AIエージェントとテキストマイニングの融合:
コンタクトセンター分析の次なる一手

 2025.06.02  2025.06.05

近年の生成AIの急速な進化によって、コンタクトセンターは大きな変革期にあります。とりわけ今年は「AIエージェント」に注目が集まり、単なるチャットボットを超えたより複雑なタスクを実行できると期待されています。本記事では、テキストマイニングとAIエージェントの連携がもたらす革新的な可能性と、MCP(Model Context Protocol)という新技術によって実現する「分析エージェント」について解説します。

AIエージェントとテキストマイニングの融合:コンタクトセンター分析の次なる一手

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AIエージェントとは:コンタクトセンターの文脈で理解する

AIエージェントとは、特定の目標に向かって自律的に行動し、環境と相互作用しながら判断や意思決定を行うAIシステムです。コンタクトセンターの世界で例えると、以下の3つの特徴を持ちます。

  1. 自律的な問題解決力
  2. 計画立案能力
  3. 実行能力

1)自律的な問題解決力:持続的な目標志向性

AIエージェントの最も重要な特徴は、設定された目標を達成するまで長時間にわたって自律的に活動できる能力です。これは狩猟のアナロジーで考えるとわかりやすいでしょう。ライオンは獲物を見つけると本能的に追いかけますが、状況が複雑になると諦めることがあります。
一方、原始時代の人間の狩猟者は、獲物を数日間追跡し続け、疲労させてから捕獲するという「持久狩猟」を行いました。同様に、AIエージェントも「顧客の不満の根本原因を特定する」といった複雑な目標に対して、様々なデータソースを調査し、必要な情報を集め、分析するというプロセスを、目標達成まで諦めることなく続けることができます。
コンタクトセンターでは、例えば「解約率低減のための施策提案」という目標を与えられた場合、以下のように一連のタスクを、人間の介入なく自律的に実行できます。

  • 過去6か月の解約理由を分析
  • 解約前の顧客の行動パターンを特定
  • 競合他社の提供サービスとの比較調査
  • 顧客属性ごとの満足度要因分析
  • 効果的な挽回策の提案

2)計画立案能力:複雑な目標の構造化

AIエージェントの第二の強みは、複雑な目標を達成可能な小さなタスクに分解し、効率的な実行計画を立てる能力です。人間が複雑な問題に直面したとき、TODOリストを作成して取り組むように、AIエージェントも与えられた課題を構造化します。
例えば、「新製品に関する顧客の声を総合的に分析せよ」という大きな指示に対して:
目標:新製品Xに関する顧客の声の総合分析

タスク1:データ収集

  • サブタスク1.1:過去3か月の関連問い合わせを抽出
  • サブタスク1.2:SNS上の製品言及を収集
  • サブタスク1.3:アンケート結果を統合

タスク2:感情分析

  • サブタスク2.1:肯定/否定表現の抽出
  • サブタスク2.2:感情強度の測定
  • サブタスク2.3:時系列での感情変化追跡

タスク3:トピック分析

...

このように、AIエージェントは人間の経験豊富なプロジェクトマネージャーのように、複雑な作業を管理可能なタスクに分解し、それらの依存関係や優先順位を考慮した実行計画を立てることができます。

3)実行能力:道具を使いこなす知性

AIエージェントの最も革新的な側面は、その実行能力—つまり、適切なツールを選択・使用して実際の作業を行う能力です。これこそが、コンタクトセンター分析において真価を発揮する特徴です。
自然界での比較で考えてみましょう。人間は身体能力だけで見れば、陸ではライオンに、海ではサメに及びません。しかし人間は道具を使える知性を持つことで、環境を支配できるようになりました。同様に、AIエージェントも単体では特定のタスクに特化したツールほどの性能はないかもしれませんが、様々なツールを目的に応じて使い分け、組み合わせる能力があります。このツールを使える能力を持ったLLM(Large Language Model)は、道具を装備した人間のように強くなれる(業務でこれまでの常識を覆すほどに使える)可能性を秘めているのです。

コンタクトセンターの文脈では「顧客の不満が高まっている原因を特定したい」という課題に対して次のような業務プロセスが考えられます。

  1. まず適切なテキストマイニングツールを選択
  2. 時系列で感情スコアが低下しているキーワードを抽出
  3. 関連する会話をCRMから取得して詳細分析
  4. その結果を可視化ツールで図表化
  5. 最終的な洞察をレポートとして統合

このプロセス全体を、人間のアナリストのように自律的に実行できるのです。AIエージェントは「考える槍」であり、必要に応じて様々なツールを「武器」として活用しながら、複雑な分析課題を解決していきます。

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テキストマイニングとAIエージェントの相乗効果

コンタクトセンターには日々膨大な顧客の声が蓄積されています。これらのデータからビジネス価値を引き出すのがテキストマイニングの役割ですが、従来は以下のような課題がありました。

  1. 専門知識の壁: 高度な分析には専門知識が必要で、一部の熟練者に依存
  2. 分析の属人化: 同じデータでも分析者によって結果や解釈が異なる
  3. 時間的制約: リアルタイム性の高い分析が困難
  4. 分析結果の活用: 分析結果を現場にフィードバックするまでのタイムラグ

図.1のようにAIエージェントとテキストマイニングを連携させることで、これらの課題を解決できる可能性が開けてきました。

図.1. AIエージェントとテキストマイニングツールの連携イメージ

テキストマイニングとAIエージェントの相乗効果

これまで、テキストマイニングツールを操作するのはあくまでも分析者(人間)でした。ツールの操作方法に習熟した上で、テキストデータを入力して分析目的に応じた操作を行っていく必要がありました。ところが、AIエージェントとテキストマイニングツールを連携すると、ツール操作の大部分はAIエージェントが行うようになります。分析目的とテキストデータをAIエージェントに入力すると、自律的にテキストマイニングツールを操作して結果を引き出し、それを更に別のエージェントへ渡して分析結果を解釈し、実用的な洞察から具体的な業務改善施策がアウトプットとして得られる、という具合です。

MCP(Model Context Protocol)がもたらす革新

AIエージェントとテキストマイニングツールの連携を劇的に進化させたのが、MCP(Model Context Protocol)の登場です。MCPとは、大規模言語モデル(LLM)とさまざまなツールを簡単に連携させるための標準化されたインターフェースです。MCP(Model Context Protocol)の登場により、この能力は格段に強化されました。MCPは、AIエージェントが様々なツールに共通のインターフェースでアクセスするための標準プロトコルです。これにより、エージェントは「この分析にはツールAが必要だな」と判断し、そのツールの使い方を理解し、適切なパラメータで呼び出し、結果を解釈するという一連の流れをシームレスに実行できるようになりました。

図.2 MCPの仕組みと特徴

MCP(Model Context Protocol)がもたらす革新

図.2 に示すように、MCPはAIエージェントと各種ツールをつなぐ共通言語として機能します。従来は個別に接続設定やAPIラッパーを開発する必要がありましたが、MCP対応により標準化されたインターフェースで通信できるようになります。

MCPがコンタクトセンターにもたらす主なメリットは以下のとおりです。

  1. 統一されたインターフェース: 異なるツールでも同じ形式で連携できるため、システム統合が容易
    コンタクトセンターには、CRM、CTI、IVR、テキストマイニング、ナレッジベースなど、様々なシステムが存在します。従来はこれらを連携させるために個別の開発が必要でしたが、MCP対応により統一されたインターフェースで連携が可能になります。
  2. セルフドキュメント機能: ツールの使い方や入出力の形式がプロトコル自体に含まれる
    MCPの最大の特徴は、ツールの機能説明や使用方法が標準フォーマットで記述され、AIエージェントが自動的に理解できる点です。これにより、人間が詳細なマニュアルを作成したり、エンジニアが個別にコーディングしたりする必要がなくなります。
  3. ローコードでの連携: プログラミングに詳しくなくても、各種ツールとAIを連携させることが可能
    現時点ではMCPを使い倒しているのは技術系のエンジニアの方が多いように思いますが、将来的にはMCPを活用することで、ビジネスサイドのスタッフでも、簡単な設定だけでAIエージェントとツールを連携させることができるようになると私は考えています。自社カスタマイズされた分析エージェントを構築・カスタマイズできるようになります。
  4. 柔軟な拡張性: 新しいツールやシステムの追加が容易になり、分析の幅が広がる
    新たな分析ニーズが発生した場合、MCP対応のツールを追加するだけで、AIエージェントは自動的にそのツールの使い方を理解し、既存のワークフローに統合できます。コンタクトセンターの分析ニーズは時々刻々と変わりますが、MCPにより柔軟な対応が可能になります。
    MCPの重要な特徴は、ツールの「機能説明書」と「使用方法」が標準化されたフォーマットでAIエージェントに提供されることです。人間が初めて使う道具でも取扱説明書があれば使えるように、AIエージェントもツールの機能とパラメータを理解し、適切に操作できるようになります。

テキストマイニングのMCP化が実現する「分析エージェント」

テキストマイニングツールをMCP化することで、AIエージェントはあたかも熟練したアナリストのようにツールを使いこなせるようになります。これにより、「分析エージェント」という新しい概念が生まれました。

図.3 分析エージェントの概念図

テキストマイニングのMCP化が実現する「分析エージェント」

図.3 に示すように、分析エージェントの中核にあるのはAIエージェント(大規模言語モデル)ですが、その真の力はMCPを通じて接続される様々なツールとの連携から生まれます。テキストマイニングツールは複雑なパターン発見に優れ、可視化ツールはデータの理解を助け、統計分析ツールは仮説検証に役立ちます。これらを状況に応じて使い分けることで、人間のアナリスト以上の総合力を発揮できるのです。
分析エージェントは、コンタクトセンターの多様なデータソースから情報を収集・統合し、意味のあるパターンを発見します。例えば、テキストデータからは顧客の声を、数値データからはパフォーマンス指標を、CRMからは顧客履歴を取得。これらを組み合わせることで、単一のデータソースからは見えない洞察を導き出します。

分析エージェントによるコンタクトセンター業務改革

「分析エージェント」が社会実装されたときに、コンタクトセンターで具体的にどのように活用されるのかイメージを深めていきましょう。

1)日次VOC分析の自動化と深化

  • 従来:専任アナリストが毎朝テキストマイニングツールで前日の問い合わせを分析し、増加したキーワードやトピックを確認していました。
  • 分析エージェント活用後:次のような会話が行われることになるとワクワクしませんか。
  • センター長:「昨日の問い合わせで、通常と異なる傾向があれば教えて」
  • 分析エージェント:「昨日の問い合わせを分析しました。通常の3倍のペースで「新商品Aの操作方法」に関する問い合わせが増加しています。特に「電源ボタンの位置」について問い合わせが集中しており、マニュアルとの齟齬が原因と考えられます。FAQの緊急更新をお勧めします。また、関連する音声データを分析したところ、約40%のお客様が強い不満を表明されています。」

2)属人化していた高度分析の民主化

  • 従来:特定のキーワードを含む通話が増加した理由や背景の分析は、熟練アナリストの経験と勘に頼っていました。
  • 分析エージェント活用後:LLMだけでは難しかった大規模データの定量的な分析も朝飯前です。
  • オペレーター:「最近『繋がりにくい』というクレームが増えているけど、どのような時間帯や条件で発生しているの?」
  • 分析エージェント:「過去30日間のデータを分析した結果、『繋がりにくい』というキーワードは主に平日10時〜11時の時間帯に集中しています。また、地域別では東京・大阪からの問い合わせが75%を占めています。テキストと音声感情分析の結果から、約60%の顧客は3回以上リダイアルした後にこの不満を表明しています。このパターンは先月の新システム導入時期と一致しています。詳細なレポートを作成しますか?」

3)新人オペレーターの即戦力化支援

  • 従来:新人オペレーターは応対の質向上のために先輩の応対を聞いたり、品質評価シートを確認したりする必要がありました。
  • 分析エージェント活用後:オンボーディングプロセスにも改革が訪れます。
  • 新人オペレーター:「高評価を得ている応対の特徴を教えて」
  • 分析エージェント:「高評価応対の分析を行いました。共通する特徴として、①最初の30秒で顧客の感情に共感を示す表現がある、②問題解決に至る道筋を明確に説明している、③専門用語を極力避け平易な表現を使用している、の3点が抽出されました。実際の応対例をいくつか示しますと...」

まとめ:コンタクトセンターの未来を切り拓く分析エージェント

AIエージェントとテキストマイニングの融合、そしてMCPというプロトコルの登場により、コンタクトセンターのデータ分析は「一部の専門家だけが行える特別な業務」から「誰もが必要な時に活用できるツール」へと進化しています。

この変化は、単なる業務効率化にとどまらず、以下のような革新をもたらします。

  1. リアルタイム改善の実現: 問題の早期発見と迅速な対応が可能に
  2. オペレーターのスキル向上: 属人的なノウハウの共有と平準化
  3. 経営判断の質向上: データに基づいた客観的な意思決定の促進
  4. 顧客体験の向上: 蓄積された知見を活かしたパーソナライズされた対応

テキストマイニングベンダーとして私たちベクストが目指すのは、「誰もが分析の力を活用できる環境」の実現です。AIエージェントとMCPの組み合わせは、その鍵となる技術として今後ますます発展していくでしょう。

競争力のあるコンタクトセンターづくりに向けて、ぜひテキストマイニングとAIエージェントの可能性を探ってみてください。

※本記事で紹介した「分析エージェント」の詳細や導入事例についてのお問い合わせは、弊社Webサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。

【イベントのお知らせ】

名称 Vext Tech Conference 2025
開催日 2025年6月11日(水)14:00-16:00
参加費 無料
会場 Zoomウェビナー
主催 ベクスト株式会社
詳細・お申込み https://www.vext.co.jp/seminar/5502/

<プログラム>

  1. 最新市場動向と今後のビジネス展開について
  2. 最新技術動向と開発ロードマップ ~分析AIエージェントの実現に向けて~
  3. 自社のニーズにフィット!施策につなげる次世代分析ソリューション

<こんな方におススメ>

  • 生成AIや自然言語処理等、テキストマイニング分野の最新技術について知りたい方
  • RAG技術に続くAIエージェントのテキスト分析活用について情報を得たい方
  • コンタクトセンターにおける対話データの利活用を検討中/課題感をお持ちの方
  • 当社の「Vextシリーズ」についてご興味をお持ちの方、導入検討中/導入済の方
  • 現在のテキスト分析やナレッジ生成に課題を感じており、高度化や効率化を目指したい方
名称

Vext Tech Conference 2025アフターセッション
活用事例紹介「テキストマイニング×生成AI
ビジネス実装への道

開催日

本配信
2025
79日(水)
14
001430 (1350~入室可能)
講演時間中はZoomQA機能によるご質問が可能です。

再配信
2025
87日(木)
11
001130 (1050~入室可能)

参加費 無料
会場 Zoomウェビナー
主催 ベクスト株式会社
詳細・お申込み https://www.vext.co.jp/seminar/5540/

<プログラム>

  1. 生成AIを利用したVextMiner分析機能について
  2. プロンプトを含めた活用ノウハウと事例をご紹介
  3. VTC2025開催以降の最新情報のお知らせ
  4. 質疑応答

<こんな方におススメ>

  •  
  • Vext Tech Conference 2025 にご参加いただいた方
  • 生成AI×テキストマイニング技術のビジネス現場活用に関心のある方
  • 生成AIの活用に踏みとどまっている方(関連したVextBlog記事はこちら
  • VOC分析を通じて顧客の声をもっと活かしたいとお考えの方
  • 当社の「Vextシリーズ」についてご興味をお持ちの方、導入検討中/導入済の方

執筆者紹介

神田 良輝 氏
神田 良輝 氏
ベクスト株式会社 常務取締役CTO
早稲田大学CS学科卒業、同大学院情報理工学修士取得。北京大学で自然言語処理を学び、国立情報学研究所で機械学習研究に従事。IBM、リクルートでソフトウェア開発を経験後、テキストマイニングベンダーのベクスト株式会社で製品開発を担当。自然言語処理・AI関連の特許を複数取得。現在、ベクストでは分析AIエージェントの開発に勤しんでいます。
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