アメリカの生成AI活用事情

 2024.05.17  2024.07.05

最も世界で利用人口が多いとされる英語を主な言語とするアメリカであればデータ量も豊富で、全般的にカスタマーサポート領域におけるエンドユーザー向けの生成AIの活用が日本より進んでいるのではないか、また生成AIを活用する上でテキストベースのソリューションの方がより進んでいるのではないかという期待を込めて、チャットサポートのリーディングベンダーの提供サービスの現状を探ってみました。(2024年5月2日現在)

アメリカの生成AI活用事情

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アメリカのチャットソリューションベンダーの生成AI活用の現状

アメリカのチャットソリューションベンダーの生成AI活用の現状

Finances Onlineの 「20 Best Live Chat Software Solutions of 2024※1」 のNo.2にランクインしているPipedrive社※2は、生成AIによるEメールの回答文の作成、要約などカスタマーサポートエージェントを支援する機能を提供していたり、No.3にランクインしているLiveChat社※3はテキストメッセージをエンドユーザーに合わせてカジュアルライクまたはビジネスライクな文章への書き換え、エージェントが作成したメッセージの表現拡張、文章校正、に加えてチャットの要約、そしてタグづけによる回答のサジェストの機能を提供していたりします。

No.5のFreshdesk Messagingを提供しているFreshworks社のFreddyAI※4はエージェント、従業員、リーダー(SVや管理者)、エンドユーザー、そして開発者向けに自己解決型、Co-Pilot型、インサイト型AIなどを提供しています。

No.10のIntercom社※5は日本の企業で採用しているところも多く見かけるので、前の3社よりも皆さんにとってはもしかしたら馴染みがある企業かもしれません。AI-Copilotとしてエージェントをサポートするサジェスト機能だけでなく、SVや管理者向けのレポーティング機能やカスタマー向けの高度なAIチャットボットを提供しています。ただしカスタマー向けのAIは” RESOLVE 50% OF YOUR SUPPORT QUESTIONS. INSTANTLY(あなたのサポートの質問の50%を即座に解決します。)”と表現しているくらいですから、全ての質問にはまだ回答できませんよと先に免責を述べているようにも見えます。

こうしてみると、エンドユーザーからの一部の定型的な質問に対して生成AIを活用して対応しているソリューションはあるものの、今のところ活用の中心は、エージェントに伴走するような使い方と、SVや管理者向けのデータインサイト関連の機能なのかもしれません。もちろんこれらだけでもすでに、カスタマーサポートの飛躍的な業務効率化や生産性向上に貢献していることは言うまでもありません。

出典
※1 Finances Online 「20 Best Live Chat Software Solutions of 2024」
https://financesonline.com/top-20-live-chat-software-solutions/

※2 Pipedrive
https://www.pipedrive.com/
https://www.youtube.com/watch?v=5746zuwguBA

※3 LiveChat
https://www.livechat.com/features/ai/

※4 Freshworks Freddy AI
https://www.freshworks.com/platform/freddy-ai/

※5 Intercom
https://www.intercom.com/

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エンドユーザーとビジネスリーダーとのAIに対する期待Gapの実態

エンドユーザーとビジネスリーダーとのAIに対する期待Gapの実態 01

2024年にLIVEPERSON社が発表している、「State of Customer Conversations 2024: Bridging the AI Gap※6」によると、昨年(2023年)エンドユーザーの62%がAIとの関わりを前向きに感じていましたが、2024年のこの調査で62%→50%へと後退したことは、ビジネスリーダーのその結果とは対照的な数字であり、あらゆる種類の企業がAIと自動化を拡大していることが一部起因しています。このようなエンドユーザーとビジネスリーダーとの認識の違いは、一般エンドユーザーがAIをどのように活用すればより恩恵を受けられるかに対して不慣れで自信がないことに起因する、新たな「AIギャップ」として重要な着目点になります。

また73%のエンドユーザーが、昨年(2023年)と比較して、企業とのやり取りについてより批判的だというデータも出ています。企業がどれだけAIに投資していても、エンドユーザーとの意味のあるコミュニケーションを促進し、エンドユーザーにとってそこから得られるものがない場合、AIは重要な要素にはなりえません。これは、コンタクトセンター変革の道のりの初期段階にあるブランドにとっては特に重要で、エンドユーザーの課題やニーズを理解し、その上で会話をよりデジタルなチャネルに移行させ全体的なエンドユーザー体験を向上させることは、AIの成熟度とは関係なく、最も優先すべき事項なのだと改めて思います。

こうしたエンドユーザーとビジネスリーダーとのAIに関するギャップを埋める唯一の方法は、エンドユーザーとの信頼関係を築き、最大のペインポイント(痛点)に対して、迅速かつ正確で信頼性の高いソリューションを提供する意味のあるAIを構築することが唯一の鍵となります。エンドユーザーは、企業がモニタリングし、品質保証のもと構築し、バイアスを制限したAIを求めていることがわかりました。

上記の結果が、第1章のソリューションベンダーたちが、一足飛びにエンドユーザーに対して生成AIによる100%の自動回答へ向かうことを慎重に進めている要因の一つなのかもしれません。

エンドユーザーとビジネスリーダーとのAIに対する期待Gapの実態 02

出典:State of Customer Conversations 2024: Bridging the AI Gap

※6 State of Customer Conversations 2024: Bridging the AI Gap
https://www.liveperson.com/customer-conversations-report/?utm_source=chat_bot&utm_medium=direct&utm_campaign=socc_report_q1

著作権訴訟やハルシネーションなどの問題はやはり慎重に対応すべきリスク

著作権訴訟やハルシネーションなどの問題はやはり慎重に対応すべきリスク

また訴訟大国のアメリカでは、生成AIを活用による著作権侵害で日本よりもリスクが大きいことも、各ソリューションベンダーがエンドユーザー向けへの利用を慎重にさせている可能性もあります。

米紙ニューヨーク・タイムズ社による米OpenAIとMicrosoft社への訴訟※7や、最近では半導体GPUのグローバルリーディングカンパニーであるNVIDIA社への訴訟※8など、枚挙に暇がありません。

こういった著作権訴訟だけではなく、100%の回答精度を担保できない限りはリスクも大きいと捉えているソリューションベンダーも少なくないのではないでしょうか。(訴訟やハルシネーションに関するリスクは、より詳しく報告されている記事やブログをご参照いただければと思います。)

そのような中、Amazon社は、2024年4月30日に英語版のみですがAmazon Qという開発者およびビジネス向けの生成AIサービスを一般公開しました※9。これによって、「顧客の従業員の業務生産性が 80% 以上も向上することが示されており、今後導入を予定している新機能により、これはさらに向上していくものと考えています。」としています。これもまだエンドユーザー向けではありませんが、利用する企業側にとってはその足がかりとなるサービスなのかもしれません。

また、こと生成AIに関してApple社は、先行しているMicrosoft社、Google社、Meta社、Amazon社に比べると慎重な動きを見せてきました。社内ではLLMの開発を進めていたり、社内活用したり※10という話は今まで各種メディアで伝えられていますが、現時点では大きな対外発表はありません。2024年の第1四半期業績発表後の会見で同年内に何らかの発表があるとのコメント※11もありましたので、6月10日のWWDC(世界開発者会議)※12で発表されることが期待され、その動向を見守りたいところです。

※7生成AI、訴訟相次ぐ 著作物の対価巡り
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031600022&g=int

※8米作家、エヌビディア提訴 生成AI巡り著作権侵害
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031200788&g=int

※9 AWS Announces General Availability of Amazon Q, the Most Capable Generative AI-Powered Assistant for Accelerating Software Development and Leveraging Companies’ Internal Data
https://press.aboutamazon.com/2024/4/aws-announces-general-availability-of-amazon-q-the-most-capable-generative-ai-powered-assistant-for-accelerating-software-development-and-leveraging-companies-internal-data

※10 Apple is already using its chatbot for internal work.
https://www.theverge.com/2023/7/23/23804825/apple-gpt-chatbot-apple-care-siri-chatgpt

※11 Tim Cook teases Apple AI announcement ‘later this year’
https://www.cnbc.com/2024/02/01/tim-cook-teases-apple-ai-announcement-later-this-year.html

※12 WWDC24
https://developer.apple.com/wwdc24/

まとめ

このコラムの執筆にあたって(2024年5月2日現在)冒頭にも述べたように、最も世界で利用人口が多いとされる英語を主な言語とするアメリカであればデータ量も豊富で、全般的にカスタマーサポート領域におけるエンドユーザー向けの生成AIの活用が日本より進んでいるのではないか、また生成AIを活用する上でテキストベースのソリューションの方がより進んでいるのではないかという期待を込めて、チャットサポートベンダーの提供サービスの現状を探ってみました。

今回調査した時点ではエンドユーザーに対して生成AIによる顧客サポートを100%直接行なっているベンダーは見つけられませんでしたが(この寄稿が公開される時点で、もし既にそういったサービスを提供しているベンダーがあれば私の調査不足で申し訳ありません。)、サービス範囲を限定した生成AIの利用、定型的な問い合わせで活用するなど特定の領域にフォーカスした用途は多く見つけられ、また運用向けのエージェント支援、SV管理者支援のデータ活用などでは積極的に活用されています。ただ生成AIの技術は日進月歩であり、またいつ新しい活用方法を提供するサービスが出てきてもおかしくはありません。カスタマーサポート業界に携わる者としては、そのような理想の姿がやってくる日を期待しつつも、生成AIありきではなく、エンドユーザーの課題やニーズを理解し、エンドユーザーの期待値に見合うようなバランスの上で最適なデジタルチャネルに移行させ、エンドユーザーの体験価値(CX)を向上することが重要なのだと改めて思いました。

執筆者紹介

柏原 学 氏
柏原 学 氏
モビルス株式会社 マーケティングディビジョン
執行役員 マーケティングディビジョン長


1999年 早稲田大学卒、ソニー株式会社およびソニーモバイルコミュンケーションズ株式会社にて、コンシューマーエレクトロニクスとモバイル通信業界で、セールスマーケティング、商品企画、ポートフォリオと多岐にわたる経験とグローバルビジネスでの実績を持つ。2003年~2008年の期間米国および中南米諸国にて従事。2015年末シリコンバレーから帰任。2016年モビルスに参画。製品開発、企画、CX、UI/UX統括を経て、現在はマーケティングを統括。
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