【後編】日本のコンタクトセンターは
どう労働人口減少に立ち向かうべきか?
~自動化編~
久保 睦
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目次
久保 睦
前回のブログ「【前編】日本のコンタクトセンターはどう労働人口減少に立ち向かうべきか?~人材育成編~」でも述べたように、コンタクトセンター業界における採用難、人材不足への対策は待ったなしの状況です。大半の業務が人による対応を前提としているコンタクトセンターにおいて、近年、人が対応している業務の一部をITの活用により自動化することで、採用難への対応に取り組んでいる例も増えています。今回はコンタクトセンターでの自動化をテーマにどのように取り組んでいくべきかを考察します。
他の多くの業界において叫ばれている人材不足の課題は、コンタクトセンター業界においても同様に深刻な状況であることは、そこに携わっている多くの方々が共感する課題の1つと言えます。
その背景にあるのは、コンタクトセンター市場は右肩上がりに成長をし続け、今や1兆円を超える産業にまでなっていますが、その要因の1つとして、人材不足を理由に内製のコンタクトセンターを運営し続けることが難しい状況になっていることで、アウトソーサーにコンタクトセンター業務を外部委託する企業が増えていることが1つの要因になっています。結果的にコンタクトセンター業務を請け負ったアウトソーサー同士が市場の限られた人材を巡って熾烈な採用合戦を繰り返すことになっています。
人材不足の要因はそれだけではありません。コンタクトセンターに求められる要求どんどんと高まっており、業務の難易度も比例して上がっているため、せっかく採用した人材も定着せすに早期に退職してしまうことも珍しくありません。また近年は一般的にも認知が高まっているカスタマーハラスメントやクレームを受け付ける業務という一般的のイメージもあり、ますます新規の人材採用が難しい状況となっています。
そのような状況において、採用だけに頼るのではなく、既存人材の労働力と知見を最大限活用したナレッジマネジメントに取り組んでいるケースも増えてきています。ナレッジマネジメントとは、センターで電話を受けているオペレーター個々の暗黙知を形式知化し、個人から組織の経験に昇華させ、それを共有することで全体の効率化を図る手法です。ナレッジマネジメントによって、限られた人数の中で効率的な人材育成や回答支援の仕組み作りに取り組んでいるセンターが増えていることは前回お伝えした通りですが有効な手段の1つとなります。
しかし、そのような工夫を行っているセンターでも一定の退職者の発生は生じてしまうものですし、例えば新製品の発売等の企業活動に連動して問合せや注文のコンタクトが増えることもよくあることですし、コンタクトセンターの人員が不足する状況というのは起きうる状況であり、常にコンタクトセンターは人手不足という課題に晒されています。
人材不足の課題に対して、人を補充するという発想とは別に人が対応しているコンタクトセンターの業務をITを駆使して別の代替手段に置き換えていく取組みも活発になってきています。
ここでは問合せをする前段階から、実際に電話を受けて対応が完了するまでのオペレーター対応の一連の流れの中でどのプロセスを自動化しているかを見ていきます。
前述のIT化の取組みはいずれもコンタクトセンターでの人の対応工数を削減し、人材不足に対応するための施策ではあるものの、それを実現するツールを入れたらすぐにうまくいって効果を発揮するわけではありません。いずれも実用的に使いこなすためのノウハウと事前の分析、設計が必要になります。
まずはFAQについてです。
FAQとは「よくある問合せ」のことですので、まずはお客様が欲している情報を的確に捉え、それを分かりやすい表現でFAQとして公開することが重要です。しかし、間違ってはならないのは決して、数を多く揃えればよいというわけではないということです。なぜなら大量の情報が羅列されているだけだと、欲しい情報がその他の多くの情報に埋もれてしまい、FAQのコンテンツとして用意しているのに見られないという状況が起きてしまいます。
それを回避するためにも、FAQ検索の履歴とコンタクトセンターへの問合せ履歴の両面を分析することが重要です。FAQの検索でどんなキーワードで検索されているのか、結果的にコンタクトセンター側に問合せされているものがどういう内容なのかを分析します。それがFAQとして整理すべきかどうかを判断し、見直すことで、無駄な問合せの削減とお客様側のCSが高まります。
次にチャットボットについてです。
チャットボットは、ユーザーの体験を損なわないよう実際の顧客対応の流れに沿ってシナリオを作成をすることが重要です。運用知見、お客さま対応経験に基づき現場感覚を持っている人を交えて作成することがポイントとなります。お客さまの言い回しは具体的にどうなのか?事象を切り分けるための最適な分岐は?等に留意しながら作成を進めていくことがポイントになります。
また、チャットボットはあくまでも代表的な問合せに対するサポートツールであって、全ての問合せを網羅的に盛り込むことは現実的ではありません。それ以外の問合せができるよう、有人のチャット窓口に接続して切り替えて対応できる仕組みやその切り替えポイントを設けておかないと、お客さまは解決されないチャットボットのシナリオの中でさまよって、離脱によるCXの低下を招く要因となりかねません。
次に後処理時間の自動要約についてです。
自動要約は、音声テキスト化を前提としていることから、音声認識の精度がひとつのポイントになってきます。何度試しても正しく音声認識されない場合は、音声認識システムの辞書機能にそもそも単語が登録されていない可能性があります。そのような時は単語登録を行って適切に要約される土台を固めることが求められます。
また、生成AIによる要約をする場合、「プロンプト」という指示/命令文をうまく書くことが求められます。生成AIのプロンプトとは、生成AIに与える指示/命令文のことですが、より精度の高いアウトプットを得るには、指示/命令の出し方に工夫が必要です。
この辺のことは別のブログでも触れている内容なので詳細には振れませんが、生成AIが万能なものとして要約してくれるわけではなく、使い方の知見が必要不可欠になってきます。
次にRPAについてです。
RPAは定型的で繰り返し行うこと業務プロセスにおいて効果を発揮するため、現行プロセスにおいて、ムダなことが内包されていたり、煩雑なプロセスであったりすると求めるような成果は得られません。そのためにもきちんと今の業務プロセスを可視化し、無駄なものを排除した状態の新しいプロセスを組んだ上で自動化を検討することが求められます。また、一連のプロセス全部をRPAに対応させようとすると、万が一エラーが発生した時に1から始めなければいけないという手戻りも発生するため、プロセス単位で切ってそれぞれを自動化させてつなぐことがうまくいくコツと言えるでしょう。
今後、コンタクトセンターにおいてはさらに人材確保が厳しくなってくる中で、全ての業務を人の力だけで対応することは不可能であり、人とITのハイブリッド運用を行うことが不可避な状況と言えます。そのハイブリッド運用を前提にコンタクトセンターの提供サービスを最適化するには、それぞれの自動化を担うツールに、コンタクトセンターの運用知見に基づく「人らしさ」や「使い勝手」という魂を入れてITを使いこなすことが求められます。そのためにも既存人材の知見やナレッジを吸い上げ、可視化しておくことが重要です。

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