人とAIが協働する未来に向けて、個人と企業が取り組むべき課題

 2024.11.22  毛利 政弘 氏

生成AIの急速な普及に伴い、さまざまな分野での活用が進んでいます。しかし、総務省が発表した2024年版「情報通信白書(※1)」によると、日本における生成AIの利用は、他国と比べて依然として低水準にあることがわかります。

個人利用のアンケートでは、日本は9.1%にとどまり、比較対象の中国(56.3%)、米国(46.3%)、ドイツ(34.6%)と大きな差がありました。また、企業での利用率も、日本では46.8%に留まり、中国(84.4%)、米国(84.7%)、ドイツ(72.7%)と比べて低い結果でした。これは、著作権侵害や情報漏えいなどのリスクへの懸念が慎重な対応を招いているほか、「活用方法が分からない」「自分の生活には必要がない」といった個人の意識の違いも背景にあります。

人とAIが協働する未来に向けて、個人と企業が取り組むべき課題 01
情報通信白書より引用

実際、「業務効率化が図れそうだが、どう使ってよいか分からない」と感じている企業のDXを推進しているメンバーや経営層の方も多いのではないでしょうか。今回は、弊社AMBL(アンブル)での生成AI活用の事例をもとに、企業が生成AIをどのようにビジネスに活用できるかを探っていきます。

※1 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/index.html

人とAIが協働する未来に向けて、個人と企業が取り組むべき課題 02

生成AIがもたらす革新と可能性

生成AIでバックオフィスや営業業務を効率化

弊社では、バックオフィスの業務効率化を目的に「AMBL ChatGPT」を社内で展開しています。リモートワーク環境で経理や人事部門に気軽に問い合わせができない場合でも、「社内情報を質問する」モードを利用することで社内データに基づいたFAQが可能です。また、「業務に役立てる」モードでは、文章の要約やコンテンツ作成、プログラムコードのアドバイスを受けることもできます。もちろん、社内データが外部に漏れることがないセキュアな環境を実現しています。こうした弊社での活用事例を収集、ナレッジを蓄積し、現在もお客様への提案や導入支援を行っております。

生成AIでバックオフィスや営業業務を効率化
AMBL ChatGPTの実際の画面

他にも、採用業務の効率化として、生成AIによる履歴書やエントリーシートのチェック、求人票やスカウトメールの作成を自動化するシステムの開発も推進しています。また、社員の経験やスキルといった社員それぞれの中にある言語化されていない「暗黙知」を生成AIが学習し「形式知化」する取り組みも進行中です。これにより、過去の顧客情報や提案データを活用した営業支援が可能となり、若手や経験の浅い社員でも高度な提案ができるよう支援するAIソリューションの開発を目指しています。これらの社内の取り組みが実現すれば、サービスとしてお客様にも提供していきたいと考えています。

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データ整備は生成AI活用の第一歩

ここまで弊社での生成AI活用の取り組みについてご紹介してきましたが、ここで改めて生成AIの仕組みを簡単にご説明いたします。

生成AIが新しいコンテンツを生み出すには、質の高い大量の学習データが必要です。このデータ分析には「ディープラーニング」と呼ばれる手法が主に用いられ、AIは与えられた学習データをもとに最適な回答を探し出し、より高度なコンテンツを生成できるようになります。業務で生成AIを活用するためには、社内に蓄積されたデータだけでなく、関連する外部情報も組み合わせてインプットすることが重要です。そのため、社内データをAIが理解しやすい形式で構造化することが不可欠です。

一例として、内閣府のホームページ内に掲載されている「安全・安心なAIの実現に向けた取組(※2)」では、SMBC様の取り組みがご紹介されています。SMBC様では、生成AIシステムを社内専用環境上に構築、AIが膨大な社内データや規定にアクセスできるよう整備し、LLM (大規模言語モデル)は最新のAIモデルを搭載することで、セキュアな環境で最新外部情報と社内情報を連携して回答する従業員向け生成AIアシスタントサービスを展開しています。
弊社でも、お客様のご要望にお応えし、生成AIシステムをセキュアな環境に構築、お客様が保有する社内データの整備を行い、業界の法令や関連文献といった最新の外部情報との連携を可能にしたナレッジ検索システムの開発支援を行っています。こうした社内外のデータを統合して生成AIを活用するためには、DX推進部門や現場だけでなく、経営陣がデータ整備と生成AIの理解を深め、投資を惜しまない姿勢が重要です。

冒頭に話は戻りますが、日本で生成AIの利用がなかなか浸透しない理由の一つは、このような背景を経営陣にうまく説明できるIT人材が不足している点にあると感じています。

※2 https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_kenkyu/4kai/shiryou6.pdf

まとめ_人とAIが協働する組織になるために

高齢化が進む日本では、2040年には現役世代(15~64歳)が約2割減少すると予測されています。社会サービスの需要が増える一方で、支え手が減少し、従来のやり方では成り立たない時代が目前に迫っています。遅かれ早かれ、日本も人とAIが共存・協働する社会に移行するでしょう。そのためにも、生成AIの活用によってどの課題を解決していくかを明確にし、ビジョンを全社で共有しながら目標達成に向けたロードマップをいち早く策定することが重要です。生成AIはあらゆる課題を一度に解決できる魔法ではありません。まずは会社のボトルネックを洗い出し、全社でDXのビジョンを共有、推進していく姿勢が大切です。また、先述の通り、経営陣も含めた全社員がAIへの理解を深めることと投資を惜しまないことが肝要です。

そして、AIソリューションが完成したらそれで終わりではなく、社内利用ガイドラインの策定が必要です。法的観点だけでなく、倫理的な観点も踏まえ、生成AIのリスクに応じて対策を更新し続けることが求められます。その際、技術部門の専門家のみならず、実際に利用する事業部門の意見も取り入れることが大切です。

私の愛読書『両利きの経営』では、既存事業を継続して磨きこむ「知の深化」と新しい事業と市場を考案するために積極的にアイデアを探す「知の探索」を組み合わせた「二兎を追う」戦略で成長を続けるさまざまな企業の事例が紹介されています。これらの企業に共通するのは、変化を前向きに捉え、新たな挑戦を楽しむ姿勢です。

この本の原著は2016年に発刊されましたが、生成AIをはじめとする技術の進化が速い今こそ、経営者やリーダーだけでなく現場メンバーが変化を実感し、新しい発想でのチャレンジを楽しめるマインドが不可欠です。

このコラムが、皆様と皆様の企業にとって生成AI活用の新たな一歩となることを願っております。

執筆者紹介

毛利 政弘 氏
毛利 政弘 氏
AMBL株式会社 代表取締役社長 CEO
様々な職を経て35歳でIT業界に転身。エム・フィールド(現AMBL)に入社後、モバイルソリューション事業領域で活躍し、45歳で事業部長に就任すると会社の事業拡大に大きく貢献。その後、新規事業であったデータマイニング事業の拡大に取り組み、約1年半で後の株式会社エイアイ・フィールドへ事業を分社化、AI領域の推進を担う。2020年より現職。2022年にグループ会社の一社化を経て現在に至る。
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