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UXとUXデザインの基礎知識
UXの定義、UIやユーザビリティとの違い、UXデザインが果たす役割を理解できます。 -
国内外の成功・失敗事例から学ぶポイント
スターバックスやドン・キホーテ、LINEやFABRIC TOKYOなどの成功事例、また悪いUXの典型例を通じて実践のヒントを得られます。 -
コンタクトセンターにおける実践方法
顧客分析、カスタマージャーニーマップ、AI活用など、顧客体験を向上させる具体的な取り組みを把握できます。
UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、ユーザーが製品やサービスとの関わりを通じて得るすべての体験や感情の総体を指します。そして、UXデザインとは、その体験を意図的に設計・改善し、ユーザーに価値ある体験を提供することで、企業の成長や競争優位性の確立につなげる取り組みです。
本記事では、UXの基礎概念やUIとの違い、UXデザインの重要性、成功・失敗事例、さらにコンタクトセンターにおける実践方法までを解説します。
ユーザーエクスペリエンス(UX)とは
UX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス)とは、ユーザーが製品やサービスと関わる過程で得るすべての体験や感情の総体を指します。これは利用中の出来事に限らず、認知・購入・利用・サポートといった前後のプロセス全体を含みます。
例えば、ECサイトで欲しい商品がすぐに見つかり、写真や説明がわかりやすく、購入手続きもスムーズに完了できた場合、それらはすべてUXに含まれます。また、購入後のカスタマーサポートセンターの対応が丁寧で安心できた体験もUXの一部です。
このように、UXはユーザーと企業とのあらゆる接点にわたる体験を意味します。そして、その体験を意図的に設計・改善し、UI設計やユーザビリティ・アクセシビリティの観点も含めて最適化していく活動をUXデザインと呼びます。
UXデザインの重要性
スマートフォンやSNSの普及により、消費者は情報を容易に入手でき、商品の比較やサービスの解約も簡単になりました。この市場環境の変化は競争を激化させ、企業にとってユーザーとの長期的な関係構築が重要な課題となっています。
そこで注目されるのがUXデザインです。優れたUXを提供することで、ユーザーに快適で価値のある体験をもたらし、継続的な利用やリピーターの獲得につながります。その結果、競合との差別化だけでなく、ブランド価値の向上やコンバージョン率の改善、さらには企業の持続的な成長にも大きな効果を発揮します。
UXデザインの成功事例5選
UXデザインは、ユーザー体験の質を高めるだけでなく、顧客満足度やロイヤリティの向上、そして企業の成長や競争優位性の確立に直結する価値を生み出します。では、具体的にどのような形でその効果が現れるのでしょうか。
ここでは、国内外の具体的な事例を5つ取り上げ、UXデザインがどのように成果を生み出しているのかを紹介します。各事例を通じて、成功の要因や実践のヒントを読み解いていきましょう。
事例1: 商品ではなく体験を売る
アメリカ発祥の大手カフェチェーンでは、「コーヒーを売るのではなく、体験を売る」という理念を掲げ、家庭や職場に次ぐ第三の場所(サードプレイス)を提供することでUXデザインを成功に導いています。
高品質なコーヒーに加え、ミルクの種類や温度調整といったパーソナライズされたサービス、そしてWi-Fiや電源設備を整えた快適な空間(アンビエントUX)を実現しています。さらに、モバイルアプリを活用した事前注文・決済(モバイルオーダー&ペイ)を導入し、利便性を大幅に向上させました。
これらの取り組みにより、顧客は自分の目的や気分に合わせて最適な体験を選ぶことができ、新商品が登場するたびに来店するリピーターも増えています。物理的な空間の快適性、パーソナライズされたサービス、デジタル体験を融合させた好例として、アメリカ発祥の大手カフェチェーンはUXデザインの成功事例とされています。
事例2: 圧縮陳列で宝探し体験を生む
小売業では一般的に、商品の陳列は「見やすく」「探しやすい」方が良いUXにつながると考えられます。しかし、大手ディスカウントストアではその常識を逆手に取り、圧縮陳列という独自の手法で成功を収めました。
店内では商品を隙間なく積み上げるように並べ、迷路のような空間を演出しています。この「摩擦(フリクション)」を意図的に生み出すことで、顧客は目的の商品を探す過程をまるで宝探しのように楽しむことができます。その結果、店内滞在時間が延び、偶然の出会いによる衝動買いも促進されました。
この事例は、「効率的な設計=良いUX」とは限らないことを示しています。この大手ディスカウントストアは買い物のプロセスそのものをエンターテインメント化することで、熱狂的なファンを獲得し、他社には真似できない体験価値を提供したのです。
事例3: 自動で料理記録を作成する
多くのレシピが掲載され「毎日の料理を楽しみにする」がコンセプトの人気アプリでは、ユーザーが継続的に利用しやすい仕組みを整えることでUXデザインに成功しています。
人気の料理アプリでは、レシピを保存するだけでなく、調理中の写真をレシピに紐づけて記録でき、日々の料理を楽しむ習慣づくりをサポートしています。一方、人気の健康管理アプリでは、食事の写真を撮影するとAIが自動で解析し、カロリーや栄養素を記録してくれる機能を提供しています。
これらの機能は、ユーザーにとって大きな負担となる「記録作業」を軽減し、行動の継続を促進します。その結果、ユーザーは「料理を作った達成感」や「健康管理の実感」といった本質的な価値を得やすくなり、他の類似サービスと比べて高い継続利用率を実現しています。
事例4: 誰でも直感的に使える
国内大手のモバイルコミュニケーションアプリと大手ゲーム機メーカーが手掛ける家庭用ゲーム機では、年齢やITリテラシーの壁を超えて誰もが直感的に利用できるUXを設計し、社会インフラと呼ばれるほどの普及を達成しました。
大手コミュニケーションアプリでは、従来のEメールにあった「受信・送信フォルダの分離」を排し、チャット形式で会話を一画面に集約。さらに文字入力不要のスタンプ機能や複数人で利用できるグループ機能を備え、手軽に感情を表現できる環境を提供しました。
一方、大手ゲーム機メーカーでは「いつでも、どこでも、誰とでも」をコンセプトに、TVモード・携帯モード・おすそわけプレイといった柔軟な操作スタイルを実現しました。
両者に共通するのは、専門用語を極力排除し「考えさせない」直感的な設計を徹底した点です。その結果、子どもから高齢者まで幅広い層が自然に利用できる体験を提供し、日常生活に深く根付いたサービスとなっています。
事例5: 採寸データを活用したパーソナライズ
ビジネスウェアのオーダーメイドサービスを展開する人気のファッション通販サイトでは、オンラインでのアパレル購入における最大の課題である「サイズ不安」と「採寸の手間」を解消することで注目を集めました。
ユーザーは一度店舗で採寸を行い、そのデータをクラウドに保存。以降はオンラインで自分に合ったジャストサイズのスーツを簡単に注文できます。この仕組みにより、ユーザーは一度の手間で継続的な利便性を享受できるようになり、他ブランドに移る理由が減少しました。
このように、採寸データを顧客体験の基盤とし、スイッチングコストを高めることで顧客のLTV(顧客生涯価値)を最大化しました。継続的にUXを改善し、長期的な顧客との関係を築く戦略的な事例といえます。
UXデザインの良い例
良いUXとは、ユーザーに「使いやすさ」「楽しさ」「信頼感」などの体験を提供し、その結果としてブランドへの愛着や顧客満足度を高め、最終的に企業の利益や持続的成長につなげるものです。
優れたUXデザインを実現するためには、ユーザーが求める体験の内容・利用する状況・対象となるユーザー像を把握することが不可欠です。さらに、役に立つ(Useful)、使いやすい(Usable)、見つけやすい(Findable)、信頼できる(Credible)、アクセスしやすい(Accessible)、魅力的(Desirable)、価値がある(Valuable)という7つの要素を満たすことが重要です。
加えて、「一貫性」「シンプルさ」「フィードバック」「人間中心設計」といったデザイン原則を適用することで、より体系的に良質なUXを提供できます。先に紹介した5つの成功事例も、いずれもユーザーのペインポイントを的確に解決し、これらのポイントを押さえた取り組みとなっています。
UXデザインの悪い例
UXの悪い例として、ユーザー視点を欠き企業の利益だけを優先したデザインがあります。例えば、見た目は美しいものの操作しにくいWebサイトへのリニューアルや、アカウント開設は容易なのに削除が極めて難しいといった設計です。これらは「ダークパターン」と呼ばれる手法の一例であり、短期的には会員数やKPIの向上に寄与する場合もありますが、長期的にはユーザーの信頼を損ないブランド価値を毀損します。
さらに、情報や機能を詰め込みすぎてユーザーを混乱させる、背景と文字のコントラストが低く読みにくい、行動を促すボタン(CTA)が目立たない、一貫性のないUIや不親切なエラーメッセージなども典型的な失敗例です。
これらは多くの場合、ユーザー調査やプロトタイピングを十分に行わず、検証を怠った結果として生まれます。常にユーザーファーストの姿勢で設計を進めれば、このような失敗は未然に避けられます。
コンタクトセンターでのUXデザインの方法
コンタクトセンターにおけるUXデザインでは、顧客分析・カスタマージャーニーマップ・IT活用の3つが重要な柱となります。
まず「顧客分析」では、属性データや行動履歴、顧客満足度に加え、通話記録・メール・チャットログ・アンケートなど多様なチャネルから収集したVoC(Voice of Customer:顧客の声)を分析し、深いニーズや課題を明らかにします。
次に「カスタマージャーニーマップ」を作成し、商品認知から自己解決の試み、問い合わせ、解決に至るまでの体験を可視化します。これにより「FAQでは情報が見つからない」「電話がつながりにくい」といった具体的な課題を発見し、FAQ改善やCRM強化などの施策につなげられます。
さらに「ITの活用」も欠かせません。生成AIによる感情分析やチャットボット導入により待ち時間を削減し、FAQ検索の精度向上やオペレーターの業務効率化を実現します。ここで重要なのは、オペレーター体験(EX)が顧客体験(CX/UX)に直結するという点です。働きやすい環境を整備することで、より共感性の高い顧客対応が可能になります。
これらの取り組みを通じて、コンタクトセンターは顧客ロイヤリティの向上やブランド価値強化に貢献できるのです。
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まとめ
スマートフォンの普及やSNS活用の拡大、顧客接点の多様化により消費者行動は大きく変化し、UXデザインの重要性はかつてないほど高まっています。ユーザーに快適で価値のある体験を提供することは、他社との差別化を実現し、顧客満足度の向上を通じてロイヤリティを形成し、企業の持続的成長につながります。
自社でUXを成功させるには、先行事例を参考にしながらも利益だけを優先するのではなく、ユーザーの視点に立った設計を行うことが重要です。短期的な利益追求は体験を損ない、結果的にブランド価値を毀損しかねません。
特にコンタクトセンターにおいては、顧客分析やカスタマージャーニーマップの作成に加え、VoC(顧客の声)の活用やAIによる感情分析、さらにはオペレーター体験(EX)の向上といった取り組みが効果を発揮します。これらを統合的に進めることで、UXデザインを企業成長の中核に据えることができます。
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