生成AIの進化は日進月歩です。Amazon、Googleといったハイパースケーラーによる新しいサービスのリリースは勿論のこと、国内でもいよいよAIの活用を国が主体となって強化する取り組みが活発化してきました。以下2つの発表はその取り組みの一例です。
■デジタル庁が進める政府AI活用戦略
https://digital-agency-news.digital.go.jp/articles/2025-12-11
デジタル庁が生成AIを積極的に活用して行政へのAI実装を目指していく取り組み。
■経済産業省と産業総合開発機構(NEDO)が主催する「GENIAC」が生成AIの国内開発力を強化する取り組みGENIAC-PRIZE(NEDO懸賞金活用型プログラム)を推進
コールセンタージャパン・ドットコム | 経産省/NEDO「GENIAC-PRIZE」、受賞企業決定
GENIAC-PRIZEの中で「カスタマーサポートの生産性向上テーマ」で、1位を受賞した未来都/newmoの取り組みでは、配車アプリでカバーできない電話による顧客からのオーダーをボイスボットを活用して配車する仕組みを構築されています。
取りこぼしが多かった着信を100%受電するなど、顧客体験の向上に寄与している例です。
はじめに
コンタクトセンターサービスに対して生成AIを活用した課題解決ができることは、こうした先進企業により証明されています。これからも優れた事例が次々にでてくることでしょう。一方で企業内のコンタクトセンターでの生成AIの利用については、まだまだ限定的なのが現実です。 “メールの返信案を生成AIで作ってもらうこと、通話のテキスト化については進めているけどそこから先はどうしたらいいかわからない”という声をよく耳にします。
つまり業務効率化の観点での生成AI活用は確立された手法として浸透しつつあるのですが、次のステップに進めていないという課題がありそうです。
そこで本稿では、生成AIのコンタクトセンターでの活用に際して、単なる業務効率化を超えた「価値創造拠点」へと変革するためのステップをご提案していきます。コンタクトセンターの主要課題を確認した上で、各課題に対して生成AIの活用方法、適用範囲設定の考え方、またそれぞれのROIの算出をガイダンスします。
また、生成AIソリューションの適用を考える上で重要ポイントとなるハルネーション対策、セキュリティ対策、そしてAIがお客様とオペレーターの会話に近づけるための仕組みについて、シスコのコンタクトセンターソリューションWebex を例にして具体的な成功への道筋を解説します。
生成AIによって人の応対が無くなる無人化の実現は、まだ少し先のことです。オペレーターの「代替」ではなく、顧客体験(CX)を最大化する「最強のパートナー」として位置づけられることを本書の結論としてご紹介したいと思います。
本稿では上記の流れで説明を進めます。コンタクトセンターの課題を解決するために生成AIの活用が有効であるという前提にもとづき、課題を要素分解してそれらに対して生成がどのように活用できるのか確認した上で、それをどのような業務に当てはめていくと効果的なのか具体的なシステムソリューションとマッチさせて考えてみます。生成AIソリューション導入にはシステム投資が発生しますので、それがどの程度のROIを生むのか、コンタクトセンターのKPIをもとに考えてみたいと思います。前半となる本書では赤枠の範囲についてご紹介します。
コンタクトセンターの課題の確認
まずは現在のコンタクトセンターの課題について確認してみましょう
「コールセンター白書2025」の市場調査データによれば、コンタクトセンター運営の最大の課題は「オペレーター1人当たり生産性向上」「呼量の削減」となっており、数年前の課題トップは採用難であったことからすると大きく変わっています。
おそらく、コンタクトセンターの採用が厳しい状況は変わらないため、視点を変えて一人当たりの生産性向上に方向性を変えるセンターが増えてきたのだと想定されます。
▲コールセンター白書Plus+ 第1回 「センターの運営課題」から引用(https://callcenter-japan.com/article/8510/1/)
一方で特筆すべき点は、トップ3課題に「生成AIの活用による生産性向上」が入っている点です。生成AIをどう活用したらいいのか?といこと自体が課題になっており、生産性向上・呼量の削減を生成AIを活用して解消できるのでは?という課題認識のもと、可視化された新しい課題であると考えられます。
複数のコンタクトセンターでのお話をお伺いすると「音声のテキスト化」は進めたのだけど、その先の「自動化」や「高度な意思決定支援」については、明確な方向性を定められず停滞していることが多かったようです。
「生成AIをテキスト化以外にも活用していきたいが、何から手をつければよいか分からない」というジレンマに直面しています。
想定課題とAIによる解決仮説の設定
コールセンター白書で指摘される主要課題は、複数の要素に分解されると考えますので、それぞれの課題を分解して対策案をご提案していきたいと思います。
課題1:一人当たりの生産性向上
一人当たりの生産性の考え方には2つの方向性があります。1つは定量的な観点、もう一つは定性的な観点です。定量的な観点では、一人当たりの応対ボリュームつまりCPHの向上に課題があるという理解となりますので、CPH=稼働時間対応したコール件数/稼働時間という定義により、コール件数を増やしていけることが解決の方向性です。コール件数を増やすためには、応対時間=ATH (ATT+ACW)を短くするとことになりますので、ATTとACWを短くするための対策が直結することになります。ATT短縮つまり通話応対時間を短くすることについては、お客様の期待された回答・結果が得られる前にその通話を早々に切ってしまうことは解決方針にはなりませんので、お客様の期待される回答・結果を提供できるように効率的に応対を進めるための施策を検討することになります。
次にACW短縮についてです。ACWの処理内容としては、一般的には以下の様なものが想定されます。
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お客様からの問い合わせ回答の結果(分類・要約)
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問合せ回答結果に基づく顧客情報・注文状況のアップデート
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他チーム、他部門へのエスカレーション内容の整理
全て応対結果から得られた要旨をアクションに変換する業務ですので、定量的に時間を短縮することができれば、生産性向上に直結することでしょう。
生産性向上のもう1つは、定性的な観点です。コンタクトセンターへの問合せは、FAQの上位に掲載されているようなルーチンの質問への回答、マイページにログインすれば直ぐに確認可能となるような情報の問合せ(ポイントや予約確認など)の調査回答がコールリーズンの上位を占めることが多いセンターの場合には顕著です。お客様がセルフサービス化できる応対を減らすことができれば、相談事項、アップセルや複合的な依頼など、コンタクトセンターとしての付加価値の高いサービスを提供できることになります。同じ時間を使ってサービスを提供するにしても、より生産性の高いサービスを提供できるようになります。この点においては次の課題(呼量の削減)への対応との連携が望まれる点です。
課題2:呼量の削減
問合せの電話の削減、つまり、お客様がセルフサービスによって質問・疑問を自己解決できることが望ましいのですが、現実的にはその実現には至っていないことから課題として挙がっているのだと考えられます。FAQサイトへの誘導・チャットボット・ボイスボットによってセルフサービスを促進しようと多くのコンタクトセンターがサービスを提供しています。
しかし、実際にはその効果は限定的なようです。NTTコムオンラインが実施した以下の調査結果を見ると企業のWebサイトで情報を探しても見つからないために電話をしている消費者が大半を占めています。消費者が期待している情報や解決策をWebサイトFAQサイトにタイムリーに掲載していくことができれば、セルフサービスはもっと大胆に進むとも言える訳ですが、実際には上手くいきません。
▲NTTコムオンライン社 「コールセンターに電話をかける前の顧客行動について」からの引用(https://www.nttcoms.com/service/mobileweb/column/callcenter-selfsolving-report2024/)
この課題も3つの観点から分解して解決の方向性を検討する必要があります。1つは定量の問題です。WebサイトFAQサイトの更新がコンタクトセンターではなく広報やマーケティング部門である場合、コンタクトセンターの要望(更新内容・更新タイミング)が最適化されていないことが考えられます。つまり、情報更新のプロセスが明確になっていないことで、情報更新の頻度・品質が高まらず、結果として上記の様な結果に繋がってしまいます。社内にはナレッジとして存在していても外部向けWebサイトへの情報共有ができないことは呼量の削減の弊害となります。
HDIジャパンの提唱するKCSプロセスの導入などがプロセスを定着化され、更新頻度を向上するための解決策として有効と考えられます(詳細は次回記載)
一方で、定性つまり、情報更新内容も考慮すべきことです。Web検索では、キーワード類似ワードが登録されていない場合、せっかく登録したナレッジもヒットしないリスクがあります。消費者の希望しているサポートインテント(質問事項・確認事項)が企業の用意しているFAQサイトのキーワードにヒットしないことで、意図は同じであっても回答が得られなかった、という結果となり、コールセンターへの問合せをするどいう選択に繋がるわけです。サポートインテントとFAQサイトの掲載情報を結びつける仕組みが必要となります。
AIを使ったボットがその解決になると考えます。RAG(Retrieval-Augmented Generation / 検索拡張生成)機能を提供するボットシステムを利用することで質の向上が期待できます。RAGの仕組みは大きく2つに分かれます。
検索(Retrieval)
ユーザーからの質問の意図をAIが理解し、関連する情報を登録されたデータ(PDF、Webサイト、FAQリストなど)から探し出します。
生成(Generation)
探し出した正確な情報に基づいて、AIが自然で分かりやすい文章をその場で生成し、回答します。(RAGとAIボットについては次回記載)
セルフサービス化に向けてFAQサイトの効果が限定的な理由にはもう1つ日本人の特性が考えられます。インフォビップ社が行った、日本を含むアジア11ヵ国・地域において顧客体験に関する調査によると、顧客の利用率が高い: カスタマーサポートへの問い合わせにおいて、日本だけが「電話」がトップ(約64〜66%)を占めており、メールや問い合わせフォームを上回る結果となっているとのこと。
▲インフォピック社 「望ましいカスタマーサポートの手段は?日本のトップ3は「電話」「問い合わせフォーム」「メール」」(https://markezine.jp/news/detail/39416)
わからないことがあれば、とりあえずコールセンターに電話しよう!という顧客が依然として多く、FAQやチャットボットのチャネルが十分に活用されないということです。日本人の特性を前提とした上で、FAQサイトの定量面・定性面での課題を解決できることが、セルフサービス化への対策としては有効だとなります。
つまりはセルフサービス推進のためには“電話でのセルフサービス”、先に挙げた中ではボイスボットの高度化がもっとも対応方針としては適切と考えます。
ボイスボットであれば、消費者はコールセンターに架電してきた上でボットとのコミュニケーションをとるので一貫性のある応対が期待できます。ボイスボットをセルフサービスの進化の中心に置いていくべきなのはこのような理由です(ボイスボットの仕組みは次回記載)
課題3:生成AIによる生産性向上
生成AIでの生産性向上の課題とは、先の通り、コンタクトセンター部門での生成AIの活用方法、進め方について不明確なことだと言い換えることができます。経営からは生成AIをもっと活用して生産性向上を期待されているし、先にご紹介したような実現事例も増えてきている、しかし自社での適用を考えた場合にはどうしたらいいのか?についてロードマップを敷けずにいると想定します。
つまり、どのような業務(Who)に対して、どの様な生成AIのテクノロジー(What)を活用すべきなのか、どのような段取りで考えるべきか(How)それへの期待値ROI(Howmany)についての整理が課題になっているといえます。
次に分解された課題原因それぞれに対して、生成AIをどのように活用できるのか、確認していきます。
前述で分解された課題は以下の様に整理しました。これらは課題解決に向けたキーワードとして考えられます。
| 一人当たりの生産性 | 定量:ATTの短縮、ACWの短縮① |
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定性:セルフサービスの推進② |
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| 呼量の削減 |
定量:更新プロセスを確立する③ |
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定性:提供ナレッジのヒット率、インテント④ |
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日本人の電話を好む特性⑤ |
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| 生成AIによる生産性向上 |
自社での生成AI活用のロードマップが策定できていない |
課題解決に向けた上記のキーワードそれぞれに解決策の案を記載しました。
①への解決策:生成AIを活用した効率化手段の採用
- 熟練オペレーターの頭の中にしかない暗黙知を、生成AIが過去の応対履歴から抽出し、ナレッジベースを自動更新。オペレーターの質問に対して即座に回答候補を提示することで、検索時間をゼロに近づけることでATTを最小化。
- 通話終了直後に生成AIが要約を作成し、CRM(顧客管理システム)へ自動転記を行うことで、ACW時間を大幅に削減する又は全自動化する。
③への解決策:ナレッジの更新プロセス
- HDIジャパンの提唱するKCSプロセスを適用することで、コンタクトセンター担当者を巻き込んだナレッジの更新と承認のプロセスを構築することができ有機的なナレッジの更新運用が可能となります。
https://www.hdi-japan.com/hdi/article/Explanation_kcs.asp
④への解決策:ナレッジのインテント理解
- 生成AIによるチャットボット又はボイスボットを前提とします。RAGを形成することで、標準の生成AIの知識に含まれない、ナレッジ情報や専門知識を提供し回答の精度を向上させることができます。
- ③の解決案で定期的に更新されたナレッジを活用して精度を向上させると同時に、生成AIによるインテント理解(意図理解)によってお客様の質問要望の意図を理解した上で、回答を提供することが可能になります。
⑤への解決策:ボイスボットによるセルフサービス実現
- 従来のボイスボットは営業時間外の自動応答や簡易的な手続きなど、“補完的な手段“として利用されてきましたが、音声認識技術の高度化により、ヒトの応対を代替するチャネルとしての実現できることがわかっています。ボイスボットからAIエージェントによる昇華させることにより新しいセルフサービスを実現します。
対象業務のピックアップ
先に記載した解決策仮説ですが、コンタクトセンター業務の中で、どの業務に対して適用するのか、業務プロセス全体の中のどこで活用するのか整理することで“生成AI活用のロードマップが策定できない”課題への対応に繋がってきます。
まず業務プロセスを大きく4つに分けて解決策を紐づけします。
フロントドア(顧客接点)
お客様が担当者との応対を開始する前段階の処理。一般的にはIVRでの要件選択や、会員番号の入力などが該当します。ここでは、つまり顧客の意図を正確に汲み取り、自己解決を促すボイスボット・チャットボットが有効となる領域。自然言語処理により、従来のツリー型IVRでは到達できなかった「複雑な問い」への回答を実現します。
応対中
応対中は、着信後にお客様情報を確認の上、質問手続き依頼を確認した上で、回答を調査提示する又は手続き処理を行って結果をお伝えするプロセスです。オペレーターの判断を支援し、回答の正確性を担保するリアルタイム支援領域となります。応対時間を長引かせない、カスハラ対策として、感情分析により、顧客の怒りや不安を検知し、スーパーバイザー(SV)へ即座にアラートを飛ばすなどが検討対象になります。また、応対自体を生成AIに任せる、つまりAIエージェント化により人による応対を最小化することも検討の対象となるでしょう。
応対後の後処理
応対後の後処理としては応対履歴の作成、顧客情報のアップデート、手続き後処理などが業務プロセスとして考えられます。応対履歴は通話内容の要約結果ですから応対内容のテキスト化をもとに適当な要約結果を生成できることが重要になりますし、手続き処理を通話内容からインテント抽出した上で、手続き処理内容として他システムに連携するなどが検討対象になります。
管理業務
ここでの管理業務としては、オペレーターの品質評価(QA)、VOC分析、ナレッジの更新業務プロセスを対象として考えます。オペレーター評価は音声通話を聞いて評価するという非常に時間のかかる業務ですし、VOC分析についても応対履歴などのテキスト情報をもとに問合せの傾向や商品サービス部門へのフィードバック示唆を分析してアウトプットする高度な業務になります。また、ナレッジの更新業務については前述の通り、自己解決を促すための必須業務プロセスになります。品質評価の自動化により、全通話の評価を可能にし、フィードバックの質を向上させることに繋がりますし、VOC分析はAIが最も得意とする領域の一つですので積極的に自動化したい業務になります。
次に、お客様からの問合せ業務の特徴に応じて適用範囲の有効性を考えることになります。
コールリーズンの見極めです。上記のフロントドアの業務プロセス、応対の業務プロセスそして後処理共に、コールリーズンによって、生産性向上の施策適用の要否に対するアプローチが全く異なります。
単純な質問への回答を行う場合と商品サービスについての相談・トラブル対応を行う場合では、所要時間も難易度も対極的であるといえます。また、別の観点もあります。クレジットカードを紛失したので対応を依頼する応対とクレジット利用についての質問回答をする応対では、緊急度が全く異なります。
よって、コールリーズンを分類した上で、定量の観点では、短時間の応対でありながらも量が多いコールリーズンに対して施策を適用することで、大きな効果が期待できます。また、定性の観点では、紛失や事故故障対応など緊急性も重要性も高いコールリーズンについては生産性向上の対象としては部分的になるかもしれません。
次回は、生成AIを活用したシステムソリューションを整理すると共に、業務プロセスへの適用そしてROIの考え方をご紹介していきます。
執筆者紹介

大手BPOでのコンサルティング、WFM構築、コンタクトセンター向けクラウドサービスを推進。その後、大手クラウドコンタクトセンターベンダーでのプリセールス責任者をつとめ、AIソリューションを推進。2025年9月より現職に従事。
- TOPIC:
- コールセンター AI
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