ナレッジマネジメント導入の秘訣 事例紹介編

 2022.05.31  眞尾 昭弘

顧客の問合せは多様化し、コンタクトセンターへの要求も年々高度化しています。一方で、労働市場では採用難が続き、スタッフの定着化や品質、生産性向上が主要課題となっています。その解決のために、ナレッジを整備するセンターも多くありますが、思い付きの施策では効果が出ずかえって現場が混乱してしまうケースも少なくありません。そこで今回は、当社のナレッジマネジメント方法論を適用し、センターで大きな効果を上げた事例を紹介します。

ナレッジマネジメント導入の秘訣_事例紹介

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事例の背景と目的

ある生命保険のカスタマーサポートセンターでは、多岐にわたる問合せに対応するため、約半年間かけてオペレーターを育成しています。育成に使う研修資料や業務マニュアルはナレッジシステムに格納されており、オペレーターは膨大なナレッジを読み込んで、知識を習得します。また、着台後は正確な対応が求められるため、必ずナレッジを参照して回答することを徹底していました。ナレッジは顧客対応の重要なオペレーター支援ツールという位置付けで、その点はいいのですが、もともと古いナレッジシステムを長く使っていたため、ナレッジ作成が属人化しており、作り手によって構成や表記がバラバラでコンテンツが分かりにくい状態でした。

その中で、最新のCRMシステム導入とともに実装されたナレッジ機能を活かし、旧システムのナレッジをそのまま移行して新ナレッジシステムの利用を開始しました。しかし、ナレッジシステムが新しくなっただけで、業務プロセスもコンテンツも古いままであり、生産性はかえって落ちて、育成に時間がかかり、離職率に悪影響を及ぼしていました。その状況を改善するため、ナレッジマネジメントの本格導入が行われることになりました。

ナレッジマネジメント導入アプローチ

当社ナレッジマネジメントの導入方法論は、計画、分析、設計、構築フェーズに分かれており、その標準的な手順に従ってセンターを改革します。ナレッジマネジメントのフレームワークとして、

  • コンテンツ
  • ナレッジ型運用
  • ナレッジチーム
  • ナレッジKPI
  • ナレッジシステム

の視点でセンター全体を分析し、課題を俯瞰的に洗い出します。また、通常はコールリーズン分析により問い合わせを徹底分析し、コンテンツ改善のポイントを抽出しますが、これについては、過去同様の分析がされ、現場も必要ナレッジに対するアイデアを十分持っていたため簡易分析にとどめました。そのかわり、視認性、分かりやすさ、情報量などを可視化するアプローチにより、抜本的なナレッジコンテンツの改善を目指しました。

プロジェクト体制は、現場とのコミュニケーションを重視し、センター内に半常駐での対応で実施されました。

具体的な実施内容

ナレッジ課題の洗い出し

ここからは、具体的に実施した内容について触れていきたいと思います。まず、分析フェーズでは、ユーザーインタビューとナレッジコンテンツの詳細分析を実施しました。ユーザーインタビューではオペレーター、リーダー、SVと各階層から問題点や要望を確認し、統一感や表現方法など分かりずらいポイントを徹底的に可視化します。また、システムの使い勝手、特定ナレッジに関する様々な意見や要望が挙がりました。

ナレッジコンテンツ調査では、カバレッジ、視認性、分かりやすさ、情報量などの視点で全件を精査し、問合せ対応に必要な内容はカバーしているが、コンテンツは大幅な改善余地が見つかりました。特に、スキルの低い新人には理解しずらく、ナレッジを最も必要とする人が、最も使いにくい状態であることが分かりました。ナレッジコンテンツ約3,000件に対し、実に見難いものが約50%、分かりにくいものが80%あり、「これを改善するのは一筋縄ではいかないな」という感触を持ちました。

ナレッジの型化

分析フェーズの調査をもとに改善の方向性をまとめ、それをもとに設計フェーズに入ります。ここでは、これまで見ずらい分かりずらいと感じていたことが、具体的に何を示しているのか、どうすればわかりやすくなるのか、抜本的な改善に向けて討議を繰り返し、ナレッジのフォーマットを決めていきます。その際、当社の過去のノウハウを蓄積したナレッジ標準ガイドラインも参照しながら、ナレッジの階層構造、ナレッジ種類毎のレイアウト、表記方法、用語などの作成ルールを標準化しました。

目指したのは、学生時代に使ったわかりやすい参考書のようなフォーマット。概要、スクリプト、詳細説明、関連ナレッジリンク、例外対応などが、どんなときも同じ場所にあるようにすることで、だれがどのナレッジを見てもわかりやすいように工夫をしました。また、このプロジェクトでは、Salesforce Service Cloud のナレッジ機能が使われていたため、当社のSalesforce導入ノウハウも踏まえ、ガイドラインには、Salesforceナレッジの機能の特徴や制約を踏まえた、最適な利活用のポイントも組み込まれました。最終的には、それらをガイドラインとしてまとめ、ガイドラインに従いさえすれば、だれが作成しても同じテイストのナレッジができるようにしました。改善の方向性が見えたことで、プロジェクトメンバーの改善機運がより高まっていきました。

ナレッジ改修

構築フェーズで、いよいよナレッジ全体の改修に取り組みました。ところが、ガイドラインに従って実際に作成を開始してみると、作成担当者毎に表記の揺らぎが生じ、作成したものの手戻りが多く発生しました。ガイドライン自体のコンセプトは方向性は正しく、設計討議に参加した人にはわかりやすいが、構築段階ではじめて見た人にとっては解釈にバラツキがあり、ガイドラインに記載されていない細かな点を、作成者が独自に判断して作成を進めたために発生した事象でした。そこで、揺らぎを包括的に抜き出し、作成メンバー全員が集まってガイドラインの曖昧な点を見つけ、曖昧さをなくす詳細の解釈を定義し、ガイドラインをバージョンアップしました。その結果、センター主導で約6ヶ月かけて3,000件のナレッジ全てを無事リニューアルすることができました。

ナレッジマネジメント運用体制の設計

最後に、ナレッジ改修と並行してナレッジマネジメントの運用体制やKPIを設計した点についても触れておきたいと思います。同業他社や当社ベストプラクティス情報を参考に、運用体制やKPIを設定、現場で討議を重ね、内容をセンターの実情に合わせてブラッシュアップしました。最終的に拠点毎の担当者を設置し、相互に連携する体制にまとめ、今後もナレッジが継続的に改善される仕組みを構築しました。

気づき、TIPS

ナレッジマネジメント導入には徹底的に方法論を活用する

ナレッジマネジメントをセンターに導入するには科学的なアプローチと現場のノウハウに配慮した方法論が必要になります。例えば、分析フェーズのユーザーへのインタビューでは、問題点についてオープン形式で確認すると、ナレッジ全体に関する改善点ではなく、ある一つのナレッジの表記についての改善要望が挙げられるなど、局所的な意見になりがちです。そのため、分析の方法論のポイントとなるコンテンツ、ナレッジ型運用、ナレッジチーム、ナレッジKPI、ナレッジシステムの6つフレームワークに分けて課題を網羅的に確認するようにします。そうすることで、それぞれの問題点の因果関係がわかり、ボトルネックを的確に把握することが可能となります。また、予め改善点の仮説がある場合は、ベテランメンバーを討議に組み込み、意見をもらうことで、有効性の是非を早めに判断するといったアプローチも効果的です。

コンテンツ調査では、基本事項やトークスクリプト、FAQ、システム入力手順などのナレッジ種類ごとに目視で確認し、定性的な課題を洗い出すことと並行し、ナレッジの視認性や情報量、分かりやすさといった定量面を確認します。こうして明らかになった課題を踏まえて、分析段階でナレッジの改善サンプルを作成し、関係者で討議することで早い段階で改善イメージを具体化することも有効なアプローチです。

ナレッジ作成の視認性にこだわる

ナレッジ作成には、視認性にこだわることが重要です。見やすさ、わかりやすさ、情報量を考慮し、設計フェーズでは、改善案を踏まえフォーマットを標準化し、作成手順を厳密にガイドラインとしてまとめます。フォントの大きさ、色、表の種類、タイトルの付け方、インデント、コンテンツの位置、情報量の範囲などを定義して、誰が作っても同じナレッジになるようにし、属人化のリスクを軽減します。また、階層構造の統一感や、注意点の表記や位置の統一、必須であるものや参考用に参照するナレッジをリンク集としてレイアウトの定位置に配置することで、ナレッジにアクセスしやすくなり、業務効率も改善します。

実用性を検証することで適正な投資判断が可能

上記で定めたガイドラインの実用性を検証するために、本番導入の前に本格的なサンプルナレッジを作成し、ユーザーに実際に使ってもらってフィードバックを得ます。サンプルを作る際のポイントは、よくある問合せに対して、使用するナレッジ種類を一通り作成することです。例えば、「解約したい」という主旨の問合せに対して、確認事項や、FAQ、トークスクリプト、システム入力、帳票見本など様々な種類のナレッジを用意します。

そうすることで、ナレッジの量は少なくても、問合せ対応の一連の流れの中で、今までと比べて具体的に変わった所がイメージしやすく、フィードバックも具体的になります。それをもとに修正を加えることで、ガイドラインがより実用的になります。まさに、「神は細部に宿る」です。また、サンプルを作成したナレッジ種類ごとの作成工数を元に、ナレッジ全体の改修に必要な作業量も算出できるため、実行性の高い実施体制やスケジュールが立てられれるので、投資判断もしやすくなります。

スムーズな導入にはユーザーへの事前教育と段階的なリリースが効果的

ナレッジ改修後の本番稼働のタイミングでは、現場の混乱を極力避けたいところです。そのため、事前にユーザー研修を実施し、改訂の趣旨やポイントを丁寧に落とし込みます。また、全部一気にリリースはせず、例えば問合せのカテゴリ毎に段階的にユーザーが新しいナレッジ構成や内容に慣れる期間を取りながらリリースすることで、スムーズな導入に繋げることができます。しかし、慎重になりすぎるのもよくありません。複数のシステムを並行して使い続けると、ユーザが新しいシステムやプロセスに慣れず、いつまでたっても複数のやりかたが混在してしまうため、かえって現場は混乱します。

ナレッジチームによるナレッジマネジメントの維持・向上

作ったナレッジを維持・向上していくには、状況に合わせた継続的な改善が必要です。商品やサービスの変更、市場環境の変化、顧客のリテラシーの向上、キャンペーン施策、 同業他社の動向などに応じ、案内される内容は日々変わります。また、利用しているオペレータからの改善への要望、ミスの発見、ナレッジの追加依頼、うまくいかない検索などに耳を傾け、あらかじめ決められたナレッジKPIをトラッキングし、ナレッジの課題や強化すべきポイントを見定め、ナレッジを改善し続けることが重要となります。

このような複雑かつ幅広い対応を、忙しいセンターの現場管理者で行うのは現実には難しい面があります。そこで必要となるのがナレッジ専任の担当者です。今回は複数拠点で同じ対応をしているセンターということで、それぞれのセンターにナレッジチームを配置し、拠点相互で連係しながらナレッジマネジメントを推進する体制を構築し対応しています。

効果と今後の取り組み

今回の取り組みにより、ナレッジマネジメントの本格的な導入がされたことで、これまで、なかなかユーザー要望に応えきれかった内部ナレッジの視認性や分かりやすさが大幅に改善されました。また、これまで属人的で人頼みだったナレッジ作成が型化され、それを維持・向上させる仕組みも並行して運用されています。これらの成果は、顧客満足度や一次解決率の向上、AHTや研修期間の短縮など、センターの品質・生産性の向上に寄与しはじめています。

今後は、ナレッジマネジメントの改善サイクルを回しつつ、ナレッジシステムの改修などにも踏み込み、更なる改善を図ります。将来的には、有人チャット対応時のナレッジ活用、チャットボットとの連携、内部FAQを洗練させ外部FAQへの展開なども視野に入れていくことが可能です。ナレッジマネジメントの定着化は一朝一夕にはいきませんが、センター全体で連係しながら粘り強く、強い意識をもって取り組むことが重要です。

まとめ

今後も多様化するニーズに対応し、採用難が続く市場環境におてい、コンタクトセンターの運用のハードルは上がり続けます。それらに対応するため、コンタクトセンターの品質・効率改善の施策の一つとして、ナレッジを整備するセンターは多くあります。しかし、思い付きの施策では効果が出ずかえって現場が混乱してしまうケースも少なくありません。それを解決するのがナレッジマネジメントですが、これまで見てきたように、効果的にナレッジマネジメントを導入するには、科学的なアプローチと現場のノウハウに配慮した方法論が必要になります。自社でナレッジ改善を検討する際は、そういった専門性を持った外部組織に相談してみるのもよいかと思います。

執筆者紹介

眞尾 昭弘
眞尾 昭弘
2008年入社後、保険、通販、ITサービス業などのコンタクトセンターを中心に業務コンサルティング、センター構築支援、センター設計・構築業務を対応。その後運用部門にてカスタマサポート、事務センターなどの運用管理やHRの責任者を担当。現在は、CRM、ナレッジ、音声認識、テキストマイニング等のソリューション導入及び業務コンサルティングのプロジェクトマネジメントを行っている。Salesforce Sevice / SalesCloud 認定コンサルタント。
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