昨今のコンタクトセンター向けソリューションには感情解析機能を搭載しているものが増えています。一方で、この機能がコンタクトセンターの運営や業務にどのように寄与するかというイメージや活用のナレッジはまだあまり浸透していないように思われます。
本記事では、「AmiVoice Communication Suite」の感情解析データの分析事例と、今後の利活用の展望について解説します。
感情解析機能とデータ活用の考え方
感情解析機能の概要
AmiVoice Communication Suiteでは40種類以上の感情が発話毎にスコアとして保存されています。このスコアはテキスト化された結果ではなく、声のトーンなどの音声の情報から算出されており、テキスト化された情報だけでは分からない発話の温度感などが数値化されているものとなります。
このように感情解析機能を用いて、人間が実際に聞かないと把握できない情報をスコアとして可視化できることがコンタクトセンター業務に活かせるのではないかという期待があります。
感情解析機能の活用で陥りがちな考え方
感情解析機能を用いて通話の音声情報が可視化されるとどのような活用ができるでしょうか。多くの方は「お客様の表面的には見えない怒りや不満の感情が知りたい」「オペレータが対応に苦慮している部分が知りたい」といったリアルタイムでピンポイントに感情から状況を把握したいと考えると思います。しかし、これは現状では難しいと考えています。
例えば、AmiVoice Communication Suiteには「不快」という感情があり、お客様が不快に感じるポイントを特定するためにこのスコアが高い部分だけに注目してもおそらく良い知見は得られません。
感情解析機能を活用するうえで重要な考え方
上記のようにピンポイントに特定の感情だけに注目するのが有用でない主な理由は以下です。
- 感情の定義自体が曖昧で、状況とスコアの関連がはっきりしていない。
- 単一でピンポイントな範囲の感情解析データだけでは特徴が表れにくい。
上記の例で言えば、「不快」という感情がどのような意味を持っているのかが明確ではありません。ネガティブな感情であることは間違いありませんが、実体が分かっていないデータをそのまま使っても信頼性は低いでしょう。
そこで、感情解析データを有効活用するためには、感情名やその正しさを前提とするのではなく、実際の状況で感情解析データがどのような特徴を示すのかを把握する必要があります。
また、その特徴を把握する際にできるだけ多く広い範囲のデータを使うことが重要です。統計的に信頼性の高い知見を得るためです。
つまり、ピンポイントで具体的な結果のみからではなく、統計的な傾向から感情解析データの特徴を把握することが必要となります。次章からは広い範囲の感情解析データを用いて得られた知見とコンタクトセンター業務への活用のアイディアをご紹介します。
関連動画のご紹介
オペレータの定着につながる活用
前章の通り、感情解析データは統計的な分析を通して特定の状況における傾向を把握することが重要です。特にオペレータ毎の感情に注目すると同じ人間の感情解析データが蓄積されることになるので、統計的なデータ分析とは非常に相性が良いです。オペレータの感情に注目した活用事例を2つご紹介します。
オペレータの精神的な状態の把握
オペレータ毎に活発な感情を表すスコアを1時間毎に平均して蓄積した事例があります。このデータから時間帯によってスコアが変動することが分かりました。
そこで、スコアが著しく変動している時間帯に何があったかをオペレータにヒアリングしたところ、お客様からクレームを受けていたなどネガティブな出来事が起こっていたことが多く、このスコアをオペレータをフォローすべき目安として設定することで、適切なタイミングでオペレータの精神的なケアにつなげる活用を行っています。
この事例では、感情解析データだけでなく、オペレータにその日の気分のアンケートを取ることも実施しています。アンケートによるオペレータの申告では気分に波がないにも関わらず、実際にはクレームを受けて感情のスコアが変動している場合もあることも明らかになりました。このように表面的な情報だけでは知り得ないようなオペレータの状態も感情解析データから把握することができる可能性を秘めています。
オペレータの音声表現の評価
オペレータの応対品質を評価しているコンタクトセンターは多いと思いますが、声のトーンなど人間が実際に聞かないと評価できない項目もあるかと思います。このような情報も感情解析データを利用してある程度可視化した事例があります。この事例では通話毎に平均した感情解析データと実際に人間が評価した結果をもとに、統計的な手法で感情解析データから実際の評価結果を推測するモデルを作っています。
また、分析の結果、推測される評価結果はオペレータのポジティブな感情が高いほど良く、ストレスに関わる感情が高いほど悪いことも分かりました。つまり、感情解析データを用いて人間にしかできない評価を行えるだけでなく、評価結果がオペレータのストレスと相関しているという傾向も明らかになりました。
(図:オペレータの定着につながる活用イメージ)
これらの事例のように、オペレータの感情解析データを活用することで、目に見えないようなオペレータの状態を把握することができます。これらの情報はオペレータに適切なタイミングでコミュニケーションを取るきっかけを作り、オペレータの定着や離職防止に寄与することができます。
セールス業務への活用
感情解析機能をセールス業務に活用できないかというお客様の声もよく聞きます。こちらについてもセールス業務は受失注などのステータスがはっきりしていることが多いので、それぞれの傾向を知るには非常に都合が良いです。
受失注の要因の分析
アウトバウンドセールス業務を行っているコンタクトセンターの感情解析データを受注通話と失注通話に分けて分析したところ、受注通話の方がお客様の納得感に関わる感情が高い傾向にあるという分析事例がいくつかあります。
これらの業務は扱っている商材が違うにも関わらず、受注に関わる傾向は同じようであることが分かっています。この知見は例えば不快など、ある感情が受注の要因になっているだろうという仮説から得られたのではなく、受失注という明確な分類に基づいて行った感情解析データの分析結果を解釈して得られたものです。
このように、感情ありきの仮説ではなく、分析結果の解釈から知見を得る姿勢が感情解析データの活用では重要になります。また、統計的な手法を用いれば、受注確度を感情解析データから推測するモデルを作成することもでき、通話毎の受注確度をスコア化できます。
さらに、このモデルを発話毎の感情解析データに適用することで発話単位の受注確度のスコアが算出でき、受注確度が高まる部分でどのような発話が行われているかを知ることができます。
通話のテキストデータを合わせた分析
セールス業務ではトークスクリプトが整備されていることも多く、テキスト化されたデータと合わせた分析も有効です。例えば、ある事例では「買いたい」などの明確な購買意欲を示す発話がない通話のみを分析対象とし、購買意欲が高くない通話が受注する要因を特定しようとする例があります。
また、経験的に受注と失注を分けるポイントがある程度分かっている場合もあります。例えば商品説明に入る際に「お時間よろしいでしょうか?」などと聞いたりする場面です。このような場合は、この前後の感情変化にどのような傾向があるかを分析することも有効でしょう。
あるアウトバンドセールス業務では、このようなポイントの前後でお客様の不快に関わる感情が増加しているほど失注の傾向があり、そのような感情を喚起しないような問いかけが重要であることが分かりました。
(図:セールス業務への活用イメージ)
このようにセールス業務はデータが明確に分類されていることと、通話の手順や内容がある程度基準化されているので感情解析データの分析には都合が良く、知見を得やすいでしょう。得られた知見はトークスクリプトの改善などに活かすことにつながります。
感情の傾向によるタイプ分けの活用
感情解析機能を使うと、話し手のタイプを分類することもできます。AmiVoice Communication Suiteでは感情的・論理的なタイプを表すスコアがあり、各通話におけるこのスコアの平均からオペレータとお客様の感情タイプを分類することができます。
さらに、オペレータは通話のデータが複数ある場合が多いので、平均的な感情タイプを推測することもできます。一般的に、感情的な傾向であれば共感力が高く、論理的な傾向であれば課題解決力が高いといったイメージがあります。
このようなタイプ分けと特定の業務の成績との関連が見られた事例がいくつかあります。
セールス業務におけるタイプ分けの活用
あるインバウンドセールスの定期購入促進業務と解約抑止業務をしているコンタクトセンターのオペレータに対して感情解析データをもとに感情的・論理的な傾向に分類したところ、定期購入促進業務の成績上位者は感情的な傾向が強いオペレータが多く、解約抑止業務の上位者は論理的な傾向が強いオペレータが多いことが分かりました。
問い合わせ業務におけるタイプ分けの活用
食品関連の問い合わせ業務における評価についても感情の傾向によるタイプとの関連があることが分かりました。
この事例では、健康相談の内容に対して評価者がお客様の不安を解消できていたと判断した通話とそうでない通話に分類し、感情の傾向を調べています。
その結果、感情的な傾向が強いオペレータの方が評価が高く、共感を持ってお客様に接することが不安を解消する要因になっているという仮説が立てられます。
(図:感情の傾向によるタイプ分けの活用イメージ)
これらの事例のように感情の傾向によるタイプ分けは、オペレータが潜在的に得意としている業務を推測することにつながります。感情解析データを用いるとオペレータの感情の傾向が分かり、適切な業務配置・業務成果の向上につなげることもできます。
感情解析データ活用の今後の展望
前章までにご紹介した事例は各社の具体的な事例に過ぎませんが、そこから得られた知見は多くのコンタクトセンターにとって有用なものになると考えています。
オペレータの定着はどのコンタクトセンターにとっても重要なことであり、感情解析データを用いてオペレータの状態を把握し、フォローするというプロセスはどのコンタクトセンターでも実現できるかと思います。
データ分析の観点で言えばセールス業務に感情解析データを活用しやすいですが、同じ手法で他のコンタクトセンター業務における重要なKPIなども感情解析データでスコア化することもできます。例えば、通話毎のNPSがあれば、それを感情解析データから推測するモデルを作ってスコア化し、全通話に対して感情解析データから満足度を算出するなども理論的には可能です。
感情の傾向によるタイプ分けについても業務内容だけでなく様々な観点で応用が可能でしょう。潜在的なオペレータの適性を把握してコンタクトセンターの運営の効率を向上させるアイディアも多くのコンタクトセンターに適用できると考えています。
以上の事例が示すように、感情解析データは他の何かを推測することが現時点での主な活用方法になります。新しい知見を得たり、推測するモデルを作成するためにはデータをある観点で分類し、統計的な分析が重要になります。
特に、感情解析データからある状況をスコア化することができれば、NPSの収集や評価結果の推測の例のように推測したいデータを集めたり作成したり感情解析データと紐づける作業が不要になり、欲しい情報が感情解析データだけで取得できるようになります。
また、実際の状況に基づいた分析から得られた知見により感情解析データに対する解釈が深まれば、汎用的な感情解析データの活用方法が確立され、リアルタイムでも感情解析データを活用できる可能性があると考えています。
まとめ
感情解析データからいきなりピンポイントな情報を得るのではなく、統計的な観点で傾向を分析するのが感情解析機能を活用するポイントになります。さらに、他のデータや具体的な状況と合わせた分析を行い、活用方法に合わせて感情解析データを解釈することが重要です。具体的な状況との感情の関連と、感情解析に対する適切な解釈が得られることができれば、それはコンタクトセンター業務の改善のインサイトになるでしょう。
執筆者紹介
CTI事業部 カスタマーサクセスグループ
アドバンスト・メディアに新卒入社後、AmiVoice Communication Suiteの導入SEの経験を経てカスタマーサクセスグループへ異動。現在はカスタマーサクセスチームのリーダーとして主にオペレーション全般の設計やAmiVoice Communication Suiteの活用フェーズに合わせた支援の企画を行い、戦略的に活用の成功へ導くことに取り組んでいる。
- TOPIC:
- VOC/音声認識