コンタクトセンター戦略を成功に導くための3つのポイント

 2023.04.10  2024.04.24

経営理念に基づいたビジョンや経営戦略と連動して、コンタクトセンターの重要性と、高度化のニーズがますます高まっています。それに対応するため、コンタクトセンターの方向性を明確にする戦略策定が必要になります。今回は、コンタクトセンター戦略策定のポイント解説します。

デジタルチャネルCX調査 2023年版

なぜコンタクトセンターに戦略が求められるのか

コールセンター創成期(1980年代)は、お客様からの問い合わせや相談、苦情などの効率化のために窓口を一本化したことがコールセンターのはじまりです。当時求められていた主な役割は問い合わせを集約し、業務を確実にこなし、効率化することでした。しかし昨今では急速な情報化社会の進展、デジタルデバイスの普及と、産業技術が成熟期に入ったことで、商品やサービス自体の差別化が難しく、人口減少もあって、顧客の囲い込み・リピート客の獲得、ブランドイメージ向上が必要となりました。

そのため、顧客の要望に合わせコールセンターはコンタクトセンターと名称を変え、求められる役割や機能も変化しました。顧客視点では、従来の電話のみではなくメールやチャット、チャットボットボイスボットなどの様々な問い合わせ手段があること、自身が過去に閲覧や問い合わせた情報、購入した商品をオペレータが把握し、会話がスムーズに進むこと、また自己解決の仕組みが充実し、いつ問い合わせをしても適切な回答を得られる仕組みがあること、などが必要となります。

一方、企業視点では、多様化するお問い合わせに対して、ナレッジ整備や音声テキスト化などのオペレータを支援する仕組み、コンタクトセンターをハブとし、顧客情報がショップやフィールドサービスなどの社内関連部署に連係されること、センターで収集した顧客要望が分析され、関連部門に共有されること、先進的な技術が活用されセンターの効率化や品質向上が図られていることなどが必要です。

このような複雑なニーズが錯綜する環境下において、戦略を策定せずに、発生した課題に対してのみ対応し、思いつきベースの施策を実行した場合、多くの改革・改善は失敗し、高度化投資は無駄になり、最悪の場合顧客流出やセンター運営の高コスト化につながります。「とにかくAIブーム」や、「高度なソリューションが導入されただけのセンター」などがその典型です。コンタクトセンター戦略策定は、「高度にソリューションを活用するセンターの実現」を通じて、企業のビジネスに大きく貢献するために必要不可欠になります。

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戦略策定の落とし穴

いざコンタクトセンターの戦略を立てようと思っても、求められる役割の変化と共に課題や問題は複雑になり、あるべき姿を描こうにも、どういう視点と粒度で対応すべきか悩むところです。そのため、外部企業に相談やコンサルティングを依頼したり、内部プロジェクトで戦略策定を試みたりしますが、思い通りにならず失敗するケースが、よくあります。

まず戦略策定に長けた、コンサルティング会社に依頼をした場合、市場のトレンドを取り込み、先進的な仕組みを取り入れ、わかりやすい資料による魅力的なプランが作られます。一方で、コンタクトセンターの業務や、コンタクトセンターに関連する実現手段は概念的であることが多く、戦略策定後の具体的なロードマップを描くことができないか、描けても机上の空論となりがちです。また、戦略策定が全社向けに実施され、その一部としてコンタクトセンターの高度化がテーマとなった場合には、優先度にばらつきがあり、多くの場合コンタクトセンター改革をリードするための具体的なテーマが提示されないことも多いようです。

次に、IT(システム)ベンダーに戦略策定を依頼した場合はどうでしょう。その場合、IT戦略には長けているものの、ビジネス戦略、コンタクトセンター戦略には知見がないため、何を実現したいのかを、顧客側に聞いてくる傾向があります。何をするかを決めるための戦略策定を実施しているのに、何をやりたいかを顧客に聞くのでは本末転倒です。そのためITベンダーは、後段のプロジェクトで想定される最先端ソリューションや技術を提示し、プロダクトアウトで戦略を立てることになりがちです。ある仕組みを導入すれば100%呼減が実現とか、AIがあれば人のサポートは必要ないなど、実現性を加味しない極端な方向性が提示されることが多く、業務も加味されません。その結果、戦略策定を終えても、単なるITプロジェクトの、実行ロードマップが出来上がるだけです。

内製で戦略を立てる場合はどうでしょう。自分たちのビジネス、製品・商品・サービスを知っているのは自分達である。外部に頼むより、じっくり時間をかけて、自分たちで戦略策定をする例は数多く見られます。その場合、現場の課題をまとめて方向性を作ると、問題や課題はわかるものの、数が多すぎて整理がつかなかったり、現状の仕組みへの詳細な不満にこだわりすぎて、その解決手段の検討に多くの時間を費やしたりします。そうやって作った戦略は、内容が既存業務やシステムの改善になる場合が多く、わざわざ戦略を立て、何のためにコンタクトセンターを高度化するのかがわからなくなります。

一方で、現状課題はひとまず置いて、将来に向けたあるべき姿を検討しようとすると、今度は、改革に向けた手法や手順がわからずに苦労します。高度化の仕組みへの具体的な知見が不足し、ベンチマーク情報も公開情報にもとづく表面的なものになりがちです。魅力的な仕組みの導入を計画をしても、成功や失敗のポイントもわからず、投資の優先度、プロジェクト難易度や現実性もあいまいのため、成功へのロードマップを描けません。結局、戦略策定に時間がかかってしまい、改革へのスピード感が失われます。

コンタクトセンター戦略策定後、企業が戦略を実行に移せない(または移しているが効果がでない)ケースが多くあり、その多くの理由が「戦略策定時と実行フェーズでのギャップ」です。今挙げた、コンサルティング会社、ITベンダー、内製による実行では、コンタクトセンター戦略はなんとか策定できても、実行レベルに落とし込んだ際に、さまざまな課題が発生してしまうのです。プロジェクトは頓挫するか、強引に進めても当初予定していた効果を得られません。まさに、「高度なソリューションが導入されただけのセンター」になってしまうのです。

戦略策定時を成功に導くためのポイント

コンタクトセンター戦略を策定し、「高度なソリューションが導入されただけのセンター」とならず、「高度にソリューションを活用するセンターの実現」を成功するためには、戦略策定方法論、ITソリューション導入力、現場でのITソリューション利活用知見などをバランスよく持っていることが必須です。

当社は、コンタクトセンター運用を40年来続け、年間3000件以上の運用実績から、さまざまなITソリューションを使い込んで、その利活用知見を蓄積しています。アウトソーシング部隊とは別に、横串のソリューション専門部隊を持ち、戦略・業務コンサルティングや、市場競争力のあるITソリューションを導入し、カスタマーサクセスを通じて、継続的改善を実行するソリューションコンサルティグを提供しています。それらの膨大な業務知見、業界知見、内部ベンチマークなどを通じて、成功や失敗事例を収集し、フィードバックを得ながらサービスを改善、改革してきたのです。そのノウハウにより、戦略策定実施のポイントを解説します。

内部環境調査

コンタクトセンターは業種、業界や求められる役割により様々な課題を抱えています。まずはその内部環境を調査することで、さまざまな課題を可視化するのです。課題を網羅的に抽出するためには方法論の活用が大切です。定量、定性の両面から、課題を抽出するためのアプローチを使います。

定量分析では、センターで扱っている生産性を検証するため、呼量、AHT、ACW、時間帯別要員数などの基礎データや、応答率、サービスレベルなどの主要KPIを把握し、それをコンタクトセンターの生産性モデルに投入します。それによって、稼働率などを計算し、類似(業界、業種、規模)の他社センターの数値や、平均値と比較しながら、課題を可視化するのです。同時に、呼量に対する、サービスレベルを満たすための必要要員数も可視化できるため、具体的な施策も見いだせます。

定性調査では、現場の負担を最小限に留めつつ、幅広に意見を集めるために、簡易アセスメントの質問票を使って、なるべく多くの人や、いろいろな役割・職位の人からアンケートで意見を収集します。その分析結果から、深堀するべきポイントと対象者を定め、課題の仮説を用意してインタビューを実施します。必要に応じて、センターの業務を観察し、やりとりやシステム利用、ナレッジ利用の現状を把握したり、手上げなどのエスカレーションの様子を観察したりもします。このように、多面的な手法を用いて調査や分析をするわけですが、より課題を網羅的に把握するために、分析のフレームワークを使います。

分析のフレームワークとは、以下の6つ視点です。

  • 戦略:
    上位方針に則りセンターのミッションが策定されているか、全てのメンバーに共通理解がなされているか など
  • プロセス:
    運用上のフローは適切に整備され、常に最新化が図られているか など
  • 組織/体制:
    役割別(管理者、オペレータなど)などの役割は明確に定義され、適切に配置されているか など
  • 人員/スキル:
    役割別(管理者、オペレータなど)の役割別のスキルは定義され、育成計画やスキルアップの仕組みが整っているか など
  • システム/ツール:
    コンタクトセンターに必要なシステムは揃い、機能性や操作性、レスポンスは担保され。一元的に情報の管理がなされているか など
  • マネジメント:
    管理者がオペレータの管理を最適に行える仕組み、プロセスが整備されているか など

これら6つの視点から漏れなく問題・課題を可視化することができ、その後の改善機会ににも有効な基礎情報となるのです。

6つの視点で解決策を導く標準フレームワーク

コンタクトセンター戦略を成功に導くための3つのポイント 1

外部環境調査

内部環境調査と並行して、センターを取り巻く市場動向、技術トレンド、ライバルの動きなどを知る外部環境調査も重要です。

昨今では、コミュニケーションの手段が劇的に変わり、従来の電話のお問い合わせが減少。デジタルへの以降が進み、社会全体の高齢化に伴う採用状況が悪化、簡易なお問い合わせが自動化に流れることでセンターへの入電は難易度が高いもののみが残るなど、センターの高度化が求められる時代となりました。

このような状況をの中で、自社のコンタクトセンターに大きなインパクトを与える要素はなにか?自分たちが目指すべき、意識すべき、高度化の方向性とはなにか?を知るのが、外部環境調査です。

デスクトップリサーチでは、蓄積され定期的に更新される市場動向情報から、センターに関連の強い要素を抜き出し、その中で、どういうポイントを考慮すべきかを徹底的に洗い出します。また、当社の膨大な業務知見から、似たような業種や業務を特定し、社内インタビューを通じて、重要な高度化テーマや、現場が困っている課題の仮説を作成する場合もあります。

顧客の行動分析を行いペルソナを設定し、カスタマージャーニーを可視化した上で、顧客体験の可視化と、タッチポイントごとの問題点を顧客視点で見つけます。場合によっては、サポートサイトにツールを埋め込み、実際の顧客行動を可視化することで、改善・改革に向けたヒントが生まれます

また当社では、これまでのコンタクトセンター運用の知見とコンサルティングの実施経験から、センターの高度化モデルを持っており、そのモデルとのGAPを可視化することで、あるべき姿に向けての、課題や改善機会を、効率的に抜き出すことができます。

モデルの主な要素

  • 顧客にとっての最適なチャネルの提供
  • オペレータが均一な生産性・品質で業務実施
  • 統合CRMシステムと外部アプリが連動
  • 専門部隊によるナレッジやコンテンツ継続的改善
  • 店舗や外部社員などとのシームレスな連携
  • VOCを活用し製品・サービスへのフィードバック
  • AIなど先端技術を利用した業務効率化や自動化

またこのモデルを支える、すでに実現し利用されている公式ソリューション群があるため、戦略が確定して、その仕組みが必要になれば、即利用することができるのも利点です。ちなみに、それらのソリューションは、ベスト・オブリード戦略を取り、継続的なマーケティング調査にもとづき、市場での勝ち馬を常に取り入れ、その導入に必要な専門家や技術者も数多く有しています。

目指すべき姿へのアプローチ

コンタクトセンター戦略を成功に導くための3つのポイント 2

改善機会手法

内部・外部環境調査により抽出された課題を、最終的にあるべき姿へ落とし込むにあたり、改善機会と言われる討議手法を利用します。改善機会手法とは、お客様企業と当社が、課題を解決するための可能性のある施策や方法を、あらゆる視点から洗い出して、すべて記述することから始めます。
例えば、

  • 可視化した課題を、個別に解決する施策
  • 現場の管理者が持っているアイデア
  • マネジメンが実現したい要望
  • 類似業務での成功事例が具体的施策
  • 高度化モデルとのGAP
  • 現場にあるシステムやルールへの改善要望

などさまざまです。プロジェクト関係者はもちろん、関連する部門までを巻き込み、多面的、多層的に討議を実施します。改善機会の数は、少なくても50。
多いと300項目にも及び、それぞれは具体的かつ、わかりやすい表現でまとめられます。また、当社では、過去の改善機会の項目がデータとして蓄積され  ているため、アイデアが足りない場合などは、そこから補ったり、改善機会のイメージが沸かず、討議が進まない場合は、それらの事例を抜粋して先に提示したりします。

こうして改善機会が集まると、それを分類し、レベル分けをし、同じ内容は合算、複雑な内容は分割します。抜本的に考えるレベル、業務的に考えるレベル、やればすぐにできるレベルなどに分け、それらに従属関係がある場合は関連付けます。

最後に、各項目の実行の難易度と効果を算定し、

  • 難易度高 : 効果高 >優先度高いが要検討
  • 難易度高 : 効果低 >保留
  • 難易度低 : 効果高 >最優先実施
  • 難易度低 : 効果低 >まずやってみる

 などの優先度を設定し、目標とする期日までに何を実行するのかを振り分けます。その中で、優先度が高い改善機会のうち、抜本的なものはあるべき姿のグランドデザインに反映され、業務的なものは、施策のロードマップに展開されます。やればすぐにできるものは、Quick Win と呼ばれ、現場で意思決定をして即実行に移します。難易度が高い項目は、実行に向けた具体策や、実行のためのコストの試算も必要です。

解決方向性を導くための改善機会討議アプローチ

コンタクトセンター戦略を成功に導くための3つのポイント 3

改善機会討議にて合意した実行テーマ

コンタクトセンター戦略を成功に導くための3つのポイント 4

あるべき姿の策定

改善機会の優先を設定した結果を、センターのグランドデザインに反映し、センターのあるべき姿を策定します。あるべき姿は、全体を俯瞰したイメージに実施するテーマや仕組みが描かれ、それが詳細化されて、改革に向けた、ハイレベルのビジネス要件やシステム要件、その前提となる全社での実施テーマなどが定義されます。

また、それらの各要件を具体的に実現するためのソリューションやシステム、そられを利用して行われる業務のイメージを可視化します。センターだけに留めるのではなく、顧客視点にたち、センターに関連する全部の部署や仕組みを含めて可視化することも大切です。

これらをまとめ、あるべき姿を実現するための、全社での実施テーマ、ソリューションやシステムの導入、業務上の施策をなどもれなく洗い出し、それを目標期日と、順序関係や優先度を踏まえて、ロードマップとして表現します。実施のための総コストと、そこから得られる定性・定量のメリットをあわせて、ROIを算定することで、より具体的な改革プランが完成し、戦略策定が完了します。

外部環境、内部環境を踏まえたセンターのあるべき姿全体像

コンタクトセンター戦略を成功に導くための3つのポイント 5

まとめ

センターの品質を維持、向上させるためには、コンタクトセンターの戦略策定が必要不可欠です。しかしながら戦略策定には高度な知見必要になります。コンサルティング会社は机上の空論になりがちで、ITベンダーはプロダクト偏重になる傾向があります。内製では、現場課題中心になり、改革に膨大な時間がかかることが多いのです。
「高度なソリューションが導入されただけのセンター」にならず、「高度にソリューションを活用するセンターの実現」を成功させるためには、戦略策定方法論、ITソリューション導入力、現場でのITソリューション利活用知見などをバランスよく持っている有識者をプロジェクトに迎えます。そして実証された方法論にもとづいて戦略を策定することが重要になります。

執筆者紹介

衣笠 雄海
衣笠 雄海
新卒から約10年間コンタクトセンターの運用管理を経験。センター構築から業務改善、品質管理、PL管理を行い、最終的に1拠点のセンター長としてセンター管理も経験。その後コンサルティング部に異動し、上流及び業務コンサルティングを中心に業界問わず約20件程度のプロジェクトを経験し、現在はプロジェクトマネージャーとして様々なプロジェクトの全体管理を行っている。
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