- 客観的な音質指標
- 音質低下の原因と対策
- 失敗しない選定ポイント
「クラウドPBXの導入を検討しているが、インターネット回線に依存するために音声品質が心配だ」
「コールセンターのシステムをクラウド化したいが、遅延やノイズで顧客対応に支障が出ないだろうか」
クラウドPBXの導入を検討している情シス担当者にとって、「音質への不安」は避けて通れないテーマです。インターネット回線に依存するシステムが、固定電話と同等の品質を保てるのか。コールセンター部門長であれば、音声の遅延やノイズがオペレーションの品質に直結するだけに、懸念は一層大きくなるでしょう。
確かに、インターネット回線を利用するクラウドPBXは環境の影響を受けやすい面があります。しかし「クラウドPBX=音質が悪い」というのは一昔前のイメージです。現在は、ネットワーク環境の整備と適切な設定を行えば、固定電話(ビジネスフォン)と遜色のないクリアな通話品質を実現できます。
本記事では、クラウドPBXの音声品質を左右する客観的な評価指標を解説します。総務省の品質基準から始まり、音質低下の技術的な原因、QoS(優先制御)による具体的な改善策まで体系的に整理しています。

クラウドPBXの音質は悪い?客観的に評価する3つの指標
「音質が良い・悪い」という感覚的な評価を客観的なデータに変換するためには、IP電話の音声品質を測る3つの指標を理解しておく必要があります。総務省が規定する品質クラス、R値、MOS値を把握することで、ベンダー選定における判断軸が明確になります。
総務省の「IP電話の音声品質基準」
総務省はIP電話の通話品質を「クラスA」「クラスB」「クラスC」の3段階で規定しており、それぞれ明確な数値基準が設けられています。
- クラスA(固定電話相当)
遅延100ms未満、R値80超。固定電話と同等の最高品質水準です。 - クラスB(携帯電話相当)
遅延150ms未満、R値70超。一般的な携帯電話相当の品質水準です。 - クラスC(IP電話相当)
遅延400ms未満、R値50超。回線状況によって品質が変動する可能性があります。
「03」や「06」などの市外局番が使えるクラウドPBXの多くは、最高ランクの「クラスA」基準をクリアしています。サービス選定の第一歩として、ベンダーがクラスAを取得しているかを公式サイトで確認してください。
R値(Rating factor)
R値は、複数の通話品質劣化要因を一元的に数値化した総合指標です。
パケットロス(データの欠損)・遅延・ノイズ・エコーなど様々な要素を計算し、0〜100のスコアで表します。一般的にR値が80以上であれば、ほとんどのユーザーが不満を感じないクラスA相当の品質とされています。単一のスコアで多様な劣化要因を包括するため、現場環境での品質評価に有用な指標です。
MOS値(Mean Opinion Score)
MOS値は、実際に人間が音声を聞いて採点した主観評価の平均スコアです。
「非常に良い(5)」から「非常に悪い(1)」の5段階で評価し、その平均値として算出します。R値と強い相関関係があり、ビジネス利用ではMOS値4.0以上が「高品質(クラスA相当)」の目安とされています。ベンダーのサービス品質評価資料にMOS値が記載されている場合は、サービス比較の参考データとして活用できます。
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クラウドPBXの通話品質が低下する主な原因
客観的な指標がある一方で、実際の運用環境では「音声が途切れる」「声が遅れて聞こえる」といった問題が発生することがあります。音質低下の原因は自社ネットワーク・利用デバイス・ベンダーインフラの3層に分類でき、それぞれに対応する対策が異なります。
原因1:自社のネットワーク環境の問題
クラウドPBXの音質トラブルで最も多い原因は、自社ネットワーク側のボトルネックです。
インターネット回線を使用するクラウドPBXは、回線の帯域幅やネットワーク機器のスペックに直接影響を受けます。代表的な問題は以下の3つです。
- 通信帯域の不足とトラフィックの混雑
大容量ファイルの送受信やWeb会議が競合すると、音声データが遅延しパケットロスが発生します。 - Wi-Fi接続による不安定さ
電波干渉(特に2.4GHz帯)や障害物により、通信が不安定になります。 - ネットワーク機器のスペック不足
旧世代のルーターやHUB(ハブ)、LANケーブルではパケット処理が追いつかなくなります。
帯域幅の不足や機器の老朽化は、情シス担当者が最も対処しやすい原因でもあります。まずは自社ネットワークの現状評価から着手することを推奨します。
原因2:利用するデバイスやアプリの問題
端末側の処理能力や周辺機器の品質も、通話品質に直接影響します。
ソフトフォン(PC上の電話アプリ)を使う場合、バックグラウンドのアプリがリソースを消費して音声処理が遅延することがあります。また、安価なマイクは周囲の雑音を拾いやすく、スピーカーからの音を再び拾い込むことでエコーの原因にもなります。デバイスと周辺機器の品質は顧客が直接体感する音質に直結するため、適切な投資が必要な領域です。
原因3:クラウドPBX提供ベンダーのインフラ品質
自社環境に問題がない場合でも、ベンダー側のインフラ品質が音質低下を引き起こすことがあります。
ベンダー側のサーバーが混雑して十分なパフォーマンスを発揮できないケースが一例です。音声を圧縮・復元するコーデック(音声圧縮技術)が最適化されていないケースも挙げられます。この原因への対処は、次章のサービス選定ポイントで説明するSLAとクラスA取得の確認が有効です。
QoSとは?クラウドPBXの音質を改善・安定させる方法
音質低下の原因を踏まえ、情シス担当者が実施すべき技術的対策を解説します。対策の柱は「QoSの導入」「ネットワークインフラの最適化」「デバイス環境の改善」の3点です。
QoS(Quality of Service)の仕組みと重要性
QoS(Quality of Service:サービス品質)とは、特定の通信を優先的に処理して品質を保証する技術です。
オフィスのネットワーク上では、メール・Web閲覧・動画ストリーミング・音声通話など多様な通信が混在しています。これらを同列に扱うと、混雑時に音声パケットが遅延やドロップ(消失)の影響を受けます。QoSはこの問題を以下の2つの機能で解決します。
- 優先制御
音声データ(VoIPパケット)にDSCP値(Differentiated Services Code Point:パケットに優先度を付けるための識別タグ)を付与します。メールやWeb閲覧より先に処理させることで、混雑時でも音声の遅延とジッター(遅延の揺らぎ)を最小限に抑えられます。 - 帯域制御(シェーピング)
音声データ専用の通信帯域をあらかじめ確保します。他の通信量が増加しても確保された帯域は保護されるため、パケットロスによる音声の途切れを防げます。
なお、QoSが機能するのは自社ネットワーク(社内LAN〜インターネット出口)の範囲内に限られます。プロバイダー網やインターネット上での制御は及ばない点は理解しておく必要があります。
ネットワークインフラの最適化
QoSの効果を最大化するためには、物理的なネットワークインフラの見直しも並行して行う必要があります。
具体的な対策は以下のとおりです。
- 有線LANの徹底
PCでクラウドPBXを使う場合は、Wi-Fiを避けて有線LAN接続を基本とします。LANケーブルはノイズ耐性が高い「CAT6A」以上を推奨します。 - QoS対応ルーターの導入
ヤマハ(YAMAHA)製など、法人向けにQoS設定が可能な業務用ルーターを選定します。社内LAN上での音声パケットの優先制御を確実に実装するためです。 - Wi-Fi環境の5GHz化
スマートフォンなど、やむを得ずWi-Fiを使用する端末は「5GHz帯」への接続を徹底します。電波干渉の少ない帯域に統一することで、通信の安定性が向上します。
コールセンター環境では特に、オペレーター端末の有線LAN接続が通話品質の安定性に直結します。導入前の環境調査フェーズで接続方式を確認しておくことを推奨します。
デバイスと周辺機器の改善
ネットワーク対策に加えて、使用デバイスや周辺機器の改善も通話品質の向上に有効です。
ノイズキャンセリング機能付きのヘッドセットや指向性の強いマイクを導入することで、顧客にクリアな音声を届けられます。特にエコーの問題は、スピーカーフォン使用時に発生しやすい傾向があります。コールセンターのオペレーターには個人用ヘッドセットを配備することが、エコー対策として最も効果的です。
音質で失敗しない!クラウドPBXサービスの選び方
自社のネットワーク対策と合わせて、ベンダー選定の段階でも確認すべきポイントがあります。導入後の品質トラブルを防ぐうえで、事前確認が欠かせません。確認すべき観点は「品質基準の取得」「SLAの内容」「実環境テスト」の3点です。
総務省基準「クラスA」の取得有無
公式サイトやカタログで、総務省の音声品質基準「クラスA」を取得していると明記されているサービスを選びます。
クラスAは、固定電話と同等の品質を提供するインフラ基盤を持つことの客観的な証明です。この基準を取得しているかどうかは、ベンダーのインフラ品質を評価する最初の判断基準として活用できます。
SLA(サービス品質保証)の確認
ベンダーが稼働率や通話品質についてどのようなSLA(Service Level Agreement:サービス品質保証契約)を定めているかを確認します。
稼働率の保証値(例:99.9%以上)、障害発生時の復旧目標時間(RTO)を確認してください。サポート体制やネットワークの冗長化構成も重要な確認項目です。大規模拠点展開や複数拠点での運用を想定している場合、SLAの内容は導入可否を判断する重要な材料になります。
トライアルによる「実環境テスト」
スペック上の数値がどれだけ優れていても、自社ネットワーク環境との相性は実際にテストしなければわかりません。
本格導入前には必ずトライアルとしてPoC(概念実証:Proof of Concept)を実施してください。検証すべきポイントは以下のとおりです。
- ネットワークが混雑する時間帯(朝の始業時や昼休みなど)での通話テスト
- Wi-Fi接続時と有線LAN接続時での品質比較
- 社外(モバイル回線)や在宅勤務環境(VPN接続時など)からの接続テスト
- 複数端末での同時通話テスト
コールセンターへの導入を検討している場合は、実際のオペレーター席でのヘッドセット使用環境でもテストを実施してください。より実態に近い品質評価が可能になります。
まとめ
クラウドPBXの通話品質は、ベンダーのインフラだけでなく自社ネットワーク環境によって大きく変わります。
裏を返せば、適切な技術的対策を講じることで品質を自社でコントロールできるということです。総務省の「クラスA」品質を安定的に維持するには、ベンダー選定だけでは不十分です。社内LANでのQoS設定・有線LAN接続の徹底・QoS対応ルーターへの投資という自社側の取り組みが必要です。
音声の遅延や途切れは、顧客満足度の低下や「言った言わない」トラブルを招くビジネスリスクです。本記事で解説した品質指標とQoS対策を参考に、まずはネットワーク環境の事前評価から始めてください。その上で無料トライアルによる実環境テストを実施することを推奨します。
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