【前編】日本のコンタクトセンターは
どう労働人口減少に立ち向かうべきか?
~人材育成編~

 2024.06.05  2024.06.12

人口減少と共に、採用難が叫ばれて久しい日本の状況において、かつて1990年代に大量の人材採用を背景に成長してきたコンタクトセンター業界においても、採用方法の工夫による「労働者の確保」、採用した人材をいかに長く働いてもらうかの「労働者の雇用維持」が主要な課題となっています。
今回は「労働者の雇用維持」にフォーカスを当て、その中での「人材育成」をテーマとして課題に対してどのように取り組むべきかを考察します。

【前半】日本のコンタクトセンターはどう労働人口減少に立ち向かうべきか?~人材育成編~

デジタルチャネルCX調査 2023年版

人材育成の必要性と課題

人材育成とは、企業が業績を上げて経営目標を達成するために、従業員に対して必要な知識やスキルの習得を促すことを指します。
コンタクトセンターにおいて、間違った人材育成をしてしまうことで個々のオペレーターの知識習得やスキル向上に影響し、電話をかけてきた方に対して間違った案内をしてしまったり、回答するまでの時間がかかって迷惑をかけてしまい、その企業のブランドの低下を招くことにもつながります。また、そのオペレーター個々のモチベーションの低下や、キャリア形成における自信を喪失してしまい、結果的に業務に対する適性のなさを理由に退職してしまうこともあります。その場合、新たな人材確保や教育の費用がかかってしまうため、本来の目的である企業の業績を上げるどころか、業績を悪化させる要因にもなりかねないのです。そうならないためにも正しい人材育成を行うことが求められるのです。

その一方、コンタクトセンターの多くの管理者は人材育成の必要性は認識しているものの、現実的にはそこに着手できない多くの状況が発生しており、それをなかなか解決できずにいることが散見されます。
その1つの例として、管理者はオペレーターのサポート業務に忙殺されており、なかなか時間を取ってじっくりと人材育成に工数を割くことができずに困っていることが往々にして起こってます。そのかけられなかった人材育成の時間数の少なさが電話を受けるオペレーターの品質に影響し、結果的に質問やエスカレーションを招き、更なる質疑対応に費やすことになり、ますます人材育成に費やす時間が限定されるという負のスパイラルが発生します。
この課題の根本原因には、1人ひとりの知識・スキルが求める水準に到達していないことが挙げられます。この解決に向けて以下のプロセスの見直しを図ることが重要となります。

  1. 導入研修
  2. OJT/独り立ち直後のフォロー
  3. スキルチェックとフォローアップ

これらは各コンタクトセンターによって事情も異なるため、一概には言えないところはあるのですが、多くのセンターに共通する部分を中心に、各プロセスを見直すポイントについて以下の項目で掘り下げていきたいと思います。

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知識・スキル最適化に向けた各プロセスの改善ポイント

1.導入研修

導入研修はコンタクトセンターのオペレーターの雇用維持において、最も重要な局面となります。と言うのも、せっかく苦労して採用したオペレーターも、この導入研修の終了または直後までに退職に至ってしまう割合が採用者全体の2~3割にも上るからです。理由はそれぞれ異なるのですが、最も多い理由としては、業務についていくことができず、自信をなくして結果的に退職の道を選択してしまうということが挙げられます。
これはお客様対応をする上で必要な知識を一気に詰め込もうとするあまり、その情報量やスピードに不安を感じてしまうことがその理由となってます。そのハードルを下げる意味でも最低限の内容にフォーカスし、それ以外の問合せはフォローアップして徐々に対応範囲をに広げていくことが重要です。
そのためにも現状の問合せが多い内容をきちんと把握し、初期のオペレーターが対応すべき範囲を定めて育成を行う必要があります。現在、コンタクトセンターでは音声データからテキストデータに変換する音声認識機能を導入するセンターも増えてきています。そのテキスト化された大量の問合せデータをテキストマイニング技術を組み合わせて分析すれば、問合せの分量、言い回し、関連して質問される内容、多く回答している言い回し等も把握でき、効果的な初期導入研修を構築することも可能となります。これら音声認識機能やテキストマイニングは、外部リソースを使ってスポット的に切り出して分析することも可能なので、お試しでご利用いただくことも可能です。

2.OJT/独り立ち直後のフォロー

初期導入研修を終えたオペレーターは、OJTも含め実際のお客様対応に携わるため、不安と緊張の中で電話応対をすることになります。このタイミングでの新人オペレーターのお客様対応には特に気を付けて、フォローと指導を行うことが重要です。
お客様との対応終了後やエスカレーションされた後に収拾がつかない状態にならないためにも、新人の対話中の状況に注意を払っておくことが求められます。ですが、管理者や先輩オペレーターが新人に張り付いて常にモニタリングをしているわけにもいかないため、先程触れた音声認識からテキスト化されたものをリアルタイムに表示させる機能を有したものもあるため、そのテキスト情報をモニタリングすれば、複数メンバーを同時に把握・管理することもでき、効率的かつタイムリーに指導を行うことが可能になります。また、製品によってはある特定のキーワードを設定しておけば、そのキーワードが発話されたタイミングで管理者にアラートが上がるような仕組みとなっているため、より早くリスクの察知とフォロー・指導を行うことができます。
この初期のタイミングにおける経験は、オペレーターとしてのステップアップに大きく寄与することと、自信を失うことによる退職リスクの諸刃の剣にもなり得るため、しっかりとしたフォロー体制と指導を行っていくことが大切です。

3.スキルチェックとフォローアップ

導入研修・OJTを経て電話対応を始めたオペレーターの知識・スキルが、経験に応じて目標とする水準レベルで身についているのかを確認し、ギャップがある場合は個別に指導していきます。
スキルチェックは定量情報と定性情報の両面から判断することでより正しく知識・スキルの定着度合いを判断することができます。
定量情報として、主に品質面では一次解決率(問い合わせや要求が初回の通話で解決された割合)やミス率、応対品質指標のスコア等、効率面では通話時間、後処理時間、保留時間等の生産性指標が代表的な判断基準となります。これらはOJT終了時、1ヵ月後、3ヶ月後、6か月後・・・と経験月数に応じて目安となる基準を設けておくことで、期待値とのギャップの有無を判断することができます。定性情報としては、業務習熟度合いを判断するためのテストや管理者への質問内容等で知識が身についているかを総合的に判断します。
これらの情報を元に新人オペレーターの知識・スキルに期待するレベルとギャップがあった場合には個別にフォローアップをする必要があります。新人オペレーターには特に定期的な面談機会を設け、結果のフィードバックと指導をしていくことが重要です。
指導はオペレーター個々のモチベーションを喚起する仕掛けが効果的です。管理しているKPIを元に パフォーマンスをスコア化してゲーム感覚で楽しみながら自身の成長度合いを実感してもらい、成長意欲を盛り上げていくことで、オペレーターのモチベーションを高めながら学んでもらうことができます。
定性的な応対品質のフィードバックは、実際の応対状況の根拠を示しながら指導することが納得感を得るためのポイントとなります。前述の音声認識からテキスト化されたお客様との対話データ等で言い回しやお客様との会話が被っている状況など可視化された情報を元に指導することが状況対する理解度を深めることにつながります。

ナレッジマネジメントを活用した人材育成

前述の各プロセスの改善ポイントとも関連しますが、人材育成の課題を解決する有効な手段のひとつとして、「ナレッジマネジメント」の導入が挙げられます。
コンタクトセンターにおけるナレッジマネジメントとは、センターに存在するナレッジを管理・整理、最適化し、組織の知見として全体で共有、活用し、応対に利用して生産性やお客様対応の品質を高める手法です。
お客様からの問合せに回答するために覚えなければいけない知識は必要最低限に抑えた状態で業務に就き、ナレッジを調べるスキルを身に着けてさえいれば、あとはナレッジを参照しながら回答するという考え方であるため、全てを覚える必要はなく、新人オペレーターの負荷軽減と研修期間短縮化等のメリットが期待されます。ナレッジシステムによっては、音声発話のキーワードを元に格納されているナレッジをオペレーターの画面上にポップアップ表示させることもできるため、特に新人オペレーターの応対サポートにも有効です。
ナレッジマネジメントによって回答に必要な情報が整備されることで、知識不足で業務についていけなくなる新人オペレーターの割合が少なくなり、退職率の低減効果が確認されている事例が増えています。管理者側にとっても、通話中の質疑対応の時間が削減され、その分の工数を本来充てるべき人材育成の時間に費やすことができるため、品質面、効率面での改善についても相乗効果が見込まれます。
これらの元となっているナレッジは組織全体でベストプラクティスとして共有され、より良いものに更新されるマネジメントの仕組みであるため、ナレッジを常に進化させていくために、全員がそこに参画して共に作り上げていくという意識面でのモチベーション向上効果も期待されます。
よって、ナレッジマネジメントをセンターの品質・生産性活動の中心に据えて、管理されているナレッジに基づいて人材育成も行っていくという考えにシフトしていくことがセンターの全体最適化に近づけることになると考えます。
ナレッジマネジメントは、組織知の継承という側面もあるため、これまでコールセンターを支えてきた人材がいなくなったとしても、その知見は組織に引き継がれていくため、不測の事態に直面した際にも最小限の影響に留めることができます。
また、ナレッジマネジメントは人材育成としても有効だが、今後の自動応答や生成AIの導入における情報リソース・学習データにもなるため、ナレッジを磨き込んでいくことは今後の無人対応領域の拡大によるコンタクトセンターの省力化にとっても重要な要素となってきます。

まとめ

このように、ナレッジマネジメントを筆頭にコンタクトセンターの人材育成手法を最適化することは労働力維持に効果を発揮する1つの考え方となります。ですが、他にも人間関係をスムーズにするための配慮や施策、職場環境、センターでのキャリアプランの選択肢の豊富さ等、退職率に影響する要素は多岐に渡るため、それらの施策と連動して検討していくことが重要です。

執筆者紹介

久保 睦
久保 睦
2001年に入社後、通信、金融、通販、メーカー、サービス業のコンタクトセンターを中心に50社以上のコンサルティング、立上げ支援、ソリューション導入企画・設計・構築、アドバイザーを担当。現在は、企業の付加価値向上、CX向上、DX実現に向けたコンタクトセンター活用のプランニングなどビジネスコンサルティングを中心にプロジェクト管理、統括責任者として多数の実績あり。
Salesforce 認定アドミニストレーター
コンタクトセンターコンサルティングのケイパビリティご紹介

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