PBXの変遷と今後の展望:コンタクトセンターを支える技術とは?
松永 剛治
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目次
松永 剛治
2000年以降、通信技術や音声認識技術の発展により、コンタクトセンターで利用されるPBX(Private Branch Exchange=音声基盤)は飛躍的に進化し、現在ではCCaaS(Contact Center as a Service)と呼ばれるまでになっています。それらの歴史を整理しながら、これからのコンタクトセンターPBXに求められる機能について考察していきます。
現代コンタクトセンターPBXがどのように進化してきたのか、歴史的な流れを見てみましょう。
手動交換機が登場し、企業内で内線通話が可能になる。
1940年代には自動交換機が生まれ、1950年代にはクロスバー交換機などが使われアナログPBXの時代となる。
デジタルPBXが登場し、電話回線の処理がデジタル化される。
内線通話、内線転送、ACD(自動着信呼分配)やモニタリングといった高度な業務機能もこの時代から搭載。
電話システムとコンピュータが連携する「CTI(Computer Telephony Integration)」が普及。
受電内容のレポート機能で分析や業務管理も進化。
IP電話の普及とともに、インターネット経由でPBX機能を活用するIP PBXが普及。
機器や設定の柔軟性・コスト低減が実現。
クラウドサービスとしてPBX機能を利用する「クラウドPBX」が登場し、リモートワークや多拠点対応に最適化。
コンタクトセンター運用においても、データの可視化・分析などの管理機能が一層強化。
生成AIやGoogle CCAIの出現によって、PBX×AI時代の幕開け。
このように元々は電話交換手が操作するような交換台から始まったPBXは、スイッチによる電話交換からデジタル、IP化、クラウド基盤、AI-PBXへと進化し、現在ではコンタクトセンターの業務最適化やDXを支えるインフラになっています。
当然これらの進化は技術革新とともに歩んでおり、現代の主要コンタクトセンターPBXが備える機能はそれらの集大成であると考えられます。
コンタクトセンターPBXの基本的な役割は、大量の呼(コール)を制御し、適切なオペレータに配分し音声通信を成立させ、オペレーションを遂行できるようにすることです。通信技術と文化の発展により、PBXにはコンタクトセンターオペレーションをより効率的に運営するための様々な機能が求められるようになっていきました。現代PBXに求められる基本的な機能には次のようなものがあります。
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カテゴリー |
概要 |
主な機能例 |
|---|---|---|
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通話機能 |
呼を制御し、オペレータや自動応答などに適切に振り分け、管理する根源的な機能 |
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アウトバウンド機能 |
リスト発信や管理を行うためのアウトバウンドCTI機能 |
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管理・運用機能 |
主に管理者が現場を管理するための機能 |
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分析・改善機能 |
より効率的な現場運営を行うために音声データや業務を分析し出力する機能 |
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CTI連携機能 |
音声データをコンピュータや他の外部システムと連携させ、拡張機能として利用するための機能 |
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BCP |
音声データを保護し、事業継続を担保する機能 |
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その他 |
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現在市場に出ているクラウド型PBX製品は、ほとんどの製品がこれらの基本機能を備えています。もちろん各製品はそれぞれ主要ターゲットとなるセグメントにあわせ、機能とコストのバランスを変えていますが、主要メーカー間において各製品の持つ機能の単純比較では、現在ほとんど差がない状態になっています。
コンタクトセンターPBXの基本機能があれば、一般的なコンタクトセンターの運営は可能です。しかしながら現代コンタクトセンターはマンパワーによるサービス提供が主でありながら人手不足という大きな課題に直面しています。人口統計を見る限り、この先いまよりも状況が改善されることはないでしょう。またコロナ禍以降、働き方改革やリモートワークも浸透しつつあります。そのような中、コンタクトセンターPBXには今後どのような機能が求められていくでしょうか?
結論から言うと、これからのコンタクトセンターPBXには、
AIを活用した様々な効率化や省力化の機能、
他システムとの連携と統合UIの機能
高度で自社に合わせたセキュリティ
が求められると弊社では考えています。
2022年末の生成AIの登場以降、主要メーカーはこぞってAIを搭載する他システムとの積極的な連携、あるいは独自のAI機能を発表してきました。AIによる自動応答や会話分析、管理者の判断を補助する支援機能やワークフローの自動化などの機能です。
コンタクトセンターには多くのマニュアルや作業手順があります。そのため一般的には誰でもやれる仕事と考えられがちですが、実際従事してみると、想像以上に過去の経験や積み上げた知識を基にしたリアルタイム状況判断が求められることに気づきます。
これらは職人技と表現され、機械化は難しいと言われてきました。大量の情報を基に現在の問題の解を出す、実はこのような仕事こそがAIが得意とする仕事であり、AIに任せるべき仕事であると我々は考えます。
2025年上半期、国内において実際にその効果を享受できるレベルにある製品はまだ多くありません。しかしながらここ数年のAI周辺技術の進歩は目覚ましく、早晩どの現場でも前述のようなAIが実用化されていくでしょう。
現時点においてはどのメーカーも開発リソースが無限にあるわけではないため、現場のどの「不」を解決する機能にするか?、またこれらの機能をいかに簡単に、扱いやすく活用しやすいものにしていけるか?、が各社にとって差別化のポイントになっていくと考えられます。
特に2020年代に入り、DXトレンドの力を得てクラウドシステムは多くの現場に浸透していきました。しかしながらその多くが部分的で業界の特定タスクに特化したバーティカルなクラウドシステムであり、現場ではシステムとシステムの間に人間の作業が数多く存在していました。これではシステム管理上のメリットは享受できても全体的なDXが成功しているとは言えません。そこでそれら必要なシステムやデータを連携させ、作業に必要な情報をひとつのシステムに集約したり、インターフェースをよく使うひとつのシステムのみにして作業をやりやすくする統合型UIの機能を備えるシステムが登場してきています。餅は餅屋という言葉がありますが、ひとつのシステムが全ての機能を持つことは難しいため、このような形が最も合理的と言えるでしょう。我々現代人がスマートフォンひとつでなんでもできるようになったことと似ています。
AI活用のためにインターネットを通じて大量のデータを取り扱うことはセキュリティリスクにもつながります。そのためAIの利便性を活用しながらどのように大切なデータを守るのか?というセキュリティ対策も注視するべきポイントです。政府の求める基準であるISMAP(イスマップ)や、金融機関の求めるFISC(フィスク)、ペイメント/クレジットカード業界のPCI DSS(ピーシーアイディーエスエス)など業界によって多様な基準がありますがいずれも適合するためには莫大なコストがかかります。セキュリティ対策は常にコストとリスクのバランスを取る必要があるため、自社が守るべきデータを整理し、自社にあった優先順位と割り切りに柔軟に対応できる基盤が求められるでしょう。
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カテゴリー |
概要 |
主な機能例 |
|---|---|---|
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AI・自動化支援 |
AIの持つ機能を活用し、管理者やオペレータの判断を補助したり作業を代替する機能 |
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統合UI/外部連携 |
外部システムの機能の一部をAPI接続により同一UIで活用する機能 |
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セキュリティ |
音声データを保護し、法令に準拠した管理を行うための機能 |
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|
その他 |
|
コンタクトセンターシステム(PBX)は1900年代の手動交換機から始まり、アナログ、デジタル、IP、クラウドを経て、現在ではAIを活用したCCaaSへと進化してきました。現代においては、主要製品間の基本機能差は少なくなっている一方、今後は人手不足や働き方改革を背景にAIによる効率化、自動化、意思決定支援が重視される。また、複数業務システムを統合し、操作性を高めるUI機能や、大量データを扱う上での高度かつ自社に最適化されたセキュリティ対策が求められていくでしょう。

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