確な姿勢を示すことが重要です。
カスタマーハラスメントへの組織的対応の重要性
企業にとって顧客対応は、信頼関係を築くうえで非常に重要です。しかし、不当な要求や暴言など、いわゆるカスハラが発生すると、従業員の心身に深刻な影響を及ぼす可能性があります。ここでは、正当なクレームとカスハラの違いや、企業としてどのような対応が求められるのかについて解説します。
正当なクレームとカスタマーハラスメントの違い
正当なクレームは、企業がサービスの質を向上させるために役立つ建設的な意見です。例えば、顧客が冷静かつ具体的に不満や問題点を伝えることで、企業は改善の糸口を得られます。
一方で、カスハラとは暴言を吐いたり、過度な要求をしたりすることで、従業員に精神的な負担を与える行為を指します。
両者の大きな違いは、正当なクレームがサービス向上を目的としているのに対し、カスハラは相手を攻撃することを目的としている点です。そのため、企業は両者の違いを正しく見極め、適切に対応することが重要です。
カスハラ対策は企業の義務へ
近年、顧客による理不尽な言動、いわゆるカスハラが深刻化しています。これを受け、企業に対応策の実施を義務付ける法改正が2025年6月に成立しました。改正後の労働施策総合推進法は2026年に施行される予定であり、企業には対応方針の策定や相談窓口の設置などが求められています。
参照元:厚生労働省 |労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律の概要(令和7年法律第63号、令和7年6月11日公布)
一方、東京都ではすでにカスハラ防止条例が施行されています。
参照元:都庁総合ホームページ|カスハラ防止指針(ガイドライン)を策定
しかし、こうした取り組みが進む中でも、実態は依然として厳しい状況です。2024年に実施された東京商工リサーチの調査によると、「カスハラにどのような対策を講じているか」という問いに対し、回答社5,651社のうち71.5%の企業が「特に対策は取っていない」と回答しました。さらに中小企業に絞ると、その割合は73.4%に上り、制度整備の遅れが浮き彫りになっています。
このような現状を踏まえ、企業の規模を問わず、現場任せの対応から脱却し、体系的な対策を早急に進める必要があります。
参照元:株式会社東京商工リサーチ|企業のカスハラ対策に遅れ、未対策が7割超 「カスハラ被害」で従業員の「休職・退職」 13.5%の企業で発生
コンタクトセンターが採るべき具体的なカスハラ対策
コンタクトセンターにおいてカスハラに対応することは、オペレーターの安全を確保しつつ、円滑な業務運営を維持するために非常に重要です。ここでは、現場で実際に役立つ具体的な対策についてわかりやすく解説します。
クレーム対応拒否の基準の策定が重要
カスハラに対応するためには、正当なクレームとカスハラを明確に区別するための基準を設けることが重要です。特にコンタクトセンターでは、対応が曖昧だと、現場が混乱する可能性があります。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラを「顧客などによる不当な要求や暴言により、従業員の職場環境が悪化すること」と定義しています。この指針を参考に、通話時間や発言内容など具体的な基準を定め、「対応をお断りできるケース」を明確に示しておくことで、従業員の心理的負担を軽減し、対応の一貫性や公平性を保つことが可能です。
参照元:厚生労働省|カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(p.7)
カスハラの場合はシステム・仕組みでの防御も検討
現場の担当者だけに任せるのではなく、システムによる対応も重要です。例えば、通話録音の自動案内を導入することで、顧客に「通話内容が記録されている」ことを意識させ、過度な発言を抑制する効果が期待できます。
また、音声感情分析を活用することで、声のトーンや話す速さから怒りや不満の兆候をリアルタイムで検知できるため、オペレーターがより的確に対応できるようになります。さらに、既存の設備に後付けできる録音や分析のシステムを選ぶことで、導入費用を抑えながら、応対品質の維持やトラブルの早期発見、対応の迅速化も期待できます。
カスハラ対策としての教育・研修体制の整備
カスハラ対策を推進するためには、対応マニュアルの整備と実践的な教育体制の両方が欠かせません。まず、マニュアルは具体的な対応方法の指針となります。
また、現場ではロールプレイ研修を通じて、「管理者にエスカレーションするタイミングの判断」や「適切な言葉の選び方」などを実際に体験しながら学ぶことで、即現場で活かせる力が身につきます。さらに、このような研修は、スタッフのメンタル面での支えにもなるでしょう。例えば、理不尽な言動に直面しても、「自分に非があるわけではない」と理解できるようになり、心理的負担が軽減されます。
加えて、下記のヤマト運輸の事例のように、発言リストや対応フローをわかりやすく文書化し、OJT(On the Job Training:職場内研修)や相談窓口を活用して社内で情報を共有することで、社員が安心して働ける職場環境の実現と、対応品質の向上を同時に図れます。
参照元:厚生労働省|社員の健全な業務を守るため、カスハラ対策の取組を始動
まとめ
クレーム対応は、お客様からの信頼を回復し、業務改善につなげる絶好の機会です。効果的な対応のためには、相手の話を丁寧に聞き、共感を示し、やりとりを正確に記録し、スタッフ教育を充実させることが大切です。
一方、過度または不当な要求はカスハラにあたります。そのため、企業には対応基準の策定やシステムの整備、研修の強化が欠かせません。カスハラを防止しながら、建設的な意見を企業成長につなげる姿勢が一層求められます。
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