マーケティング視点で見る
コンタクトセンターデータの重要性

 2023.11.13  2024.05.09

今回はマーケティングのデータとコンタクトセンターのデータを連携し、売上の拡大につなげた事例をご紹介します。また今後重要になるコンタクトセンターの音声データ、テキストデータの重要性についてご説明します。

顧客の直接の声が音声データやチャット等のテキストデータとして収集されるコンタクトセンターのデータはマーケティング側から見ても重要なデータです。さらにクラウド技術の進展と生成AIの拡大により音声データ、テキストデータの活用がこれから一気に進む可能性があります。今回は2つのポイントに分けて詳細をご説明します。
1点目は弊社がデータマーケティングの領域でよく活用しているロイヤル顧客の分析・AI予測モデルの手法を、コンタクトセンターに転用して売上拡大につなげた事例です。
2点目はコンタクトセンターのデータをマーケティング側に連携することの重要性について、構造化データと非構造化データに分けてそれぞれご説明します。

マーケティング視点で見るコンタクトセンターデータの重要性

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データマーケティングの手法をコンタクトセンターへ転用し売上を拡大

生命保険会社においてデータマーケティングの手法をコンタクトセンターに転用することで、売上拡大をした事例をご紹介します。
この生命保険会社では広告等でWEBサイトに集客を行い、生命保険の資料請求をしてもらうことが最初の顧客との接点になります。その後、コンタクトセンターのオペレーターが架電をして「先日お送りした資料は届いていますか?」「保険商品の検討状況はいかがですか?」と商品説明も加えながら申込につなげていくことが基本的な流れとなります。その際、どの資料請求者に対してどのオペレーターが電話をするかを決める架電リストの作成が必要になりますが、この会社ではコンタクトセンターの管理者がデータ取得から架電リスト作成までを自ら日々対応していました。この架電リストをもとに、オペレーターが架電を行い、その結果をもとに翌日以降どのオペレーターに対してどの資料請求者のリストを渡すかを管理者が分析して対応する、という流れになっていました。
この従来の方法において課題が3点ありました。

1.    手動でのリスト作成に時間がかかる
2.    オペレーターの得手不得手の差
3.    ノウハウの属人化

まず、1点目は管理者が手動で架電リストを作成しているため作業の時間がかかります。2点目はオペレーターには得意、不得意があるという問題があります。オペレーターによって高齢層に強い方、若年層に強い方がいます。保険の知識についても商品によって差があるため、どの資料請求者に対してどのオペレーターが架電するかのマッチングには改善の余地があります。3点目は管理者にノウハウが蓄積されているため属人化されている状態が続いており、会社としてノウハウが蓄積される状態になっていませんでした。

そこで先ほどの課題3点に対してデータマーケティングの手法を活用して解決を進めていきました。
まずは基幹システムに格納されている資料請求のデータをRPAによって自動取得を行い、データ加工までを自動化しました。これにより属人化を防いで作業時間を短縮しました。
続いてAIの予測モデルの活用です。機械学習のスコアリングを用いてオペレーターの得意・不得意を考慮した上で資料請求者とのマッチングを最適化するモデルを構築しました。どのオペレーターがどの順番でどの資料請求者に架電することが、1日あたりの保険申込が最大化するかをAIが計算し、オペレーターに日々架電リストを配布しています。
最後にコンタクトセンターの運用に合わせた様々な条件をAIの予測モデルに組み込みました。当日のオペレーターのシフトや1人あたりの架電可能数、資料請求者の属性情報から電話がつながりやすい推奨時間帯の追加など、コンタクトセンターの運用における様々な変数や制約を組み込んで予測モデルを構築しました。
このように単純なAIスコアリングだけではなく、実際のコンタクトセンターのオペレーションを考慮したデータ活用が重要なポイントとなります。
その結果、この生命保険会社のKPIである1資料請求あたりの平均売上は1.4倍に増加する結果になりました。また同時に架電リストの作成時間も大幅に短縮されたことでコスト削減にもつながっています。

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マーケティングのクーポン配布に使われるアップリフトモデリングの活用

マーケティングでは重要な顧客に対してのクーポンの配布がよく利用されています。その際、誰にクーポンを配布するのが最も効率的かを分析するアップリフトモデリングという分析手法があります。この分析手法をコンタクトセンターの運用に活用した事例をご紹介します。

まずはクーポン配布の最適化に用いられるアップリフトモデリングの分析手法をご説明します。
先ほどの事例のように機械学習のスコアリングは申込や購入の可能性が高い顧客を予測するモデルになりますが、購入の可能性を予測することと、クーポン配布等の施策実行後に購入の可能性が上がるというのは別物になります。
ある顧客の購入の可能性が高いことがAIの予測によって事前にわかったとしても、その顧客は既に商品の検討が十分に済んでいる場合や、ロイヤルティが既に高い状態の場合は何もしなくても買っていただける可能性があります。この場合は費用をかけた施策をあえて行う必要性が低くなります。
そこで施策を行った場合にだけ、申込や購入の可能性が上がる顧客なのかどうかを事前に予測する分析手法がアップリフトモデリングです。
この分析手法により「クーポン配布の有り無し」2パターンと「その場合の購入発生の有り無し」の2パターンを掛け合わせることで顧客は4象限に分類されます。

•    「鉄板」:クーポンの有無に関わらず購入する
•    「無関心」:クーポンの有無に関わらず購入しない
•    「説得可能」:クーポンがあると購入する
•    「あまのじゃく」:クーポンがないと購入する(施策対象外)

クーポン送っても送らなくても購入してくれる層は「鉄板」と呼ばれます。逆にクーポンを送っても送らなくても購入がない層は「無関心」と呼ばれるグループです。
施策を行うにあたって重要になるのは「説得可能」と呼ばれるグループです。クーポンを送った場合には購入があり、クーポンを送らない場合は購入しない顧客層でこのグループに費用をかけた施策を実施することが有効です。
逆にクーポンを送った際に購入がなく、クーポンを送らなかった場合に購入されるグループは「あまのじゃく」と呼ばれて施策対象から除外します。

このアップリフトモデリングをコンタクトセンターの施策に活用した事例をご紹介します。
先ほどの生命保険会社の事例では「説得可能」グループに対しては、架電が効果的なため優績者が架電をして確実に申込を取っていきました。
「無関心」グループについては架電の余力がある場合にアプローチします。「鉄板」グループについては架電有無に関係なく申込にはなる可能性が高いのですが、あえて新人のオペレーターのモチベーション管理に活用しています。新人のオペレーターで何件も電話しても申込が取れない場合はモチベーションの低下が懸念されます。そこで何件かに1件は「鉄板」グループのリストを混ぜることで申込率を高め、モチベーションを維持するために活用されています。「あまのじゃく」のグループについては架電対象外となります。
このようにデータマーケティングの手法をコンタクトセンターに転用することで売上拡大につながる施策とすることが可能です。

重要性が高まるコンタクトセンターデータを顧客データ基盤に統合

続いてマーケティング側から見たコンタクトセンターデータの重要性についてご説明します。顧客の直接の声が音声データやチャット等のテキストデータとして収集されるコンタクトセンターのデータはマーケティング側から見てとても重要なデータです。ただし現在はマーケティングとセールスのデータ統合は進んでいますが、コンタクトセンターのデータ統合は進んでいない印象です。
これからマーケティング側の顧客データ基盤とコンタクトセンターのデータ連携を連携し、顧客体験全体を設計する動きが進んでいくと考えられます。

コンタクトセンターのデータは構造化データと非構造化データに分けることができます。
構造化データは既に表形式に整理できているもの、非構造化データは音声そのままのデータやチャットのテキストデータをイメージしてください。この両方の重要性、必要性がマーケティング側から見て高まっていきます。

まずは構造化データの活用です。
構造化データは共通のキーがあれば他のデータと結合が可能になるため、比較的容易に顧客データ基盤と統合し、活用することが可能です。顧客データ基盤(Customer Data Platform)における分析の進め方は一番左に顧客IDがあり、顧客一人一人のデータを加工しながらデータベースとして整理をしていきます。既に顧客データ基盤ではマーケティング、営業、CRM等のデータは統合が進んできています。
しかしコンタクトセンターの構造化データが顧客データ基盤に統合されているケースが少ない印象があります。例えば顧客IDごとにインバウンドの電話がかかってきた回数、対象顧客IDへのアウトバウンドの回数、その結果をカテゴリ分けしたものなど、顧客データ基盤に統合できれば有効なデータが多くありますが、まだ統合が十分には進んでいない印象です。
このようなコンタクトセンターの構造化データの統合だけでも、マーケティング側から見れば分析や施策実行にあたっての重要なデータとなります。

続いてさらに大きな可能性があるのが音声データやチャットのテキストデータのような非構造化データになります。前提としてデータ活用にはデータを構造化できるかが大きなポイントになります。
今まで音声データは保管コストが高く、テキスト化・要約などの加工の難易度が高いという特徴がありました。そのため構造化することが難しく、音声データ単体での活用に加えて、顧客データ基盤など他データとの統合も難しい状況でした。
その中で昨今のクラウド技術の進展によるストレージコストの低下に加えて、生成AIの登場によりこの課題が一気に解決する可能性ができています。先日ベルシステム24からもプレスリリースがありましたが、生成AIの活用により音声データのテキスト化、要約の精度が大幅に上がっており、非構造化データの活用が進むと考えられます。顧客ID単位で要約までできれば構造化データに変換することが可能ですので、マーケティング等の顧客データ基盤に統合することができます。
例としては音声データを変換した感情解析の結果や、顧客ニーズの分類、ロイヤルスコア、場合によっては興味関心等の追加の属性を付与することができればマーケティングにおける分析の幅が大きく広がります。
当然ながらプライバシーには十分考慮する必要がありますが、この領域は今後大きな可能性を秘めており、直接顧客の声が収集できるコンタクトセンターの重要性はますます高まると考えています。

まとめ

今回はデータマーケティングでよく活用している手法をコンタクトセンターに転用して売上拡大につなげた事例をご紹介しました。マーケティングのAI分析手法を転用する際、コンタクトセンターの運営ノウハウや制約をAI活用に組み込むことが重要となります。
またコンタクトセンターのデータをマーケティング側に連携することの重要性についてご説明しました。構造化データと非構造化データそれぞれで活用の可能性があり、コンタクトセンターのデータはマーケティング側から見てとても有益で今後重要性が高まると考えています。特に音声データは生成AIの拡大により大きく活用の幅が広がる可能性があります。
弊社は2023年9月からベルシステム24グループとなり、これからマーケティングとコンタクトセンターを連携したデータ活用を推進していきます。また事例が出てきた際はご紹介の機会をいただければと思います。

執筆者紹介

藤縄 義行 氏
藤縄 義行 氏

株式会社シンカー 代表取締役社長
2005年サイバーエージェントに新卒で入社し、11年間デジタルマーケティング業務を経験。2016年に独立し、顧客データ分析のコンサルティング業務に従事した後、2017年7月シンカーを3名で創業、取締役に就任。事業責任者として様々な企業のデータマーケティングを支援した後、2023年7月に代表取締役社長に就任。
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