AIといえば、画像認識や音声認識をはじめとして、特定の機能に特化した技術だというイメージがあるかもしれませんが、近年では異なる形式のデータを統合的に扱える「マルチモーダルAI」が注目を集めています。本記事では、マルチモーダルAIに関する基本知識や可能性について解説するとともに、具体的な活用例を紹介し、私たちの生活にどのような影響を与えるのかを探ります。
マルチモーダルAIとは
マルチモーダルAIとは、テキスト、画像、音声などの異なる種類のデータを組み合わせたり、関連付けたりして、統合的に処理できる人工知能モデルです。「マルチモーダル」とは「複数」を意味する「Multi」と「形式や手段」を意味する「Modal」を組み合わせた言葉です。
マルチモーダルAIの特性をイメージしやすいように、生成AIを例に挙げてみます。昨今、大きく注目を集めている生成AIも、多くはマルチモーダルAIに分類されます。例えば、生成AIサービスのなかには、チャットで指示されたプロンプト(命令文)にもとづいて画像を生成するものがあります。画像生成機能を実現するには、自然言語処理を用いてユーザーの指示を正確に理解し、画像生成技術を駆使して具体的なビジュアルを作成するという複数のデータ形式を統合して処理する能力が必要です。
そのほかにも身近なところでは、PDF形式のドキュメントをテキストデータに変換したり、音声データをテキストデータ化したりする機能もマルチモーダルAIの能力によって実現されています。このようにマルチモーダルAIは、複数のデータ形式に柔軟かつ統合して対応することが可能です。
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シングルモーダルAIとの違い
マルチモーダルAIと対比されるモデルにシングルモーダルAIがあります。シングルモーダルAIは、画像認識なら画像のみ、音声認識なら音声のみといったように、単一のデータ形式を処理する人工知能モデルです。上述した通り、マルチモーダルAIは異なる形式のデータを関連付けながら処理できるため、シングルモーダルAIより複雑なタスク処理や高度な情報処理を行っています。
マルチモーダルAIにできること・事例
続いては、シングルモーダルAIとの違いを踏まえつつ、マルチモーダルAIにできることを、
- 行動認識
- 異常検知
の事例で紹介します。
行動認識
マルチモーダルAIは画像・音声・動作などの情報を統合的に処理できるため、従来のシングルモーダルAI以上に精緻な行動認識が可能です。例えば、シングルモーダルAIを搭載した防犯カメラの場合、異常を察知するための判断基準は「映像のなかに別の人間が侵入してきたかどうか」や「映像内で物が破壊されるなどの状況変化が起こったかどうか」といった、目に見える要素に限られます。
マルチモーダルAIの場合には、映像に加えて「不審な物音」「物騒な言葉」などの音声データもあわせて解析し、より的確な状況判断を行います。防犯カメラに搭載されれば、異常事態の発生をより高精度に察知できます。
異常検知
工場などの生産現場における異常検知にも有用です。従来の異常検知システムは、単一のセンサーやデータソースに依存していましたが、マルチモーダルAIであれば、複数のセンサーやデータ形式を統合して解析できます。例えば、振動センサー、温度センサー、湿度センサーなどのセンサーデータに加え、映像データや音声データも組み合わせて処理することが可能です。機械の異音や異常な振動、過熱などをいち早く検出し、予防的なメンテナンスを実施できるようになります。
さらに、対話ロボットと人間との対話が破綻しないようにするためにも効果的であると考えられています。現状の対話ロボットは、音声から語句を抽出したうえで解析し、人とコミュニケーションを取るのが基本です。しかし、人と円滑な意思疎通を図るには、表面的な言葉だけでなく、身振りや表情などの見た目から得られる情報も重要です。マルチモーダルAIであれば、これらの情報も使って人の様子を判断できるため、より円滑なコミュニケーションを実現できるようになります。
マルチモーダルAIの活用展望と期待される分野
上記のような特徴をもつマルチモーダルAIは、幅広い分野での応用が期待されています。ここでは、具体的な応用事例として「医療」「製造」「自動車」「マーケティング」の分野における活用展望を紹介します。
医療
AIは医療分野においてもすでに広く活用されていますが、マルチモーダルAIは医療における応用範囲をさらに広げるものとして期待されています。例えば、がんなどの病気を発見するためには、CTやレントゲンなどの画像を解析しますが、マルチモーダルAIであれば、画像だけでなく、複数の検査データ(数値データ)の結果も解析対象に取り入れ、病気をより早期に発見したり、より適切な治療計画を策定したりできるようになるのではないかと期待されています。
製造
マルチモーダルAIは製造業でも重要な役割を果たします。先述のように異常検知に用いれば、生産設備の予防的なメンテナンスや製品の品質向上のために効果的です。あるいは少子高齢化がさらに進行し、製造業では今後、人と協働するロボットが現在以上に必要になると予想されていますが、その際、ロボットにはいまよりもマルチで複雑な機能が求められるはずです。マルチモーダルAIが活用されるシーンは多くなるのではないかと見込まれています。
自動車
自動車の分野では、特に自動運転技術を実現するための鍵として注目されています。安全かつ効率的な自動運転を可能にするためには、運転手役であるAIが、周囲の状況をリアルタイムで正確に認識する技術が欠かせません。そこで重要になるのが、ドライブレコーダーや交通カメラの映像、マイク音声、GPSデータなどを統合的に処理できるマルチモーダルAIの能力です。マルチモーダルAIが搭載されることによって、自動運転車は人間の運転手のように周囲の車や歩行者、信号、障害物を正確に認識し、適切な運転ができるようになるものと期待されています。
マーケティング
マルチモーダルAIの活用はマーケティング分野でも進んでいます。例えば、売上データや市場調査結果といった定量的データに加えて、店舗内のカメラ映像や顧客の会話内容といった定性的データを統合的に解析することで、顧客の購買行動や感情、ニーズをより詳細に把握できるようになります。これらの解析結果によって、製品の改善点が抽出され、新たなビジネスチャンスが創出されます。マルチモーダルAIはマーケティング活動の効果を最大化するのに大きく寄与します。
まとめ
マルチモーダルAIには、複数のデータ形式を統合的に処理する能力があり、従来のシングルモーダルAIに比べて、柔軟かつ精緻な情報処理を行えます。医療・製造・自動車・マーケティングをはじめとした、さまざまな分野での活用が期待されており、今後、さらに多くのシーンで活用が進んでいくはずです。
マルチモーダルAIは、コンタクトセンター業界にとっても魅力的な技術であると考えられます。例えば、ベルシステム24が提供するクラウド型コンタクトセンター基盤サービス「BellCloud+®」は、音声認識やテキストマイニングなどにシングルモーダルAIの技術が使われたシステムと連携して安定稼働しています。ここへさらにマルチモーダルAIの技術を融合させれば、顧客体験の質を飛躍的に向上できる可能性があります。
マルチモーダルAIはいまだ発展途上ですが、今後ますます私たちの生活やビジネスを大きく変えていく可能性を秘めている技術です。クラウド型コンタクトセンター基盤サービスを組み合わせることで、革新的なソリューションが開発される未来は近いかもしれません。
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