VoC(Voice of Customer:顧客の声)を戦略的に活用し、継続的に改善していくことが、ビジネスにおいて極めて重要であることは、もはや議論の余地がありません。顧客の声を正しく理解し、ビジネスに活かすことは、競争力の強化、売上の拡大、ブランド価値の向上につながります。
アンケート、SNSの投稿、商品レビュー、チャットのログ、窓口対応など、顧客の声はさまざまなチャネルから寄せられています。近年は、こうしたマルチチャネルのVoCデータを分析・活用する動きが加速しています。どのチャネルのデータも重要であることに変わりはありませんが、コンタクトセンターには緊急度や重要度の高い相談・問い合わせが集まりやすく、VoC活用において不可欠なチャネルだといえるでしょう。
また、生成AIなどの技術革新により、コンタクトセンターにおけるVoC分析の手法も進化し、新たなトレンドが生まれています。
本記事では、エモーションテック(以下、当社)がご支援した事例をもとに、これらの最新トレンドをご紹介します。
「すべての声」を定量的に捉えて、改善につなげる
お客さまから寄せられた声を改善につなげるという取り組みは、コンタクトセンターでは従来行われてきたことです。
ただ、これまでは、まず人が対応履歴を読み込み、その上でどういったご意見だったのかを分類・集計し、それを元にレポート化し、改善実行するという流れで実施されており、「対応履歴の読み込み」「分類・集計」「レポート作成」といったすべての工程で人的コストを要すること、それによりすべての声を分析できないという課題がありました。
そこで実際に行われていたのが、読むべき声を意図的に選り分けることです。強めの苦情など温度感・緊急度の高いお声のみ分析し、そこへの改善活動をする。
生成AIの発展以前では、こうして取り組むポイントを絞り込んで対応せざるを得ませんでしたが、お客さまの声の全体の傾向は捉えることができず、重要なインサイトを見落としている可能性もありました。
そのようななか、近年の生成AIなどの技術革新により、膨大なデータの分析が短時間でできるようになりました。つまり、これまで見過ごさざるを得なかった「すべての声」を分析したより高度なインサイトから改善活動ができるようになったのです。
このように、より多くの声を分析しながらも、各工程にかかる時間と人のリソースを削減し、改善実行に使えるようになりました。こうした分析の効率化・高度化の取り組みは、コンタクトセンターのみならず、あらゆるVoC分析の中で広がりを見せはじめています。
例えば、当社では横浜市消防局様に対し、救急要請の背景について分析する支援も行いました。この取り組みでは、緊急性の低い救急要請の背景・理由の詳細を素早く効率的に定量化できることが実証されるとともに、今後この分析結果は救急車の適正利用に向けた取り組みの検討に活用されます。
では、コンタクトセンターではどのような目的でコールの分析を高度化しており、その分析によってどのような成果を上げているのでしょうか。
次項では、当社でご支援をした金融業界・モバイル業界のコンタクトセンターにおいて、入電内容のVoC分析を効率化・高度化した事例を2つご紹介します。
問い合わせ体験改善、呼量削減の取り組み事例
両事例における分析の対象は、コンタクトセンターへの入電の記録データです。
当社が提供する“生成AI×統計解析”を活用したテキスト分析サービス「TopicScan®」を用いて、入電内容の要約・情報整理、コールリーズンの抽出、ラベリング、レポーティングという流れで分析を行いました。
金融業界 X社の取り組み事例:「改善をしたか」から「お客さまのペインを解決できたか」へと課題のあり方を見直すきっかけに
X社のコンタクトセンターには、毎月平均で7万件を超える問い合わせが寄せられ、データが蓄積されていました。
同社ではこれまでも機械学習をベースとした分析システムを用いて、専任グループのメンバーにより分析し、改善に繋げる取り組みを進めてきましたが、分析に多大な時間・人的リソースがかかること、それにより改善策を検討・実施するまでに時間がかかること、そして全体を定量的に把握できていないことが課題となっていました。
当社とのPoCプロジェクトにおいて、コンタクトセンターへの入電の音声データを書き起こしログとしてテキスト化し、そのテキストデータを適切な前処理をした上で分析することで、問い合わせデータを正確に分析できることが示されました。
今後、すべての問い合わせデータを定期的に分析することで、よりスピーディに改善を実施できる見込みです。
この取り組みにより、コンタクトセンターでは「改善をしたか」ではなく、「お客さまのペインを解決できたか」というより本質的なお客さま本位の業務運営ができるようになっていくでしょう。
モバイル業界 Y社の取り組み事例:分析を元に実施した改善により呼量削減が実現
モバイル事業を展開しているY社では、FAQを充実させたり、チャットボットを導入したりするなど、ユーザーがコンタクトセンターへ問い合わせをせずに自己解決できるよう、これまでも改善を実行してきました。
ところが、お問い合わせをされる方の約40%が事前にFAQを見ているにもかかわらず、お問い合わせが増加傾向にあるという課題がありました。
そこで、問い合わせの記録データから「なぜお問い合わせするに至ったか」を分析することで、改善が必要な箇所の洗い出しを行うこととなりました。当社は、問い合わせの分析から、課題の洗い出しまで並走してご支援。
お客さまの体験に沿って改善のポイントを整理し、分析で得られた示唆を元にサイト上の体験を改善しました。
改善直後から解約などに関する入電数の減少が見られており、同様の改善を重ねることで、さらに削減できる可能性が見込まれました。
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入電の音声データは、これまで非常に扱いづらいデータとされてきましたが、当社では生成AIの精度を安定化させる独自の仕組みを導入することで、生成AIによるハルシネーション(誤分類・誤分析)を抑え、入電データを正確に要約・分類することに成功しています。
さらに当社では、アウトバウンドのコンタクトセンターへのご支援も行なっています。
過去の対応履歴を分析することでお客さまのなかにある問題がどこに起因するものなのかを明確にし、事前に把握しておくことでお客さまとの対話でのアクションを精緻化する取り組みです。
こうした事例を、コンタクトセンターやお客さま対応の責任者の方にご紹介したところ、「まさに今後やりたい、やらねばならないと考えていたことだ」とのお声をいただきました。コンタクトセンターの全件コール分析および改善への比重を増やす取り組みは、今後さらに広がっていくものと、私どもは確信しています。
こうした事例をより詳しく知りたい場合は、ぜひ当社までお問い合わせください。
まとめ
本稿でご紹介したように、お問い合わせ件数が膨大なコンタクトセンターにおいて、生成AIを活用した分析は特に有効です。
冒頭でも触れたように、コンタクトセンターはお客様が困難な状況に直面した際の対応窓口 となることが多いため、迅速かつ的確な対応が求められます。
緊急性の高い状況で待ち時間が長引いたり、たらい回しにされたり、課題が解決できなかったりすると、 お客様のストレスが増大し、顧客体験の低下につながるだけでなく、オペレーターの負担増加やブランド価値の毀損にもつながりかねません。
コンタクトセンターの改善は、お客様の体験を向上させるだけでなく、そこで働くオペレーターのみなさまの環境改善にもつながる重要な取り組みだと私どもは考えています。
みなさまの業務改善、お客さまへの体験価値向上に、本稿でお伝えした事例をお役立ていただけますと幸いです。
なお、私どもはコンタクトセンターはもちろんのこと、さらに幅広い業務においてお客さまの声を活用していただき、お客さまお一人おひとりの体験改善のために役立てられることを願い、テキスト分析サービス「TopicScan」によるレビュー分析のレポートも公開しています。
直接お客さまの声を聞くことが難しいメーカーなどでのお問い合わせ窓口においては、こちらのレビュー分析レポートが活用のイメージを掴んでいただきやすいのではないかと思います。
ご興味があればぜひこちらもご覧ください。
執筆者紹介

代表取締役
大学卒業後、日立製作所、ファーストリテイリング、早稲田大学ビジネススクールを経て、2013年に株式会社wizpra(現・株式会社エモーションテック)を創業。CX・EXの分析に関する独自の手法を開発し特許を取得、700社超のエクスペリエンス・マネジメントを支援。また、ウェブメディア
「 Customer Focus 」にて顧客起点の経営を目指す企業の取り組みを発信。
著書に『実践的カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント』(日経BP/2019年刊)がある。
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