近年、AI(人工知能)の技術・性能は飛躍的な進化を遂げています。
人間が行ってきた創造的な作業をこなす“生成AI”の誕生は、従来の業務やビジネスモデルを変える革新的な技術として世界に大きなインパクトをもたらしました。
そうしたなか、次世代のAIとして新たに注目されているのが“AIエージェント”です。AIエージェントは、単なる定型作業の自動化にとどまらず、人間のように自律的にタスクを遂行する技術として幅広い領域での活用が期待されています。
この記事では、AIエージェントの仕組みや生成AIとの違い、期待される効果、導入する際のポイントと活用例について解説します。

AIエージェントとは
AIエージェントとは、自律的に判断・行動する能力を備えたAIシステムです。
機械学習・自然言語処理(NLP)・大規模言語モデル(LLM)などの複数のAI技術をベースに、社内システムやデータベースと連携させることにより、従来のAIでは困難とされていた複雑な意思決定や高度な作業を可能にします。
AIエージェントとして活用されるAIシステムには、ユーザーのリクエストに対して「何をすべきか」を自ら判断して行動する仕組みが採用されています。
基本的なシステム構成の要素は、以下のとおりです。
▼AIエージェントの基本的なシステム構成
プロセス |
概要 |
1.目的の推論 |
ユーザーが設定した目標の意図を理解して、対応策を検討する |
2.行動計画 |
目標の達成に必要なタスクを作成する |
3.意思決定 |
システムやセンサーなどで収集したデータから現在の環境・状況を分析して、タスクの評価と行動の選択を行う |
4.実行 |
選択した行動に沿って、連携するシステムやロボットなどへ処理の実行を指示する |
5.フィードバック |
実行した処理のフィードバックを収集して、パフォーマンスや問題点の分析・特定、改善策の実行を行う |
AIエージェントが複雑かつ高度な処理を行える理由の一つとして、大規模言語モデル(LLM)による精度向上が挙げられます。
従来では単純なパターン認識に限られていましたが、外部ツールとの連携や人間との継続的な会話を通して、複雑な問題を分解して段階的に推論して処理する技術が進化しました。
このような多段階の推論では、主に『ReAct(Reasoning and Acting)』『CoT(Chain of Thought)』『ToT(Tree of Thoughts)』などのフレームワークが使用されています。
ほかにも、画像・音声・動画などの複数の情報を同時に処理して統合的に分析する“マルチモーダル”の対応によって、複雑な判断と高精度な回答の生成を可能にしています。
マルチモーダルAIについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
併せてご確認ください。
生成AIとの違い
生成AIは、ユーザーが自然言語(※)によって指示を出すことで文章・画像・動画などを生成できるAI技術です。AIエージェントとは目的や用途、使い方、活用方法などに違いがあります。
▼生成AIとAIエージェントの違い
生成AIでは、ユーザーが入力した指示に基づいて受動的にアウトプットを行います。これに対してAIエージェントは、ユーザーの指示がなくても設定した目標の達成に向けて能動的に判断・行動できることが特徴です。そのため、創造的なタスクに限らず、一連のワークフローに組み込んだ活用が期待されます。
生成AIについてはこちらの記事でも解説しています。併せてご確認ください。
生成AIとは何か簡単に解説! 従来の識別系AIとは何が違う?
※日本語や英語などの人間が日常的に使っている言語のこと
AIエージェントが行えること
AIエージェントは、ユーザーのリクエストに基づいて自律的にタスクを実行できるほか、自ら学習して判断・行動を最適化する能力を備えています。
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クラウド型
事前に設定したプログラムを実行するだけでなく、ユーザーが設定した目標に基づき、AIエージェントが自律的にタスクを作成・実行します。
▼タスクの作成・実行例
- 目標達成に必要なタスクの作成
- 複数のタスクに対する優先順位の設定
- 行動計画に沿ったタスクの自動処理 など
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情報収集による環境認識
AIエージェントでは、タスクの作成や意思決定に必要な情報について、連携するシステム・データベース・センサーなどから自らデータの収集を行います。
収集したデータから現在の状況を把握することで、環境の変化に適応できるようになり、リアルタイムな判断と柔軟な意思決定が可能になります。
▼環境認識の例
- 車体カメラを用いた空間検知による自動車の自動運転
- 顧客行動データや購買データに基づく広告キャンペーン内容の調整 など
RAGについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
RAG (検索拡張生成) とは? 仕組みや活用例について解説 -
経験に基づく自己学習
過去に実行したタスクの経験に基づいて自己学習する能力があります。
AIエージェントが実行したタスクの結果やシステムから得られたフィードバックなどを収集・分析することで、継続的な学習が可能になります。その結果、より最適化された判断・行動が可能になり、パフォーマンスの向上につなげられます。
▼自己学習の例
- ユーザーのフィードバックを収集して実行した処理を評価する
- 問題点の特定と改善策の実行、効果測定のサイクルを実施する など
AIエージェントの種類
AIエージェントには、実行する作業によって大きく6つの種類に分けられます。
▼AIエージェントの主な種類
種類 |
概要 |
1.反応型 |
事前に定義された条件やルールに基づいて動作する |
2.目標型 |
設定した目標を達成するために最適な行動を選択する |
3.モデルベース型 |
内部環境の変化に応じて適切な行動を選択する |
4.効用ベース型 |
複数の選択肢から、得られる成果や満足度が高いと評価した行動を選択する |
5.学習型 |
過去の経験やタスクによって得られたデータを基に、より最適化された判断・行動のパターンを習得する |
6.階層型 |
階層化された複数のAIエージェントと連携して処理を行う |
AIエージェントによって得意とする分野が異なるため、活用する目的や用途に応じて選定することが必要です。
AIエージェントの活用で期待される効果
電話自動応答システム(IVR)のメリットとデメリットについて、以下に説明します。
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業務品質や顧客対応の均質化
AIエージェントによって、業務品質や顧客対応の均質化を図れます。
人による判断・処理が介在する業務では、従業員によって精度や能力のばらつきが生じたり、勘や経験などの暗黙知に依存したりする問題があります。
AIエージェントを活用することで、ワークフローや顧客対応を標準化できるようになり、対応を均質化することが可能です。 -
効率化・省人化による生産性の向上
定型作業やワークフローをAIエージェントによって自律的に運用できるようになると、従業員が対応していたオペレーションを効率化・省人化することが可能です。
社内の人的リソースをより創造的な業務や付加価値の高い業務に充てられるため、企業全体の生産性向上につながります。
業務の効率化・省人化が可能になると、従業員による長時間労働の防止や現場の人手不足解消にも結びつくと考えられます。 -
CX(カスタマーエクスペリエンス)の向上
AIエージェントを活用すると、カスタマーサポートやWebサイトの運用などにおいてパーソナライズ化した情報提供を行えるようになります。
▼AIエージェントを活用した情報提供の例- ユーザーが入力した質問に対して的確な回答を表示する
- 過去の閲覧履歴から趣味嗜好に合わせた商品やプランを提案する など
AIエージェントを導入する際のポイント
従来のワークフローやカスタマーサポートなどを変革するAIエージェントですが、運用にあたってはいくつか注意点があります。AIエージェントを導入する際には、安全性や正確性、信頼性を高めるシステムを構築することが必要です。
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セキュリティやプライバシーに関する対策を実施する
人間による指示がなくても自律的に動作するAIエージェントには、セキュリティとプライバシーのリスクが伴います。
例えば、連携する社内システムや外部サービスに保存された機密情報が自動で収集・共有されてしまったり、サイバー攻撃によってAIエージェントへのプロンプトインジェクション(※)が行われたりする可能性があります。
AIエージェントの導入にあたっては、情報漏えいやサイバー攻撃のリスクに備えた対策を講じることが重要です。
▼セキュリティやプライバシーを確保する対策
- AIエージェントがアクセスできる情報資産を制限する
- 連携する社内システムや外部サービスのユーザー認証を強化する
- ログの監視やプロンプトの履歴管理を行う など
※機械学習モデルや大規模言語モデルに対して、意図しない応答・誤作動を引き起こすために悪意のある指令入力を行うサイバー攻撃のこと。 -
ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)の仕組みを取り入れる
ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)とは、AIシステムが意思決定を行うプロセスに人間を介入させる設計・運用方法のことです。
AIエージェントは、ユーザーが提示したリクエストに対して、自ら考えて最適な行動を判断する能力を持ちます。
しかし、倫理的・道徳的な配慮が求められる判断や、重要かつ複雑な処理などは完全に自律化させることが難しく、意図しないあるいは誤ったアクションが実行される可能性があります。
AIエージェントの信頼性や公平性を高めるには、AIシステムの開発・運用プロセスにおいて人間の関与が必要と考えられます。
▼ヒューマン・イン・ザ・ループの例- 重要なアクションの実行前に人間による承認プロセスを組み込む
- AIエージェントの稼働状況を監視して、エラーの対応を人間が行う など
コンタクトセンターにおけるAIエージェントの活用例
顧客からの問い合わせが寄せられるコンタクトセンターでは、AIエージェントが持つ能力を顧客対応やオペレーター支援などに役立てることが可能です。
ここからは、現場での活用例を3つ紹介します。
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音声対話による自動応答
音声対話が可能なAIエージェントを電話窓口での自動応答に活用する方法です。
AIエージェントが顧客の音声を認識して、対話形式で自然かつ柔軟な応答を行うことが可能です。一次対応の自動化を図れるほか、AIエージェントが対応できない内容についてはオペレーターにエスカレーションする仕組みを構築できます。
▼音声対話による自動応答で期待できること- 電話窓口での応対品質の均質化・向上
- 一次対応の自動化によるオペレーター不足の解消
- 24時間365日の対応や待ち時間の減少による顧客満足度の向上 など
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チャットボットでの高精度な回答
AIエージェントを活用すると、定型応答に限定されていた従来のチャットボットよりも高精度な回答を顧客に提供できます。
顧客が入力した問い合わせ内容を理解して、自ら適切な情報を探して回答することが可能です。また、やり取りのログを記録・分析して学習することにより、運用しながら回答精度を高められます。
▼AIエージェントを活用したチャットボットが実現できること- 文章の意図を理解することで問題解決能力の向上を図れる
- 最新のFAQや製品情報に基づく回答が可能になる
- 問い合わせ内容や温度感を判断して有人対応に切り替えられる など
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オペレーターのアシスタント
オペレーターのアシスタントとしてAIエージェントを活用することにより、迅速な情報収集や判断を行えるようになり、スムーズな対応が可能になります。
▼AIエージェントによるアシスタントの例- 通話内容を認識してシステム内のFAQやマニュアルを画面表示する
- 通話内容を要約して通話履歴を自動で作成・記録する
- 顧客の音声を基にシステムの操作ガイドを表示する
- 通話データからナレッジデータベースを自動生成する など
なお、AIエージェントによるコンタクトセンターの業務改革についてはこちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。
AIエージェントとテキストマイニングの融合:コンタクトセンター分析の次なる一手
まとめ
AIエージェントは、与えられた目標に対して自ら判断・行動する自律性を持っています。生成AIが得意とするコンテンツの生成だけでなく、業務の自動化や意思決定の支援、問題解決などのさまざまなタスクを遂行できることが特徴です。
なかでもコンタクトセンターでは、電話窓口やチャットボットの運用、オペレーターの業務支援などにおいてAIエージェントの活用が期待されています。
ベルシステム24では、音声アシスタントやチャットボットなどのコンタクトセンターでの運用自動化を支援するAIソリューションを提供しております。応対品質の向上やオペレーターの業務効率化、人員不足の解消などのあらゆる課題の解決に貢献します。
コンタクトセンターにおけるAI活用については、こちらの資料をご確認ください。
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- コールセンター AI