顧客からの問い合わせ対応に対応を行うロボット「チャットボット」を採用する企業が急増しています。チャットボットは顧客対応を行う部署が抱える課題を解決する有効なツールになる可能性を秘めています。今回はチャットボットを導入するメリットと、導入前にあらかじめ検討しておきたいポイントを解説します。
そもそもチャットボット(Chat-Bot)とは?
コンタクトセンターは顧客への対応業務を専門に行う部門です。主に電話での応対を行っていた「コールセンター」から発展して、現代のコンタクトセンターでは、電話を始めEメールや各種SNS、チャットなどあらゆる手段で顧客の問い合わせに対応しています。
これら顧客対応のうち、Webサイト上で行われるテキストメッセージでの問い合わせに対し、自動で最適な応答を返すしくみが「チャットボット(Chat-Bot)」です。
「チャット」はPCやスマートフォンなどのモバイル端末にテキストを打ち込んでオペレーターとリアルタイムにやりとりする手段です。チャットはWebページに置かれたボタンをクリックするだけでやりとりを始められる手軽さもあり、現代では重要な対応方式として大きな注目を浴びています。ボット(Bot)はロボットの略称に由来する言葉で、自動プログラムを意味しています。つまり、チャットボットとは「会話を行う自動プログラム」のことを指しています。
チャットボットではユーザーが選んだ選択肢や、ユーザーが入力したテキストの内容に対し、決められたパターンに従って回答を返す仕組みなっています。このチャットボットの仕組みに、人工知能(AI)を組み合わせることで、入力した質問の意味をチャットボットが判断して柔軟な返答を行うこともできるようになり、単なるパターン応答に留まらない多様な顧客対応も可能になりつつあります。
コンタクトセンターでチャットボットを導入する理由
コンタクトセンターの抱える大きな問題として挙げられるのは、適切なカスタマー対応ができる人材が慢性的に不足していることです。コールセンターやコンタクトセンターは離職率が高い業務で、少子高齢化で労働力人口が減少の一途をたどっていることから見ても、今後も人手不足が続くことが予想されています。
この慢性的な人手不足を解消するための有力な手段の一つがチャットボットの導入です。では、チャットボットの導入がコンタクトセンターの業務にもたらす変化はどのようなものになるのでしょうか?メリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。
チャットボットの導入で得られるメリット
チャットボット導入で得られるメリットには次のようなものがあります。
お客様対応が24時間365日可能
特にECサイトなどはユーザーが深夜や休日に利用することが多く、一般的な企業の営業時間外に当たるこれらの時間帯に問い合わせのニーズが多く発生するのが難点でした。そういった場合に、問い合わせの最初期の段階で行うような単純な応答をチャットボットに任せれば、オペレーターを待機させることなく24時間対応が可能になります。また、チャットボットがあればユーザーも時間帯を気にする必要がないため、気軽に問い合わせを行いやすくなります。
お客様への迅速な対応
問い合わせを受けても、ユーザーに回答するまでに時間がかかるケースがあります。しかし、待ち時間が長いことはユーザーにとっては大きなストレスになり顧客満足度を下げる原因になりますし、待たされたこと自体が大きなクレームに発展することもあります。その点、チャットボットなら素早く回答を返すことができるので、顧客満足度の向上につなげることも可能です。
人件費を削減
問い合わせの対応には「よくある質問と回答(FAQ)」コーナーなどで解決するシンプルな問い合わせと、クレームなど担当者の対応が必要な込み入った案件があります。
ここで、価格の問い合わせなど単純な質問や件数が多い問い合わせはチャットボットに任せて、込み入った対応が必要な部分に人的リソースを集中させれば、人件費の削減と業務の効率化の両立が可能になります。
複数のお客様へ同時に回答
オペレーターによる対応の場合、ユーザー1人につき必ずオペレーター1人が必要になりますが、チャットボットにはこのような制限がなく、同時に大量の問い合わせがあった場合でも並行して回答することができます。
また、チャットボットには業務の属人化を防ぐという役割もあります。製品やサービスについて知識がある特定のスタッフしか応答ができないために問い合わせに待ち時間が発生してしまうことがしばしば起こりますが、知識を共有してチャットボットに応答させることで業務の属人化を回避することができるのです。
チャットボット導入において社内で検討すべきこと
導入目的を明確にする
最初にチャットボットを導入する目的を明確にしておきます。オペレーター業務を効率化してコスト削減を図りたい、1次解決率の低さを改善したい、オペレーターの人材定着率の向上を図りたいなど様々な目的が考えられます。複数の導入目的がある場合には、目的別にプロジェクトを分けるほうがよいでしょう。
チャットボットには質問と質問に対する回答のパターンシナリオに従って応答する「シナリオ型」や、FAQに対する回答例のビッグデータをAIに学習させて分析して応答させる「AI型」などがあります。目的を明確にした上で、どのタイプのチャットボットを導入するのか適切か見極め、システムの設計を行います。
チャットへの導線設計
チャットボットを活用したい場合には、Web上でユーザーが問い合わせを行いたいと思った時にチャットボットがすぐ見つかるようなユーザーインターフェース(UI)の設計が重要になります。ユーザーの目に留まりやすく、使ってみたいと思えるようなデザインや導線設計がチャットボットには求められます。もちろん、特に業務効率化を目的にする場合には、問い合わせ用のメールフォームやカスタマーセンターの電話番号より先にチャットボットがユーザーの視線に入るような設計が望まれます。
運用方法
ユーザーからの問い合わせにはチャットボットでは対応できない内容もあり、オペレーターによる有人対応は必要不可欠なものです。その場合、チャットボットに任せる範囲と、チャットボットに替わりオペレーターが対応したり、チャットを電話対応に切り替えたりするタイミングやルールをあらかじめ決めておく必要があります。チャットボットと有人対応の切り替えが適切かつスムーズに行われるような体制を構築しておくことが大切です。
FAQの整理
チャットボットを効果的に運用するためには、問い合わせとそれに対する回答を適切に関連付けして分類したデータを収集する必要があります。チャットボットが持っているデータが不足していると回答の精度が低くなり、ユーザーが不満をつのらせる結果になります。それまでの顧客対応で得られたデータや、既に作成済みのFAQコーナーの内容などを活用するとともに、新製品の発売や価格の改定など状況の変化にも素早く対応できるように継続的なメンテナンスを行いましょう。
蓄積データの保管方法
特にAI型のチャットボットを導入している場合、AIが日々学習するビッグデータとその分析内容蓄積は自社の戦略上でも非常に重要なデータとなります。チャットボットに対してユーザーが入力した質問から、今まで把握できていなかった顧客のニーズや、製品やサービスがユーザーにどう受け止められているかなどのポイントを言語化された形で知ることができます。これらのデータは集めたり分析したりしやすい文字データの形で蓄積されるのも利点です。 最近ではチャットボットもクラウド型で提供されるサービスが主流になりつつありますが、その場合でも、日々蓄積される質問の内容とそれに対する応答のデータは自社のマーケティング上非常に重要な内容となりますから、クラウドサービス上の蓄積やクラウドが提供する汎用的な分析方法に全て任せるのではなく、自社でデータを蓄積して必要に応じて分析と運用を行える体制を構築していくことが理想です。
チャットボットの導入が効果を発揮する状況とは
チャットボットにも得意な場面とそうでない場面があります。チャットボットが効果を発揮する状況を具体的に把握しておくことが大切です。
まず、シンプルな質問が多い場合と、即時に明快な返答が求められるようなシーンがチャットボットに向いている状況です。特に、ユーザーが明快な目的を持って訪れるECサイトでは、問い合わせの大半が購入方法や決済方法、送料の計算、お届け日時などシンプルな返答を求める内容であるため、チャットボット対応と非常に相性が良いと言えます。
また、WebサイトやSNSなどの問い合わせ窓口にもチャットボットが向いています。SNSのやりとりに慣れている世代など、ユーザーによっては「電話より文章のほうが楽」と感じている場合もあります。チャットボットの導入でテキストデータのやりとりを好むタイプのユーザーの顧客満足度を上げることが期待できます。
その反対に、チャットボット対応が適さない状況もあります。オペレーターの細かい対応が求められる複雑な内容の問い合わせが多い場合には、別の方策が必要であると考えられます。
また、ユーザーが求めているものが製品やサービスに関する詳細な情報である場合は、チャットボット対応ではなく、Webサイトに掲載する情報を充実させたり、カタログや取扱説明書などユーザーが欲しい情報を素速く検索できる機能を充実させるという方法が効果的な場合もあります。問い合わせの状況やユーザーのニーズをよく見極めることが大切です。
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チャットボットを活用する上で重要なこと
チャットボットを活用する上で意識しておきたいことは、チャットボットが蓄積した顧客との応答データを分析してマーケティング戦略に生かすという点です。チャットボットとの会話中のどこでユーザーが見切りを付けてWebサイトから離脱したかなどの情報で、ユーザーのニーズや、購買意欲などのポイントを読み取り自社の戦略に生かすことが求められています。また、これらのデータの分析結果をチャットボットにも還元して継続的なメンテナンスを行い、応答の精度を向上させ続けることも重要です。
また、マニュアル化が可能でチャットボットに任せたほうがよい内容と、オペレーターに任せるべき内容を切り分けて、適切に配分する必要があります。代替可能な部分をチャットボットに任せることで、より難易度の高いきめ細かい対応に人員を集中して充てることができるのです。チャットボットがオペレーターの業務の効率化をサポートしているという形を意識して運用することが大切です。
まとめ
チャットボットの導入はコンタクトセンターの業務効率を劇的に改善して、ユーザーに提供できる価値を最大化するために有効な手段です。また、慢性的な人手不足を解消するための方法としても極めて有効でしょう。業務の効率化と顧客満足度の上昇が期待できるチャットボットの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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