音声認識とは、音声データから会話の内容をテキストに起こす技術のことです。AI技術の進化に伴い音声認識技術の精度は飛躍的に進歩しており、ビジネス用途においても、コールセンターや製造業など、さまざまな分野で活用が進んでいます。
音声認識の仕組みやビジネスで活用するメリット、実際の活用例について理解を深め、自社の業務効率化に役立ててください。
AIによる音声認識とは?
音声認識とは、人間の発した声を文字に変換する技術やそれを用いたシステムのことを指します。AI技術の発展により、以前より高い精度で声のパターンを解析して、文字に変換できるようになりました。
音声認識技術の仕組み
音声認識技術とはどのようなものなのでしょうか。基本的な仕組みと、ディープラーニングを用いた手法について紹介します。
音声認識技術:デコーディング
音声データをテキスト化することを「デコーディング」と呼びます。デコーディングは次のような作業が行われています。
- 音声のコンピュータ分析…音声データをコンピュータが理解しやすいように、デジタルの波形データに変換する
- 音素を抽出(音響モデル)…変換したデータから音素を抽出して、どの音と近いかをパターン認識する
- 発音辞書によるパターンマッチ…認識した音の並びが、どの単語に近いかを照合する
- 適切な文章の組み立て(言語モデル)…単語と単語の関係性を考慮して、意味の通った文章を組み立てる
以下、それぞれの工程について詳しく解説します。
1. 音声のデジタル化(音響分析)
元の音声データから特徴量を抽出し、AIが認識しやすいデータに整形します。この作業が「音響分析」です。具体的にはアナログ信号である音声をデジタル信号の波形データに変換し、音素を抽出し、ノイズを除去します。
2. 音素を抽出(音響モデル)
元の音声から抽出された特徴量が、どの音素に近いのかを見つけ出します。音素とはその言語における最小単位の音で、日本語の場合は母音や子音、撥音の組み合わせを指します。
この作業を「音響モデル」といいます。音響モデルでは主に、時間経過で変化する特徴量を確率モデルで捉える「隠れマルコフモデル」という手法が用いられます。
3. 発音辞書によるパターンマッチ
音素を発音辞書と連結して、単語単位に組み立てます。「発音辞書」とは、音響モデルから導き出された音素が、どの単語と近いかを照らし合わせるためのデータベースのことです。
4. 適切な文章の組み立て(言語モデル)
「言語モデル」とは、発音辞書で特定した単語と単語、品詞などの出現頻度をモデル化したものです。文章をN個の文字または単語に区切る「N-gramモデル」がよく利用されます。ここでは、文章の学習データを大量に蓄積・処理して出現頻度を記録し、認識したいデータと照合して、出現する確率が高い文章に整形します。
ディープラーニングを取り入れた手法
現在の音声認識技術では、ディープラーニングが導入されています。音響モデルとして「ディープニューラルネットワーク(DNN)」を取り入れた「DNN-HMM」が、言語モデルとしては、N-gramと「リカレントニューラルネットワーク(RNN)」が併用されるようになっています。
さらに、音響モデルや言語モデルを組み合わせるのではなく、ひとつのニューラルネットワークにより音声認識を実現する「End-to-End」モデルも登場しており、今後の主流になる可能性が高いともいわれています。
音声認識をビジネスに活用するメリット
AIのディープラーニングが活用されるようになったことで、音声認識技術の精度は近年著しく向上しました。
今や、音声認識技術は一定品質の音声であれば認識率90%を超えるまでに進歩しており、人間と同等のレベルにまで達しています。画像認識と並び、実利用が進んでいます。
次に、音声認識技術をビジネスに活用することで、どんなメリットがあるのかお伝えします。
業務効率化や入力ミスの軽減
文字入力を半自動化できるため、業務効率化やミスの軽減などのメリットが期待できます。
例えば、議事録作成において、従来では録音された音声を聞いて手動でタイピングし、テキスト化していました。音声認識技術を使えば、音声データを半自動でテキスト化したものを整形すればよいので、時間削減・負担軽減につながります。
政府内でも、省庁で実施される会議や打ち合わせに必要な議事録の作成作業を効率化するため、音声認識サービスの実証実験を行うなど、導入が検討されています。
参照:AI を活用した音声認識技術による自動文字起こし及び自動要約の実証実験|総務省
ハンズフリー入力が可能
音声認識技術を用いた音声入力を利用するメリットは、手が濡れている、荷物を持っているといった手が使えないシチュエーションでもテキスト入力が可能なことです。キーボード操作に慣れていない人でも入力ミスを減らせるといったことも挙げられます。
音声認識のデメリット
音声認識を利用するメリットは少なからずありますが、適切に活用するためにデメリットも把握しておきましょう。
標準語以外(方言)の認識に弱い
発音辞書は一般的に標準語をもとに作成されているため、例えば方言や独特の言葉遣い(若者言葉・スラングなど)は、サンプルが少なく認識が困難な場合があります。また業界用語や社内の特殊な用語も、正確に認識できない場合があります。
出力テキストからは発話者の識別ができない
音声認識においては、音声データを一括で波形データに変換して解析するので、出力されたテキスト上では発話者が区別されません。音声処理アルゴリズム上で話者を区別する技術の発展が待たれている状況です。
また、複数人が同時に発話する環境で録音された音声は、特徴量を抽出しにくくなります。
業界を支える「音声認識」の活用事例
音声認識技術は、多様な業界で利活用が進んでいます。ここでは、3つの活用事例をご紹介します。
金融業(クレジットカード事業)
あるクレジットカード会社では、コールセンター業務にリアルタイム音声認識技術を導入しています。音声認識技術の導入により、通話しながらリアルタイムで音声をテキストに変換・表示できるようになりました。オペレーターがゼロから入力する手間がなくなり、時間削減と業務効率化を実現しました。
なお、電話の場合は伝送時の帯域を制限しているため、通常の音声よりも認識しにくい特殊な信号となります。そのため、電話音声用に学習した専用のモデルを使用すると、認識精度が高くなります。
医療・病院
ある病院では、音声認識技術を活用した音声入力を業務に導入しています。キーボード入力をせずに済むので、高齢でPC操作が苦手な先生でもスムーズにテキストを入力できるようになりました。変換ミスを減らしつつ入力スピードも速くなったことから、電子カルテのほか紹介状や報告書作成にも活用されています。
製造業
ある自動車工場では、完成した製品の監査業務における入力ミスや、担当者の負担軽減などを目的に音声認識システムを導入しました。従来は、人が計測した情報を紙に記載した後、さらにそれをPCに転記していたため、時間がかかるうえ転記ミスも発生していました。
システム導入によって、測定業務の結果を音声で入力できるようになり、転記プロセスそのものも削減されました。導入から3カ月後には、業務時間をおよそ3分の2にまで削減することに成功しています。
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音声認識ソフトの選び方
音声認識ソフトの導入を検討している際は、次のような点に着目してください。
音声認識の精度
音声認識ソフトを選ぶうえでまず確かめたいのが、音声認識の精度です。製品によって音声認識の精度は異なります。精度が低い製品を導入してしまうと、結局手作業で修正する手間が増えてしまいます。
無料で利用できるトライアル期間を設けている製品であれば、事前に精度を確認して導入を検討してください。トライアルがない場合は、インターネット上の口コミなどをチェックしてみましょう。
登録単語数
また、十分な数の単語が登録されている製品を選ぶのも大事なポイントです。音声認識ソフトは、音声を聞きとったうえで、登録されている単語のなかからベストな単語を選択します。つまり、より多くの単語を登録した製品であるほど、違和感のない自然な文章を作成しやすくなります。
特定の業界に特化し、専門用語を豊富に登録した製品などもあるので、用途に応じて選びましょう。
ソフトの操作性
製品の操作性も確認が必要です。操作が複雑で難しい場合は、従業員が使いこなせないかもしれません。そのような場合は、導入前よりも業務効率が低下してしまうおそれがあります。操作性は実際に試してみなければ分からないため、なるべくトライアル利用できる製品で事前にチェックし、導入の可否を検討するようおすすめします。
機能性
どのような機能が実装されているのかも、事前の確認が必要です。製品によって実装されている機能は大きく異なります。辞書登録機能や自動学習機能、翻訳機能などを備えた製品が多いものの、独自の機能を実装したものもあります。自社が求める機能をリストアップしてから、それらの機能を備えているかを確かめましょう。
コストパフォーマンス
予算の範囲内で導入できるかどうかも大切なポイントです。気になる製品をいくつかピックアップし、価格や機能などを比較しつつ検討しましょう。
まとめ
現在の音声認識技術では、AIがシステムに登録された学習データをもとに、音声を認識してテキストに変換して出力します。AI技術の発展により精度は高まっていますし、辞書の内容や学習データが充実しているほど、音声認識の精度も高まります。
音声認識システムを選定する際は、データの充実度や音声認識の精度、操作性などから自社に合ったものを見極めましょう。システムの比較検討に、下記の資料もお役立てください。
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