コンタクトセンターが直面するカスタマーハラスメントに対する
具体的な対策とは?

 2025.04.15 2025.04.15 衣笠 雄海

近年、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉が急速に浸透しています。このカスハラは、コンタクトセンターの生産性を低下させるだけでなく、従業員に対する精神的な負担を引き起こし、休職や退職の原因ともなっています。その背景には、人口減少による人手不足問題もあります。

こうした状況から、カスハラは深刻な社会問題として注目されています。国全体でもこの問題に対する対策が進められています。2020年には、「職場における優越的な関係を背景とした言動に関する指針」が告示され、企業におけるカスハラ対策の必要性が強調されました。さらに2022年には、厚生労働省から「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が発表され、ガイドラインは現在も更新されています。最近では、2025年に向けて「各団体共通マニュアル(案)」が公開され、コンタクトセンター協会からもガイドラインが展開されています。

このように、コンタクトセンターにおけるカスハラ対策が急速に進行している中で、企業は具体的にどのような取り組みを行うべきなのでしょうか。本記事では、わかりやすく具体的な対策について解説していきます。カスハラ問題に直面している企業の皆様にとって、少しでも参考になれば幸いです。

コンタクトセンターが直面するカスタマーハラスメントに対する具体的な対策とは?

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コンタクトセンターのカスタマーハラスメントとは

コンタクトセンター業界では、昔からクレームはどの業種にもある程度存在していました。しかし、近年になって「カスタマーハラスメント」が急に社会問題として注目されるようになったのはなぜでしょうか。その背景にはいくつかの要因が考えられます。まず、「匿名性と即時性の普及」が挙げられます。インターネット、スマホ、SNSの普及により、誰でも匿名で瞬時に不満を発信できる時代になりました。これにより、対面や電話以上に過激な表現をすることが容易になっています。また、企業にとってはこうした発言が録画されたり、拡散されたりするリスクもあり、批判を受けやすくなっています。

次に、「不況の影響」です。長引く不況の中で「お客様至上主義」が浸透し、企業は生き残りをかけて他社との値引きやサービス競争に追われています。この結果、顧客を必要以上に尊重する風潮が広まり、クレームがエスカレートしやすくなっています。最後に、「ハラスメントに対する意識の変化」があります。パワハラやセクハラが社会問題として認知され、法的にも対策が進む中で、「理不尽な行為を許さない」という意識が広まりました。この流れを受け、カスタマーハラスメントも見過ごせない問題として注目されるようになっています。こうした要素が絡み合い、近年のカスタマーハラスメントの増加につながっていると考えられます。企業はこれをどのように対処するか、今後の課題となっているのです。

これらの背景から、カスタマーハラスメントが社会問題として浮上しています。一方で、コンタクトセンターの従業員不足は年々深刻化しており、カスタマーハラスメントがもたらす離職率の悪化は企業にとって大きなリスクとなります。このような状況の中で、「クレーム」と「カスタマーハラスメント」の違いを明確に理解することが重要です。まず、「クレーム」について考えてみましょう。クレームは、直訳すると「要求」「主張」「苦情」を意味し、一般的にはネガティブなイメージがつきまといます。しかし、クレームは実際には以下の2つのパターンに分類することができます。

1. 正当クレーム:

顧客の要求が「内容」「手段・態様」において正当なもの。適切な対応をすれば、顧客満足の向上につながる可能性が高いです。

2. 不当クレーム:

要求の「内容」「手段・様態」が不当なもの。たとえば、過剰な要求や理不尽な態度といったものが含まれます。

この不当クレームこそが、カスタマーハラスメントにつながるケースもあります。コンシューマーとのコミュニケーションにおいて、これらの違いを理解し、適切に対処することが、企業のリスクを減らし、従業員の負担を軽減させるための鍵となります。理解と対策が進むことで、より健全なビジネス環境を作り上げることが期待されています。

カスタマーハラスメント(カスハラ)と不当クレームは、本当に同じものなのでしょうか。実は、カスハラと不当クレームは厳密には異なる概念です。不当クレームは、基本的には「クレーム」の一種であり、その根底には必ず何らかの「要求」が存在しています。しかし、その要求自体が不当、またはその要求の手段や態様が不当であることから、不当クレームと呼ばれます。

一方で、カスタマーハラスメントは、要求が含まれている場合も多いですが、その本質は「嫌がらせ」にあります。つまり、カスハラは不当な要求を超えた、より感情的な攻撃や執拗な対応といった側面を持っています。この違いを理解することは、効果的な対応策を講じ、従業員の負担を減らすために非常に重要です。カスハラと不当クレームをしっかりと分けて取り扱うことで、企業のリスク管理とサービスの質の向上につながるでしょう。

コンタクトセンターのカスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメント(カスハラ)については、これまで具体的に記載された文献が少なかったのですが、最近ではコンタクトセンター協会がガイドラインを展開し、この問題への理解を深める手助けをしています。ガイドラインによると、カスタマーハラスメントは以下のように定義されています。「顧客等から従業員に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であり、就業環境や心身の健康、人としての尊厳を害するものを言います。」この定義は、カスハラが従業員にとってどれほど深刻な影響を及ぼす可能性があるのかを明確に示しています。職場での不当な要求や執拗な嫌がらせ行為は、従業員の働く環境だけでなく、その健康や人権にも大きな影響をもたらします。このような問題に対する理解を深め、適切な対策を講じることが求められているのです。

では、企業はどのようにしてカスタマーハラスメントに備えるべきなのでしょうか。ここでは、いくつかの重要なポイントを絞ってお伝えします。企業がまず着手すべきは、ハラスメントの定義とその識別基準を明確にすることです。これにより、従業員は迷惑行為を早期に察知し、適切な対応ができるようになります。また、従業員に対する定期的なトレーニングや教育プログラムの導入も効果的です。さらに、精神的負担から従業員を守るためのサポートシステムの構築、そして必要な場合には法的対応を辞さないという明確な方針を掲げることも考慮すべきでしょう。これらの備えにより、企業はより健全な職場環境を維持し、従業員も安心して働ける基盤を構築することが可能になります。

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カスタマーハラスメントの具体的な対策ポイント

コンタクトセンターにおけるカスタマーハラスメント対策は、以下の3つのポイントが鍵となります。

1. カスタマーハラスメント対策基準の策定

企業はカスタマーハラスメントに対する明確な基準を策定する必要があります。この基準により、どのような行為がハラスメントに該当するのかを明文化し、従業員全員が理解できるようにします。これにより、共通の理解のもとで対策が講じられるようになります。

2. コンタクトセンター対応マニュアルの策定

具体的な対応方法を示したマニュアルを策定することが求められます。これには、現場で起こりうる様々な状況に対しての初動対応やその後の一貫した対応手順が含まれます。マニュアルに基づく行動は、従業員が冷静に、そして効果的に対応するための支えとなります。

3. 従業員に対するカスタマーハラスメント研修・啓蒙

従業員に対する継続的な研修と啓蒙活動が不可欠です。研修を通じて、従業員は最新の対策方法を学び、また、日常業務においてもハラスメントに対する感度を高めていくことができます。企業として、ルール設定や環境整備を行うことに加え、現場での的確な対応を保証するために、これらの取り組みを一体的に進めていくことが求められます。これらの対策がバランスよく実施されたとき、カスタマーハラスメント対策は初めて機能すると考えられます。
これらの取り組みについてさらに詳しく説明していきます。

  • カスタマーハラスメント対策基準の策定
    東京都では、カスタマーハラスメント防止が重要視されており、その一環として「カスタマー・ハラスメント防止条例」第14条が施行されています。この条例では、事業者に対し「カスタマー・ハラスメント防止のための手引きの作成その他の措置を講ずるように努めなければならない」と定められています。このような取り組みは、今後他の都道府県にも広がっていくことが予想されます。  現在、厚生労働省が提示するガイドラインに沿って、各企業はカスタマーハラスメント対策基準の策定に取り組んでいます。企業ごとに対策内容は様々ですが、一般的に次のような事項が含まれています。

      - カスタマーハラスメントの定義
      - 対策方針
      - カスタマーハラスメントの判断基準
      - 対応プロセス
      - 判定ライン
      - 発生時の基本姿勢
      - 相談窓口の設置
      - 発生時の対応プロセス

企業はこれらの基準を設定するだけでなく、対策内容を公式ウェブサイトや店頭などで公表して、透明性を持たせる努力をしています。これにより、社員はもちろん、顧客に対してもカスタマーハラスメントを許さない姿勢を示すことができます。こうした取り組みが全国的に広がることで、健全なビジネス環境が整備されていくことが期待されます。

  • コンタクトセンター対応マニュアルの策定
    カスタマーハラスメントが実際に発生した際の対応策を明確にするため、コンタクトセンターは具体的な対応マニュアルの策定が求められています。これには、顧客からのクレームが正当か不当か、さらに不当クレームの中でもカスタマーハラスメントに該当するのかをオペレーターが正確に判断し、適切に対応することが含まれます。こうしたマニュアルを整備することで、実際にカスタマーハラスメントと判断された場合の応対ルールを具体的に定めることが可能になります。

    これにより、オペレーターは明確なガイドラインを持って対応に臨むことができ、センター全体で一貫したクレーム処理が可能になります。  具体的な対応マニュアルには、次のような要素が含まれます。まず、正当クレームと不当クレームの切り分け基準、カスタマーハラスメントに対する具体的な対応手順、そして緊急時における対応プロセスや、相談窓口の設置に関する情報です。  これらは、コンタクトセンターの業務において非常に重要な要素であり、オペレーターが安心して業務に専念できる環境を作るための不可欠な要素となります。コンタクトセンターにおいては、これらの取り組みが、顧客と企業双方にとって有益な関係を築く基盤となるのです。

    ■ カスタマーハラスメントに該当する言動の定義
    例:人格否定(おまえ、貴様、死ね、くたばれ)など

    ■ 具体的な対応方法
    ①XX分までは傾聴
    ②(上記を過ぎた場合)警告:「そのように仰られますとこれ以上の対応は出来かねます」など
    ③対応終了宣言:「誠に残念ですが、これ以上の対応は致しかねます(切電)」

    ■ レポート
    ・カスタマーハラスメント発生時の対応結果登録
    ・相談窓口への連絡など
  • 従業員に対するカスタマーハラスメント研修・啓蒙
    コンタクトセンターでは、多くのスタッフが日常的にクレーム対応を行ってきました。従来は、長時間の拘束や厳しい言葉に耐えることが求められていたセンターも少なくありません。しかし、今求められているのは、カスタマーハラスメントとは何かを改めて理解し、それにどう向き合うべきかを考えることです。この重要な課題に対して、外部のコンサルタントやコンタクトセンターのアウトソーサーが研修サービスを提供しています。

    これらの研修では、カスタマーハラスメントの定義から始まり、クレームとカスハラの違い、そしてそれらをどう判断すべきかという基準を詳しく学びます。また、具体的な対応方針についても、センター従業員にしっかりと落とし込むことで、より適切な応対が実現できるようになります。

    こうした取り組みは、従業員が安心して働ける環境を作り出すだけでなく、顧客に対しても一貫した対応を提供する助けとなるでしょう。センターの業務がさらに進化し、より良いサービスを提供できるようになるためにも、このような教育プログラムは今後ますます重要となるでしょう。

カスハラ対策の主なメリットと今後の展望

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、今や企業にとって無視できない重要な課題となっています。現代のビジネス環境において、これに取り組む優先度は非常に高まっています。特に、早期から対策に取り組んでいる企業では、従業員の満足度向上やカスタマーハラスメントの予防に成功しており、センターの全体的な効率化を実現しています。

その結果、顧客体験(CX)の向上にもつながっています。技術の進化も、この問題解決をサポートしています。生成AIの発展により、クレームやカスハラの対応が効率化され、予兆行動の発見もスムーズになっています。これにより、コンタクトセンターの高度化はさらに加速すると見られています。
このような流れに乗るためには、カスタマーハラスメント対策の基準をしっかりと定め、マニュアルを作成することが不可欠です。また、センターの従業員への啓蒙活動も同様に重要です。これらの取り組みが、コンタクトセンターをより高度化し、サービスの質を向上させる基盤となるでしょう。

まとめ

「カスタマーハラスメント(カスハラ)」は、現代社会において深刻な問題となりつつあります。特にコンタクトセンターにおいては、この問題が生産性の低下や従業員の心的負担を引き起こし、最悪の場合には休職や退職の原因になることもあります。そのため、各企業が組織としてカスタマーハラスメント対策の基準を策定し、現場ではその基準に基づいた対応マニュアルを作成することが求められています。加えて、従業員への啓蒙活動や研修の実施も重要です。このような対策の両輪をしっかりと回すことが、問題の解決に向けての鍵となります。また、生成AIなどの先進技術を取り込み、コンタクトセンターを高度化させることが現在の大きな課題です。

これらの仕組みを早期に整え、実践することができる企業は、市場においてさらなる競争力を持つことができるでしょう。カスハラ対策を積極的に取り組むことが、組織の健全な成長と持続的な発展を支える大きなステップになります。

執筆者紹介

衣笠 雄海
衣笠 雄海
2008年入社。業種業界問わず、様々なコンタクトセンター管理経験を積み、2017年にコンサルティング部へ異動。コンタクトセンターの戦略策定、業務改善コンサルティングを主にプロジェクトを 推進。直近では、昨今の生成AIの流れを汲み、社内のナレッジマネジメントサービスをリブランディング。センターの更なるCX向上実現に向けた支援に取り組んでいる。
【所有資格】
KCSP国際認定資格
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