FAQ/ナレッジシステムの価値が高まり続ける理由(前編)
~生成AI時代におけるFAQ/ナレッジシステムの普遍的価値~

 

生成AIの登場と利用の一般化により、今あらゆる分野で現行ITシステムの陳腐化や、ビジネスモデルそのものの変化など、日本だけでなく全世界的に革新的な変化(パラダイムシフト)が起きると、2025年現在あらゆるメディアを通して喧伝されています。
一方で本稿をご覧いただいている皆様が直面するコンタクトセンター領域においては、AIブームの経験と腐心は度々繰り返されており、その活用には様々な課題を乗り越える必要があることを、現場現実の肌感覚として我々はよく知っています。
とくに必ずといってよいほど繰り返されているテーマのひとつが「FAQ/ナレッジ管理」です。AI活用の現実化が進めば進むほど、あるいはAI活用の有無を問わず、企業におけるナレッジの所在、管理の在り方が益々重要になっています。

本連載では、FAQナレッジ管理システムの重要さを3つのテーマを設定して、それぞれに関連する要素を整理し、詳しく掘り下げて解説します。

    • 生成AI時代におけるFAQ/ナレッジシステムの普遍的価値
    • コンタクトセンターでのFAQ/ナレッジ運用の課題と実践
    • 顧客体験、カスタマーハラスメントにも影響するFAQ/ナレッジ運用

前編は「生成AI時代におけるFAQ/ナレッジシステムの普遍的価値」 についてまとめます。

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生成AIが生む情報の粗製乱造

2022年に登場した「チャットGPT」を皮切りに、AIの活用は一気に現実味を帯びました。生成AIとその技術を用いたソリューション提供も益々活発になり、コンタクトセンター運用、IT活用においても生成AI利用の検討を避けて通れない昨今にあります。

■Watsonブームと生成AIブームの違い

コンタクトセンター・サポートセンター業界では10年以上前から既にAIブームがありました。自動応答、チャットボットも一般化し、競ってその利用を企業が検討したのも記憶に新しいものがあります。しかし当時のブームによって業界全体が劇的に変わったという状況までには至りませんでした。
技術的な未成熟、過渡期等、色々な総括もありましたが、確かな与件(目的設定や課題の具体化、成否の判断)が難しかった点に加え、ROE(費用対効果)を見出すにはランニング費用が膨大、SMB(中堅・中小企業)まで含めた市場全体へ波及するにはソリューションが高価格、一部大企業に留まった等、コスト要素も大きかったと考えられます。
近年のチャットGPT含むLLM(Large Language Models・大規模言語モデル)技術とオープンソース利用は、高価なイメージが先行したAIに対して人々の印象を劇的に変えました。 AIの民主化とも言われ、費用を気にせず(一旦は)私的に利用できる環境が整ったことで、AIへの臨場感、現実感を飛躍的に高めました。もちろんコンタクトセンター領域においてもコミュニケーション、応答自動化など、元々あったAI活用へのニーズを実現してくれる(かもしれない)生成AIには大いなる期待が寄せられています。

■“流暢に雄弁に誤っている”WEB情報の氾濫

一方で、波及スピードが著しい生成AI技術が、その課題に直面するスピードもまた迅速だったことも特徴的です。登場一年後の2023年には「ハルシネーション(幻惑)」つまり中身自体は間違いである情報を流暢に回答、生成する問題が、社会課題として全世界的に取り上げられるに至りました。 
企業のサポートにおいても同年にはフラッグキャリアたる航空会社での誤案内と損害賠償の発生、ヨーロッパでの物流サービスにおける顧客トラブルへの“暴走”回答、といった海外事例がニュース化。翌2024年には日本国内においても官公庁サイトでの自動応答の誤り、存在しない情報のサイト掲載等、予見されていた“不測の事態”が実際に起きるようになりました。

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AIブームの度に発生する企業のデータ不足

「まるで人間の様に」「人と会話しているように」抽出/要約してくれる生成AI技術によって、正しいのか/間違っているのか、違いを見極めることも困難な情報が氾濫しうる事態となりました。企業がビジネスを棄損しないよう対抗するには正規情報≒企業のフォーマル/正式な情報を常に発信し、更新し、管理する必要があります。その礎となるのが企業ナレッジであり、ナレッジデータであると言えます。

■知見(業務知識)の見える化とデータ化の課題

ところが多くの企業活動において、そのビジネスにおける知識や経験/ノウハウあるいは決まり事やルールさえ、人の記憶や体験にのみ紐付いており明文化されていない≒データ化していないケースも多数と言われています。本来誤りが許されないWEB公開上のサービス情報においても、いつ、誰が、どのように管理し、最新化されているのか暗黙知的に運用されているケースもあるようです。故野中郁次郎氏は「SECIモデル」という概念の提唱により、企業競争力の源泉としてのナレッジマネジメントを見出されましたが、昨今の生成AIとそれに繋がるナレッジコンテンツ管理の問題は、企業のナレッジ運用を、極めて具体的な事業課題にまで押し上げたとも言えます。

■サポート部門が経験してきたナレッジとAI活用の課題

元来、コンタクトセンター領域においては情報や知識の属人化回避、オペレーション情報のコンテンツ化=ナレッジ運用はAIソリューション登場以前から日常的に課題として向き合ってきました。サービスのWEB化、マルチチャネル、オムニチャネルの推進、チャネルの多様化にも直面してきたサポート業務は、応答自動化/省力化というテーマも見据え、生成AI登場以前から他部門に先んじてAI検討に取り組んできたと言えます。そしてまたAI検討の度に、活用の基礎となる教師(学習)データ=ナレッジデータの不足あるいは不整備に悩まされてきました。コンタクトセンターにおけるコンサルティングにおいては、多くのプロジェクトでAI導入の“前に”まずは「FAQまたはナレッジを見直してみましょう」という状況が多発したと言われます。ナレッジマネジメントは生成AIあるいはLLM技術のその先のAI活用においてもデータの“下ごしらえ”として重要かつ大きな課題となりうることをコンタクトセンター領域の我々は経験してきたと言えます。

AI活用を見据えた“FAQ/ナレッジ”の重要性

コンタクトセンター領域では円滑な業務遂行にナレッジが必要であったことに加え、AI活用を見据えた際には教師(学習)データとしてAIが“学びやすい”データ形態をとっていることも重要になります。この要素は生成AI活用に対しても結びつきます。AIの生成物がより「誤らない」為にも、コンテンツの品質が再度問われるようになりました。改めてQ&A(FAQ)が注目され「構造化」されたテキストデータが必要とされる理由がここにあります。

■AIデータとしてのコンテンツ構造化

「まるで人間の様に」「人と会話しているように」違和感なく、会話の様な“非構造”的な文章を生成できる生成AI技術は、それらを目の当たりにした時、生成AIに学習させるデータもまた、会話そのままのような非構造的文章で問題がない。という誤解を生んでいます。実際のコンタクトセンター領域を含む業務オペレーションに生成AI技術を取り込む時、それら非構造なデータ(コールログやオペレーション上の雑多なメモ、音声からの生の抽出ログ等)は、RAGやファインチューニングといった一種のメンテナンスの技術を得ても尚、ノイズとして処理されシステム運用者の頭を悩ませる機会が多いのは事実です。コンテンツ(情報そのもの)を生成するのか、コンテクスト(しゃべり方、話法、文体等)を生成するのか、は、分解して理解する必要があります。

KCS(ナレッジセンターサービス)と言われるナレッジマネジメントの方法論には、そのカリキュラムにおいて「ナレッジの構造化」という概念と、「コンテンツスタンダード」と言われる規定に沿ってナレッジ記述をすることが習熟するべきスキルとして明示されています。(例:問合せ主文/条件(環境)/回答主文/属性(関連情報・更新日時・作成者等))
非構造な、冗長な会話情報あるいは文章の記録は、人であっても再利用、再読する労力が必要です。問い(Q)と答え(A)というコミュニケーションの普遍の構造とシンプルさがナレッジ再利用を促す最適解だったと言えます。
KCSの発祥は、遡れば1995年にまで至ることができますが、人の業務におけるナレッジ利用のサイクル、リズムの加速を目指した結果、Q&A(&情報)形式、テキスト構造化という結論に至り、それらによって運用されたコンテンツはLLMを含むAI活用にも適応されることが確認され、近年改めてコンタクトセンター領域でのAI活用という文脈でも注目が高まっています。

■FAQ(Q&A)とFAQ管理システム

「よくあるQ&A」つまりFAQは、サポート分野においては顧客(一般消費者)向けのWEB上における質問集といった、ライトな情報として受け止められていましたが、とくにWEBサポートの重要性が高まった2000年代以降、FAQ管理システムはSaaS一般化の後押しもあり、一般顧客向け、社内向け、コンタクトセンター向け等々のナレッジ管理ツールの代名詞として市場を広げてきました。前述のようにAIの教師(学習)データの一丁目一番地としてFAQ管理システムのコンテンツデータを利用するケースも近年増加しています。

生成AIに活用するデータとして確実に有益なものとするには、FAQをテキストデータ(Excelやワード文書など広義のテキストデータ)として所有しているだけではなく、FAQ管理システムでマネジメントされていることは必須となるでしょう。前述のKCSにあったような、「いつ更新されているのか、最新で誤りがないか」「誰がどんな権限で作成されたか、更新されたか」「企業の承認フローを得て正規化されているか」といった情報も合わせてデータとして管理されている必要があります。

FAQ管理システム自体はSaaSソリューションとして日本国内では20年以上の歴史があり、決して目新しいソリューションではありません。コモディティ化した、よく言えば長年の利用実績のあるコンサバティブなシステムと言えます。様々なベンダーが提供している中でも「構造化するコンテンツの品質を保つための作成エディタ機能」「コンテンツの需給を把握する為の分析機能」「複雑な企業組織にも対応できる権限付与機能」といった仕組みが一般化され基礎機能となっていることがほとんどです。

ナレッジマネジメントを名に冠したシステムは、「Lotus Notes」等に代表されたグループウェアやエンタープライズサーチと言われるもの、コミュニケーションツールに付与されたものもあり多岐に渡りますが、前述の“構造化”を保全するソリューションとしてはFAQ管理システムは長年の現場運用で活かされてきた実績があり、一日の長があるでしょう。今後も短期的なAI活用への貢献のみならず、コンタクトセンター領域でのオペレーション改善、しいては顧客体験(CX)貢献の文脈でもFAQ管理システムは注目を受けると考えます。

次回の中編では、コンタクトセンターにおけるFAQ/ナレッジ運用の課題と実践をテーマに取り上げます。次々回の後編は、顧客体験とカスタマーハラスメントを含め、FAQ/ナレッジ運用がWEBサポートに与える影響を取り上げたいと思います。

まとめ

前編では良い意味でも悪い意味でも近年バズワード(概念的な流行)と化している生成AIに絡めて、FAQ/ナレッジの重要性、繰り返される注目と理由をまとめることに主眼をおきました。LLMを含むAIという言葉自体はテクノロジーの総称であり、将来の発展性が高いだけに未知の領域も多く、抽象度の高いテーマとなりやすいものです。
総じてコンセプトが先行し、地に足のついた着地、現場での具体化を見失いがちですが、ご覧いただいたようにナレッジないしFAQの管理と運用は、企業のデータ管理の中でも重要な位置にあり、AIの活用に与える影響と共にナレッジマネジメントのバリューは、引き続き近年高まる一方だと感じます。

テクマトリックス株式会社では、国産CRMシステム提供ベンダーとして30年余りのCRMシステム提供実績から見えた豊富な経験、コンタクトセンター現場でのナレッジ運用ニーズを反映した、FAQナレッジシステム「FastAnswer」を提供しています。
CRM、FAQに加えてチャットボットボイスボット、生成AI連携など拡張を続けている「Fastシリーズ」はWEBでも情報提供を行っています。ぜひご覧ください。

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執筆者紹介

早見 拓也 氏
早見 拓也 氏
テクマトリックス株式会社
CRMソリューション事業部 CRMソリューション推進部マーケティング課
大手コールセンターアウトソーサーにて応対品質調査、サービス開発を経験。その後FAQソリューションベンダーにてシステム導入支援、カスタマーサクセスに従事。現在テクマトリックス株式会社にて、マーケティング課に従事。ナレッジマネジメントの伝道師として各種セミナー講師の活動も行う。
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