- AI BPOの定義と特徴
- AI BPO 導入の主なメリット
- AI BPOの主な活用シーン
- AI BPO導入時の課題
人手不足や業務の複雑化が進む中で、従来のBPOだけでは対応しきれないと感じている企業が増えています。こうした課題への新たな選択肢として注目されているのが、AI技術を取り入れた「AI BPO」です。
本記事では、AI BPOの基本概要から、導入が進む背景、従来のBPOとの違い、導入のメリットや代表的な活用シーンなどについて解説します。

AI BPOとは?
AI BPOとは、業務の一部を外部の専門会社に委託するBPO(Business Process Outsourcing/ビジネス・プロセス・アウトソーシング)にAI技術を組み合わせた、新しいアウトソーシングの形態です。従来は人手で対応していた作業をデジタル処理へと置き換え、チャット対応の自動化や文章生成、文書の読み取り・要約などをAIが担うことで、対応スピードと処理精度の向上が期待できます。
定型業務にとどまらず、一定の判断を伴うプロセスにもAIを活用できるようになるため、従来型のBPOよりも柔軟で付加価値の高い業務設計が実現できます。
なお、BPOの概要やメリット・デメリットについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
AI BPOが求められる背景
労働人口の減少や業務内容の高度化が進むにつれ、従来の人手に依存したBPOでは対応が難しい場面が増えており、業務運営のあり方そのものが見直されるようになっています。
このような状況の中、単なる業務委託にとどまらず、データの利活用や業務プロセスの改善まで含めた役割がBPOに求められるようになりました。特にデジタルトランスフォーメーションが進展する現在では、業務のデジタル化に加え、蓄積した情報をもとに的確な判断や改善ができる体制づくりが重視されています。
その点でAIは、24時間稼働による安定した運用や処理の均一化を実現しやすく、効率化と品質維持の両立を目指す企業から注目を集めています。
従来のBPOやデジタルBPOとの違い
従来のBPOは、問い合わせ対応や事務処理などを人が代行する形が中心であり、業務品質が担当者の経験やスキルに左右されやすいという特徴がありました。
一方、デジタルBPOは、RPAなどのITツールを活用して定型業務の自動化を進める手法で、処理速度の向上など一定の効率化は可能ですが、人が対応してきた複雑な業務の多くは代替できません。
これに対してAI BPOは、文書内容の理解や回答の生成といったAIの機能を取り入れることで、従来は人の判断に頼っていた業務にも対応できる点が特徴です。そのため、AI BPOはデジタルBPOの延長線上に位置づけられますが、生成AIなどの新しい技術を活用することで、単なる効率化にとどまらず、付加価値の創出まで期待できる点に大きな違いがあります。
AI BPOを導入するメリット
AI BPOを導入することで、企業は業務効率の向上や運用体制の見直しなど、さまざまなメリットが得られます。ここでは、AI BPOを活用することで得られる主なメリットについて詳しく解説します。
業務の効率化を行える
AIは、データ入力や文書作成といった定型業務を人の手作業よりも高速に処理できるため、作業時間の大幅な短縮が可能になります。加えて、複数の業務を並行して処理できることから、短期間で大量の業務に対応できる体制を構築しやすくなります。
また、AIの導入により、日常的な事務作業にかかる負荷が軽減されます。その結果、従業員は分析や企画など付加価値の高い業務に専念できるようになり、組織全体の生産性向上が期待できます。
業務精度の向上に役立つ
AIはあらかじめ定められたルールに基づいて処理を行うため、作業のばらつきや誤入力といった人為的なミスの発生を抑え、業務の信頼性を高めます。そのため、手作業に依存していた業務でも処理のミスが起こりにくくなり、安定した成果が期待できます。
加えて、過去の取引履歴や対応記録など大量の情報を解析することで、経験や勘に頼らない客観的な判断や予測の支援が可能です。担当者ごとに品質が変わるといった属人的な課題を解消し、常に一定水準のサービス提供につながります。
人材不足の解消に役立つ
近年、多くの企業で人手不足が深刻化する中、業務の自動化を実現できるAIの導入は、有効な選択肢のひとつとして注目されています。人の作業を最小限に抑えながら業務を進められる体制の構築により、採用活動や育成にかかる負担を抑えられます。
さらに、AIは時間や曜日に縛られず稼働できるため、従来は人員不足によって対応が難しかった業務においても安定した運用が可能です。その結果、限られた人材でも業務品質を維持しやすくなり、組織全体の運営基盤の強化につながります。
スケーラビリティが向上する
企業活動においては、取引量や問い合わせ数が時期や施策によって大きく変動することがあります。しかし、AIを活用した体制であれば、業務量の増減に応じて処理能力を柔軟に調整できます。これにより、従来のように人員の確保や教育に時間をかけることなく、変化に対応しやすくなります。
さらに、短期間に業務が集中する場面でも、システム上で処理体制を拡張できるため、対応遅延や品質低下の防止につながります。その結果、需要の変動に左右されにくい運用が可能となり、安定したサービス提供を実現しやすくなります。
コストを削減できる
業務の一部をAIに任せることで、人員配置に伴う人件費や新人教育にかかるコストを抑えやすくなります。作業を自動処理できる領域が広がるほど、外注費や間接費を含めた運用コストの見直しが進みます。
加えて、AIは定められたルールに沿って処理を行うため、入力ミスや確認漏れといったヒューマンエラーが起こりにくく、やり直しやクレーム対応にかかる負担も軽減されます。特に問い合わせが集中しやすいコンタクトセンターでは、AIチャットボットの活用により一次対応を自動化できるため、対応件数の増加に伴うコスト上昇を抑える手段としても有効です。
なお、AIチャットボットの特徴やメリットについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
AI BPOの活用シーン
企業の現場では、業務領域ごとに課題や作業内容が異なります。そのため、同じ仕組みを導入しても、部門によって活かし方は大きく変わります。ここでは、AI BPOがそれぞれの現場でどのように活用されているのかを紹介します。
カスタマーサポートで活用する
カスタマーサポートの分野では、AIチャットボットが問い合わせの一次対応やFAQへの自動応答を担うことで、オペレーターが対応すべき案件を効率的に振り分けられるようになります。これにより、定型的な質問は自動で処理され、担当者はより個別性の高い相談や判断を要する対応に集中しやすくなります。
さらに、音声認識技術を活用することで、電話応対の内容が自動的にテキスト化され、記録や入力にかかる作業時間の削減が可能です。その結果、後処理の負担が軽減されるだけでなく、応対履歴の蓄積や検索もしやすくなり、業務効率と対応品質の両面での向上が期待できます。
財務・会計処理で活用する
財務・会計の分野では、AI-OCRを活用して請求書や領収書などの紙文書や非定型書類から必要な情報を読み取り、データ化する作業を効率化できます。これにより、手作業で行っていた入力業務の負担が軽減され、経費精算や請求書の作成・送付、支払い状況の管理といった一連の業務を自動化しやすくなります。
さらに、抽出されたデータを適切な勘定科目へ自動で分類する機能により、仕訳処理の正確性が高まり、確認作業にかかる時間の短縮にもつながります。その結果、経理担当者はチェックや分析など、本来注力すべき業務に時間を割けるようになり、部門全体の生産性向上が期待できます。
人事管理で活用する
人事管理の分野では、AIが企業の求める人物像に沿った求人票やスカウト文を短時間で作成できるため、採用担当者が原稿作成に費やす時間や負担の軽減につながります。これにより、募集内容の検討や応募者とのやり取りなど、本来注力すべき業務により多くの時間を充てられるようになり、採用活動全体の効率化が進みます。
さらに、勤怠管理や給与計算といった定型的な業務をAIと人が役割分担しながら処理することで、入力ミスや確認漏れなどのヒューマンエラーの発生を抑えやすくなります。その結果、人事・労務部門は制度設計や人材育成など付加価値の高い業務に集中しやすくなり、組織運営の質の向上が期待できます。
マーケティングで活用する
マーケティング分野では、顧客の声やアンケート結果、市場の動向といった多様なデータをAIが解析することで、ニーズや傾向を短時間で把握できるようになります。これにより、従来は人手で行っていた集計や分析にかかる負担が軽減され、より迅速な施策の立案が可能になります。
さらに、施策の効果を予測する精度が高まり、データに基づいた広告文やコンテンツの自動生成・最適化が進むことで、制作に要する手間やコストの削減も期待できます。その結果、担当者は企画立案や戦略設計といった創造性の高い業務に集中しやすくなり、マーケティング活動全体の質の向上につながります。
データエントリーで活用する
データエントリー業務では、紙の書類やアンケート、申込書などに記載された情報をAIが自動で読み取り、デジタルデータへ変換することで、入力作業を大幅に効率化できます。これにより、大量の書類を短時間で処理できるようになり、それまで手作業に費やしていた時間の削減が期待されます。
さらに、人為的な入力によって発生しがちな打ち間違いや転記ミスが減り、データの正確性や信頼性の向上にもつながります。その結果、担当者は確認や分析といった付加価値の高い業務にリソースを充てやすくなり、組織全体の業務品質の向上が見込めます。
AI BPO導入時の課題
AI BPOを導入する際には、業務との相性や運用体制を事前に整理することが大切です。単にツールを導入するだけでは十分な効果は得られず、状況によっては業務フローの見直しや社内ルールの整備が必要となることもあります。
また、運用開始後のサポート体制や継続的な改善の仕組みをあらかじめ検討しておくことで、導入後のトラブルや定着の遅れを防ぎやすくなります。
ここでは、AI BPOの導入にあたり注意すべき課題について解説します。
精度の高い学習データが必要となる
AIのパフォーマンスは、学習に使うデータの質と量に大きく左右されるため、不完全な情報をもとに運用すると、誤った回答や判断のばらつきが生じるおそれがあります。
そのため、社内に散在する帳票類や履歴データをAIが処理可能な形式に整え、不要な情報の除去や項目の統一など、適切な前処理を行うことが欠かせません。加えて、最新の情報を継続的に取り込めるよう、データ更新のルールや管理体制をあらかじめ整備しておくことも求められます。
また、導入後も想定どおりの成果が得られているかを確認しながら調整を加え、継続的に精度を高めていく運用体制を構築する必要があります。
情報セキュリティ対策・強化が必要となる
AIを活用した業務委託では、顧客情報や社内データなど機密性の高い情報を取り扱う機会が増えるため、情報漏えいへの対策を十分に講じることが欠かせません。
そのため、サービス提供事業者が採用しているデータの暗号化、アクセス制御、利用者認証といった仕組みを事前に確認し、自社のセキュリティ要件を満たしているかを見極める必要があります。併せて、障害発生時や不正アクセスが疑われる場合の対応方針についても、事前に確認しておくことが求められます。
また、AIの出力内容に含まれる誤情報や不適切な表現のリスクに備え、利用履歴の管理や個人情報の取り扱い方針を明確にするなど、運用面におけるルール整備も求められます。
AI人材の確保が必要となる
AI BPOを安定的に運用するには、ツールの設定や業務プロセスへの適用、効果測定といった工程を担える専門知識を持つ人材の存在が不可欠です。
そのため、生成AIの特性を理解し、業務内容に応じた指示や調整を行える担当者を配置し、社内にノウハウを蓄積していく体制づくりが求められます。さらに、担当者が固定化されないよう情報共有や教育体制を整備し、属人化を防ぐ視点も大切です。
十分な人材を社内で確保できない場合には、知見を持つBPO事業者と連携し、導入から運用までを伴走型で支援してもらうことも有効な選択肢のひとつです。
まとめ
AI BPOは、経理・人事・マーケティングなどさまざまな分野において、業務の自動化や高度化を実現する有効な手段です。しかし、単に導入すればよいわけではなく、学習データの整備や情報セキュリティの確保、専門人材の関与といったポイントを事前に整理し、仕組みだけでなく運用体制まで見据えた検討が欠かせません。
導入を検討している企業は、まず自社の業務内容や課題を明確にし、AIと相性のよい業務から段階的に検証していくことが現実的です。外部パートナーの活用も視野に入れつつ、無理のない形で運用体制を整えていくことが、継続的な活用につながります。
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