ナレッジレコメンドツールの現在とこれから

 2023.03.06  2024.08.19

コンタクトセンターへの問い合わせは多様化し、オペレータが適切な回答をすることが、ますます困難になっています。また、コンタクトセンターでの対応の良さが、企業の製品やサービスの価値と結びつき、より重要視されるようになってきました。これまでは、じっくり人を育て、人海戦術でのぞんで来たものの、採用も難しくなり、センターの維持さえできなくなるリスクもあります。

その課題を解決する手段の一つが、ナレッジレコメンドツールです。これは、コンタクトセンターのオペレータの業務支援ツールの一つで、音声認識システムと連動し、オペレータとお客様が会話した内容をリアルタイムで話題判定し、話題と関連度の高いナレッジ( QA)を自動で画面上に表示してくれるものです。オペレータがナレッジを手動検索する手間が省け工数削減につながること、応対の品質も向上することなどから、導入検討するセンターが増えています。

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ナレッジレコメンドが向いている業務

ナレッジレコメンドツール導入を検討すべきセンター

 コンタクトセンターは、さまざまな課題を抱えています。

  • 高度な知識が求められ、覚えることが多く、蓄積されているナレッジも多い
  • オペレータが手動検索により、該当するナレッジを探すのに時間がかかる
  • オペレータが、ナレッジ・QAを検索するのに時間がかかり、保留時間が長くなる
  • 新人オペレータが、ナレッジツールを上手く使いこなせない
  • お客様の問い合わせに対して、どのようなキーワードで検索すればよいかわからない
  • 新人オペレータが着台するまでに、覚えることが沢山あり教育に時間がかかる
  • オペレータが覚えることに負担を感じてしまい、一人前になる前に辞めてしまう

程度の差こそあれ、どのセンターでもよく聞く話だと思います。かつてはそれらに対してじっくり時間をかけた教育を実施し、人を育てることで課題を解決してきました。しかしコンタクトセンターの役割が変わってきたこと、採用が難しいこと、簡単な問い合わせはチャットボットなどの自動応答で代替されることなどから、オペレータへの負担は高まる一方です。

この状況に対し、自動でQA(ナレッジ)が画面に表示されるナレッジレコメンドツールは有効です。もちろん、ツール導入に構築費用がかかりますが、席数が一定数ある(50席以上)センターで、正しい導入アプローチを実行すれば、効果が出やすく比較的短期に投資の回収も見込めます。ここでは、ナレッジレコメンドツールの導入成功のアプローチを、導入前、導入後わけて説明し、早期かつ確実にオペレーターの生産性と品質を向上させ、投資対効果を最大化する方法を解説します。

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成功のためのアプローチ

ナレッジレコメンドツールは、少し前のAIブームでは、夢のツールと言われました。AIが既存のマニュアルを読み込んで学習し、オペレータが必要なナレッジを自動で出してくれる。オペレータはそれを見るだけで、問い合わせに対応できるため、教育も必要無くなるというような話です。

しかし、実際はそんなことは起きません。戦略なく作成されたナレッジを、ただAIに詰め込んで導入しても、業務は効率化しないばかりか、人海戦術でできていた対応さえできなくなり、現場が混乱した例も多かったのです。これまでの多くのシステムと同様、ナレッジレコメンドツールもその導入の仕方や活用の仕方によって、効果が大きく変わります。そのポイントを、一つずつ説明します。

導入前の検討ポイント

コールリーズン分析から優先する問い合わせを特定

まず最初に実施するのは、コールリーズン分析です。通話をリアルタイムにテキスト化し、テキストマイニングツールによって、通話の内容を分類し、お客様の問い合わせの内容や、どのような対話が行われているか、具体的な質問はどのような言い回しかなどを、詳しく分類します。

CRMツールに問合せ内容をカテゴライズし、どのような話題が多いかを把握されている業務は多いと思います。ただCRMのカテゴライズは1通話に一つのカテゴリしか登録しない、お客様からの問合せ内容全てを網羅出来ていないといった問題がありました。しかし、音声認識を導入し、テキスト化されたデータを分析することでカテゴライズで漏れていた細かい問合せ内容も把握できるようになりました。問合せ内容を把握した上でナレッジを投入しますが、現存するナレッジの全てを投入して自動表示させると、ツールの使い勝手が悪くなるため、分析結果を元に後述するポイントを踏まえ、対象オペレータの業務改善に効果があるQAを、優先的に投入します。

また、話題に関連する言い回しがわかることで、後述するFAQの記述のヒントが得られます。サービスや製商品を提供する企業側が仮説で考えたFAQは、お客様がどういう疑問を持ち、どういう言い回しで質問するか?の視点が欠けていて、技術的、専門的な文章になりがちです。それでは、適切なQAのレコメンドや、自動応答・自己解決促進にもつながりません。顧客の生の声で分類分けすることが大切です。

コールリーズン分析の二つの視点

コールリーズン分析は2つの視点で実施します。

一つ目は通話全体を可視化する分析です。この結果でパレート図を作成、問合せ件数が多い話題を優先して対応することで、なるべく少ないQAで、多くの問い合わせに対応できるようにします

二つ目はオペレータが保留にしている話題の局所的な分析です。個人情報の確認や、運用ルール上保留にしなければいけないものは除き、オペレータが回答に困って保留にしている話題を詳細に分析することで、ナレッジを優先して表示する話題を特定します。

自動応答・自己解決への応用

また、このテーマの本題ではありませんが、コールリーズン分析をした結果、QAがあまりにも明確で、型化されたやりとりになる場合、自動応答(チャットボットやボイスボット)や、外部FAQ公開による、自己解決により、そもそも電話がかかってこないようにします。自動応答や自己解決の比率をあげ呼量を減らすことは、オムニチャネル戦略の中でも重要な施策の一つになります。

対象となるFAQ(ナレッジ)を紐づける

コールリーズン分析の結果から「量が多い問合せ」「オペレータがよく保留にしてしまう問合せ」を特定したら、その問合せに対するナレッジをレコメンドツールに投入します。すでに理想的なQAが網羅されていることはまれで、分析結果をもとにして投入するナレッジの内容を精査します。

問合せが多い話題なのに、QAが存在しなければ新規作成をします。また、QAは存在しても内容が書き言葉でオペレータがそのまま読み上げて案内できない場合は、回答文を書き換える必要があります

問い合わせの話題に対してQAの粒度がばらばらで、別の話題に対して同じQAが存在したり、逆に同じ話題に対応するQAが複数該当する場合などは、頻度の高い問い合わせの言い回しに対して、少ないQAで対応できるようにQAの統廃合をして最適な粒度にします

問合せ量が多くても、一問一答で答えられない複雑なもの、回答難易度が高いもの、個別事象に関連する問合せになどについては回答文を工夫し、都度の人的対応にシームレスにつながる文面の工夫をします。オペレータが誤案内をしないよう、表やフローチャートにするなど、図を使うことも意識すると効果的です。

QA(ナレッジ)は一度作って投入したら終わりではありません。その時点での問合せ傾向に合わせて内容を調整し、季節性があるものはQAを入れ替えるなど、継続的改善が必要になります。問合せ量が少なくても、キャンペーンのように突発的に発生し周知させるのが大変なものも、ナレッジレコメンドでの自動表示の対象とします。

以上、問合せに対するナレッジの紐つけ方を紹介しました。これが全てではありませんが、大切なのは顧客の言い回しや語られている話題に対して、正しい粒度で正しい内容のQAが表示されることです。そのための課題解決するために、多面的にナレッジを研いでいくことが重要になります。

対象となるFAQ(ナレッジ)をひもつける

ナレッジレコメンドツールを使う人を決める

ナレッジレコメンドツールは、センター全員に使ってもらう必要はありません。ベテランは、基礎対応のためのスキルが高く、マニュアルの検索や、伝統的なナレッジツールの検索などに慣れているため、FAQが自動表示されても画面を見ない場合が多くあります。また、少しでも誤表示があると、かえって業務の妨げになってしまいます。

完全な新人もまた、自動表示されるナレッジの是非を判断できず、間違った案内や、内容の棒読みになったりするため、おすすめできません。新人を対象とするときは、スキルを絞り、表示されるナレッジを限定するなど、対応レベルに応じた導入の工夫が必要です。

一番効果があるのは、独り立ちには至っていないが、着台はしている中堅のオペレータです。対応に必要な基礎力はついたが、まだ詳細の内容は確認しないと自信がない。そのため、多くのナレッジを検索しながら対応する必要があるが、複雑なやりとりをしながら、マニュアル検索で対応しては、スムースなやり取りができず、保留時間が多くなってしまう。そこをナレッジレコメンドにより、適切なQAを表示してあげるのです。仮に間違ったナレッジが表示された場合は、スキルがあるためそのことに気がつき、別ナレッジを検索して正しい応答を完結させることもできます。そのトラブルのフィードバックを受ければ、表示の性能を改善することにもつながります。

つまり、センターのスキルの分布により、対象のオペレータを選択して効果を最大にすることが導入成功のポイントです。また、ベテランオペレータの応対は、すべてのオペレータに参考になることが多いので、ツールの利用者と言うよりは、ナレッジの精査に協力してもらい、QA改善や、彼・彼女たちのトークを分析しよい受け答えにつながるQAを作成したりします。

ナレッジレコメンドツールを使う人を決める

システム環境の確認

ナレッジレコメンドツールは、通話中に画面が立ち上がった状態で、会話をしながら該当するQAを自動で検索して表示します。センターによって、音声認識、ナレッジレコメンド、コンタクトセンターCRM、基幹システムなど、多数のシステムを使う必要がある場合、ツールの画面配置を工夫して、業務が適切に実行できるかを検証する必要があります。センターによっては、デュアルディスプレイや、大型画面を導入して業務を行っているところもあります。

導入後の検討ポイント

この手のツールは導入しただけは終わりません。そこから、定着化フェーズに移ります。定着化にもさまざまなポイントがあります。

スモールスタートを実施する

ツールを入れる時、いきなり全面展開をするのではなく、スモールスタート(対象オペレータを一部に絞って展開)がおすすめです。対象となるオペレータに、実際に使ってもらいながらUIの調整を行ったり、ナレッジのチューニングを行うことで、より使いやすいツールに仕上げることが出来ます。本番では利用しないベテランオペレータに、あえて利用してもらって、フィードバックを得たり、新人への貢献度を検証して、本番導入対象者を決めます。また、オペレータだけではなく、管理者にもツールの動きを見てもらい、意見をもらうことも重要です。

ツール利用を定着させる

一番重要なのは、ログインをしてツールを使うことを定着化させることです。最初のうちは管理者がオペレータのログイン状況をチェックし、通話中の画面の配置を見て、実際に業務に使っているかを詳細に見極めます。一定期間が過ぎたら、オペレータに利用者アンケートを行って、実際利用してみて不便に思っているところ、足りないQA、応対の改善度合いなどのフィードバックを得ます。

ナレッジレコメンドは、ログインして応答中利用して、自動FAQが表示されそれを効果的に利用して、保留が短くなったり通話時間が短くなったり、ミスが減って初めて効果が出たと言えます。導入時に想定した効果を出すためには、対象者全員が確実にログインし業務に利用し、問題があれば早い段階でそれを見つけ、継続的改善に結びつけることが重要です。

QAのチューニングを実施する

導入段階でテキストを分析したテンプレートは、継続的に利用可能です。会話テキストに対して、QAのカバレッジ率を定期的に確認し、足りないQAがあれば随時追加をしていきます。また、使われなくなったナレッジがあれば、それを削除したり統廃合したりします。オペレータからのフィードバックも優先度の判断後、必要ならナレッジの追加などを実施します。100%のカバーは難しいですし、頻度の低いナレッジを入れると、逆に頻度の高いナレッジの表示精度にも影響がでます。そのため、業務にもよりますが、問合せの70%から80%をカバーするQAが、ツールに格納されていれば十分と考えます。

その他のポイント

ツールと業務両方を知っているベンダーを選択する

ナレッジレコメンドツールは、センターの運用に密接に関わるものとなります。導入するにあたっては、ナレッジ整理が必須となるためKCS(ナレッジセンターサービス)の概念を理解し、センター運用、システム導入、コンテンツ分析、継続的改善などに総合的に対応できるベンダーが望ましいと思います。

推奨ツールについて

ナレッジレコメンドツールは、市場に複数存在します。本記事のアプローチは、システムに依存せずに利用することができます。一方で、当社では、VEXT社のVextRecommend を推奨し、公式ソリューションとして提供しています。VEXT社は、テキスト分析関連ツールのリーダー的存在のメーカで、当社ではテキストマイニングツールである、VextMinerを使い、コンサルティング、FAQ最適化、VOC分析、センター品質改善など、あらゆる改善・改革サービスにこの技術を利用しています。VextMinerは、コンタクトセンターの会話の分析に優れ、話題を分類し、お客さまとの間で何を話されているかを可視化します。その技術と、コンサルタント知見をかけ合わせ、コールリーズン分析やQA対象の問合せ特定をします。

そのVextMinerテンプレートをリアルタイムに組み込んで、会話の意味を理解しながら最適なQAを表示するのがVextRecommendになります。キーワードポップアップや、Q文のマニュアル特定による、自然文QA検索ツールとはまったく違う、現存では、もっとも優れたコンタクトセンターナレッジレコメンドツールと考えます。

当社では、BellCloud+の音声基盤に、AmiVoice による音声のテキスト化を提供し、そのデータをリアルタイムに連携して、VextMinerの利用と、VextRecommendを導入することが可能です。

ナレッジレコメンドツールは魔法のツールではありませんが、問合せを分析し優先度を特定しQAを紐づけ、効果の出るオペレータを対象にすれば、センターの課題を解決する非常に効果的なツールになります。現時点では、この技術を超えて、人が使う言葉の意味を理解するAIは存在しませんが、いくつかの発展形が考えられます。

コールリーズン分析からFAQ紐づけまでの作業支援

現在は、会話を分析して話題を特定、コンサルタントが内容を精査して優先度決めや、Q文抽出、FAQとの紐づけなどを行います。この作業をなるべく自動化し、多くの作業をシステムによって対応することで、導入や継続的改善の生産性を劇的に向上させることができます。VextMinerでは、知識生成オプションを利用することで、これまでマニュアルでしかできなかった、これらの作業の多くを自動化してくれます。

文脈レコメンド

一つの内容に対応するFAQの表示は、今回のアプローチに従えばかなりの精度まで高めることができます。この技術を応用すると、話題の順番をパターン化することができます。すると、個別の話題に対してQAを紐つけるだけではなく,会話のパターンに応じて推奨するスクリプトを自動表示してオペレータをガイドすることが可能になります。VextRecommendには、トークフローリコメンド機能が実装されており、当社でも、定番のパターンが強く見いだせる業務に適用が始まっています。この延長で、重篤クレームの対応や、クロスセル・キャンペーン告知のコンバージョン向上、解約阻止など、シナリオに応じたさまざまな支援が、テンプレートによって、形式知化されることが期待されます。

過去事例

オペレーターが分からないことがある時に手動検索していたある業務ではAHTが10分でしたが、VextRecommend導入後は通話内容から適切なFAQ自動表示、話題の変化に応じてトークフローリコメンドが実施されるため、AHTが8分となった事例もあります。工数の削減効果ももちろんですが、応対品質の均一化を行うことも出来ました。

ナレッジレコメンドの未来

自動応答や自己解決との連動

コールリーズン分析のところで話をしましたが、今後問合せ受付については自動応答でや自己解決で対応する部分が増えていくと思われます。そのためなるべくならナレッジレコメンドを使いQAを表示し、そのノウハウが溜まったら自動もしくは半自動で、外部FAQとして公開していく。センターの問合せ対応ノウハウが高まると、自己解決コンテンツが磨かれ、センターへの問合せが減るサイクルが期待されます。現在、コンタクトセンターCRMシステムでは、このような統合管理はあたりまえですが、ナレッジレコメンドの仕組みも、どんどん外に向かって開かれていくことが予想されます。

オペレータ対象範囲の拡充

ナレッジレコメンドが洗練され、定番のQAは自己解決や自動応答と連動して、センターの問合せは減っていきますが、その分オペレータが受ける問合せは、自己解決できなかった内容に絞られることになり、より高度な対応が求められるようになります。

そのため、ナレッジレコメンドの内容も、より高度な問合せにもオペレータが安心して対応できるように、高度化していかなければなりません。そして対象範囲も、新人、中堅、ベテランを含めた、広範囲のオペレータを支援するようになるでしょう。

言語の意味理解

現在のAIでは、言語の意味理解はできません。したがって、今回のような方法論にもとづいた正しいアプローチが、ナレッジレコメンドの導入成功には必須になります。しかし、技術は日々進展し、チャットでのテキスト対話は、自然文のようなやり取りがあたりまえとなり、より自然なものになってきています。ナレッジレコメンドも、分類による準備したQAの表示に変わって、より複合的なマニュアルを質問文に合わせて合算し、まるでベテランのオペレータが横でガイドしてくれているかのような、回答支援をしてくれるかもしれません。新しい技術には目を配り、人海戦術に固執せず、センター知見を技術にあわせて継続的に書き下していくことで、それらのメリットを最大限享受することが可能になると思います。

まとめ

ナレッジレコメンドツールは、高度な知識が求められ、ナレッジが多く蓄積されている50席以上のコンタクトセンターであれば効果が出やすいです。導入効果を高めるためには、まず導入前にコールリーズン分析を実施すること、投入するナレッジをきちんと整備することが必要となります。また、センター全席に導入を考えるよりも、対象者を見極めて、ミニマムでまずは導入することをお勧めします。センターの中堅層をベテランに育成するのに、ナレッジツールは最適なものと考えます。

執筆者紹介

高美 由果理
高美 由果理
入社後、新聞社、スポーツメーカー、保険、通販業務などのコンタクトセンター運用を経験。その後新規事業開発推進部に異動し、BtoBイベント施策立案や実行、アウトバウンド専門センター企画及び立ち上げを推進。その後コンサルティング部に異動し、センター統合業務コンサルティング、音声認識ツール導入、テキストマイニング、チャットボット導入PRJなどを多数実施。
最近ではコールリーズン分析を起点としたオムニチャネル戦略や、商品・サービス改善などのPRJ全体管理を行っている。
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