ボイスボットとは、AIを活用して電話応対業務を自動化し、効率化や顧客満足度向上を実現する技術です。オペレーター不足や人材育成の困難さといった課題を解決できる一方で、コストや手間を考えて導入を躊躇する方も少なくないでしょう。本記事では、基本的な特徴やメリット、選ぶ際のポイントなど、ボイスボットを導入する際のヒントとなる情報をご紹介します。
ボイスボットとは
「ボイスボット(Voice bot)」とは、いわばチャットボットの音声版です。AI(人工知能)が相手の音声発話内容を理解し、適切な回答を音声で返すプログラムを指します。主に、電話による問い合わせ応対を自動化する用途で用いられており、「AI自動応答システム」とも呼ばれます。
従来の電話問い合わせ対応では、コンピューターによる自動音声システム(IVR:Interactive Voice Response)が多く用いられていました。これは、事前に録音した音声ガイダンスにあわせて利用者が該当するボタンを押すことで、問い合わせ内容を把握し、適切な回答音声を再生したり、オペレーターに転送したりするしくみです。オペレーターの応対時間削減につながる一方で、目的の情報・オペレーターに到達するまでに時間がかかる点がデメリットでした。
ボイスボットは対話式で、利用者とやりとりをしながら問い合わせ内容を把握します。そのため、利用者は長い音声ガイダンスを聞く手間を省けます。
ボイスボット導入のメリット
企業が電話応対にボイスボットを導入するメリットとしては、主に以下の3つが挙げられます。
人件費の削減
電話応対をボイスボットで自動化することで、オペレーターの応対時間が削減でき、人件費削減につながります。具体的には、ボイスボットが利用者の問い合わせ内容や基本的な属性(カード番号、電話番号など)を把握してオペレーターに引き継ぐことで、オペレーターの作業負担が軽減されます。さらに、製品によっては利用者の発話内容をテキスト化できるものもあり、システム入力作業の効率化にも貢献できます。
機会損失の防止
オペレーターと違い、ボイスボットは24時間365日稼働可能です。休日や夜間でも利用者からの問い合わせに対応できるため、注文前の疑問を解消し、機会損失を予防します。
顧客満足度の向上
コールセンターのオペレーター数には限りがあるため、時間帯によっては電話がつながりにくいことがあります。ボイスボットが一次対応することで、利用者の待ち時間が減少するほか、簡易な内容であればオペレーターを通さずに済むため、顧客満足度の向上につながります。また、IVRと比較しても長い音声ガイダンスを聞かずに済むため、利用者のストレスも軽減されます。
なお、以下の記事でボイスボットについて基礎から解説しています。詳しく知りたい方は参考にしてみてください。
関連記事「ボイスボットとは?IVRとの違いや導入メリット6つを解説」
ボイスボット比較のポイント3選
企業がボイスボット製品を比較する際は、以下の3つのポイントに着目することが大切です。
他システムとの連携の有無
ボイスボットは、他システムと連携することでより高い成果が期待できます。たとえば、利用者の発話内容をテキスト化して相手のSMSへ通知したり、自社の問い合わせシステムに登録したりすることができ、業務効率化や顧客満足度向上に寄与します。
そのため、製品を選定する際にはCRMやRPAのほか、Slackのようなチャットツールなど、自社が利用しているツールと連携できる製品を選ぶとよいでしょう。
顧客の内容確認機能の有無
近年のAIの認識精度向上は著しいですが、完全ではありません。そのため、認識ミスをカバーするための機能として、顧客側でも内容を確認できる機能が備わった製品を選ぶと安全です。
これは、問い合わせ終了後に完了通知やボイスボットが受け付けた内容を、メールやSNSなどで通知する機能です。中にはLINEと連携して通知してくれる製品や、あとから問い合わせ内容を修正できる製品もあります。特に、オペレーターを介さずにボイスボットだけで問い合わせが完了する場合には、こうした内容確認機能があるとよいでしょう。
自動学習機能の有無
ボイスボットの精度を向上させるためには、実運用を行いながら追加学習をしていくのが効果的です。高い精度が求められる用途の場合は、自動学習機能の有無やチューニングにかかるコストを比較したうえで、製品を検討するのがおすすめです。
ボイスボット導入時の費用
ボイスボットは製品ごとに性能が異なり、導入費用も月額数万~数十万円とかなり幅があります。単純に価格で比較することは難しいため、自社の必要とする機能を備えているか、導入によってどの程度の費用対効果が見込めるかなどを考えて検討することをおすすめします。
また、製品によっては初期費用がかかるケースもあるので、事前に費用を確認しておきましょう。
ボイスボットが導入されている業界
最後に、ボイスボットが導入されている業界の例を3つご紹介します。いずれもオペレーター数に限りがあり「電話がつながらない」、休日夜間につながらず「不便」といった課題を解決しながら、オペレーターの作業負担軽減や業務効率化によるコスト削減などに取り組んでいます。
コールセンター
ボイスボットが活用されている代表的な業界が、コールセンター業界です。コールセンターは、顧客接点という立場から非常に重要な役割を果たす一方で、人材不足や高い離職率、人材育成の難しさなど、さまざまな課題を持っています。特に人材不足は大きな課題で、時間や応対数に限りがあることから、自動化への対応が進められています。
コールセンターにボイスボットを導入することで、これらの課題解決に貢献します。たとえば、ある通販会社のコールセンターはボイスボットを導入して24時間受付可能にし、業務効率化と顧客満足の両方を実現しています。
関連記事「ボイスボットとは?コールセンターに導入するメリットなどを解説」
官公庁・地方自治体
官公庁・地方自治体では、政府がDXを推進していることもあり、住民の利便性向上を目的とした各種業務の自動化が進められています。テキストで応対するチャットボットや音声を使ったボイスボットは、問い合わせ自動化の手段として導入が増加しています。
ある中核市では、新型コロナウイルス感染症におけるワクチン接種での問い合わせ対応にボイスボットを導入しました。手続き方法や接種場所などの問い合わせに対して、通常の時間帯はオペレーターと併用し、時間外にはボイスボットが応対することで、「電話がつながらない」「待たされる」といった課題の解消につなげています。
このような自治体での需要増に対応して、LGWAN内にシステムを持ち、セキュリティを向上した自治体向け製品も販売されています。
金融・保険
金融・保険業界では、業務効率化を目的にボイスボットの導入が進んでいます。たとえば、ある大手保険会社では、保険料の支払いを証明する控除証明を再発行する際に、従来のオペレーター応対からボイスボットに切り替えたことで、いつでも再発行受付を可能にしました。さらに、ボイスボットとRPAを連携して定型業務を自動化し、大幅な業務効率化を実現しています。
また別の例では、「繁忙時間帯に電話がつながらない」「営業時間外の電話に対応できない」といった課題を解決するためにボイスボットを導入し、契約者情報の変更手続きを自動化して、業務効率化を進めた大手保険会社の取り組みもあります。
まとめ
電話応対が必要な企業・組織にとって、ボイスボットは業務効率化やコスト削減、顧客満足度向上を実現する技術です。導入する際はコストだけでなく、自社の求める機能が含まれているか、他システムと連携できるかなどを踏まえて検討すると失敗が少ないでしょう。
本記事では、ボイスボットを導入している業界例をいくつかご紹介しましたが、ほかの業界でも同じような効果が期待できます。DXを実現する手段のひとつとしても非常に有用です。
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