「コールセンター白書2023」によると、調査時点でのボイスボット導入率は8.2%にとどまっています。低いようにみえますが、前年と比較すると倍増しています。また、8.2%という数値はあくまで導入率であり、なかには一部のコールの50%以上を自動化できているケースもあります。
アプリやweb・チャットボットも含めて、自動応答による利便性の追求やコスト最適化はますます進んでいくことでしょう。
今回は、ボイスボット導入ステップについて、やや具体的にご紹介したいと思います。ボイスボットそのものの機能や技術は今後も進化し続けると思いますが、適切な使い方をすることがなによりも重要です。利便性や実効性、費用対効果などをしっかりと検討し、設計しましょう。
ボイスボットのメリットと課題
以前こちら(成功事例に学ぶ!自動応答の正しい使い方)の記事でもご紹介しましたが、ボイスボットは、まるで人のようにオペレーターにとって代わるようなレベルには、現時点では達していません。また、ユーザー側(お客様)にも、「人と話すように自由に話していいんだ」という感覚も根付いていないケースが多く、普及にはある程度の時間が必要だと考えています。有人での対応は「人」でしか果たせない役割を担いながら、一方で苦手としているいくつかのポイントにおいてボイスボットを活用することで、その導入効果を最大化することができます。
センターの特性によって視点は異なりますが、ボイスボットのメリットと課題は、一般的に以下のようなポイントといえます。
なお、メリット&デメリットではなく、表ではあえて「メリット&課題」と記しました。今後、生成AIなどの進歩により、対応の柔軟性や予知などの機能は、さらに高度化することが期待できます。
このメリットを理解したうえで、実際のセンターのコールリーズンを分類し、その中で、このメリットを享受しやすいコールリーズン、また、課題の部分を考慮しなくてよいコールリーズンをピックアップすると、最初の一歩の検討が容易になります。
効果を最大化するための導入ステップ①
それでは、このボイスボットのメリットを活用するために、コールリーズンを分類してみましょう。そして、それぞれのコールリーズンについて、ボイスボットに向いているかいないかを判断するために、いくつかの視点で判定をつけてみましょう。以下は架空の保険会社のコールリーズンのイメージです。
コールリーズンとそれぞれのボリュームを分類し、即時対応が必要なものか、顧客DB突合が必要なものか、webや郵送での手続きが可能か、という観点を追加しています。判定する項目は、センター特性に合わせて追加してみるとさらに細かく分類できると思います。ただし、最近では、webやアプリなどを介して、会員ポータルで手続きが可能なコールリーズンも多いです。必ずしもボイスボットですべての工程を対応する必要はなく、最適なチャネルへの誘導も合わせて検討しましょう。
- このケースの場合、
- 「控除証明書の再発行依頼」
- 「新規の資料請求受付」
を、ボイスボット導入の最初の一歩と考えて検討することができそうです。それぞれについて、その選定ポイントをご説明します。
1.「控除証明書の再発行依頼」の特徴
- 年間の繁閑差が大きく、人員の増減対応が必要
- 用件は単純で、証券番号が判別できれば再発行可能
- 電話でできるのは受付のみで、有人でも最終的には郵送対応が必要
これは、もっとも自動化に向いているコールリーズンのひとつといえます。センターの課題としては、毎年期間限定での入電増に備えて、採用やシフト追加を行っており、それでも足りずに呼損が発生しています。さらに、入電の集中により、他の用件のお客様にも迷惑がかかってしまうこともあります。
控除証明書の再発行は、IVRで専用の選択肢を設置し、すべて自動応答で受け付けることを検討することが検討できます。
- 11月入電の約15%を占めることから、繁忙期の上振れを一気に自動化できる可能性があります。
- さらに、24h稼働することができるので、営業時間外の入電にも対応することができます。
- 郵送対応自体は引き続き必要になります。所定のシステムへの再発行処理などは必要です。
2.「新規の資料請求」の特徴
- 毎月多くの入電がある
- webでも各商品の紹介や比較情報、診断などを用意している
- 契約には電話だけでなく、最終的にweb手続きか郵送手続きが必要
こちらは、毎月一定量の入電があることから、継続的なボイスボットの活用を検討することができます。
- ボイスボットは24h稼働させることができるので、時間外でも資料請求を受け付けることができます。
- より詳しい情報を提供するためにwebサイトへ誘導することで、商品の詳しいご案内、認知向上に繋げることができます。
- 契約前の段階では、強いセールスを警戒し、まずは商品について知りたい、自分で調べたいといったニーズもあることから、プル型のチャネルとして、オペレーターと並列で設置するのが良いと考えます。営業時間には、シンプルなボイスボットと、詳しい相談対応が可能な有人窓口を組み合わせることで、検討中のお客様のタッチポイントとしてのサービスレベルの向上を期待できます。
- 郵送対応自体は引き続き必要になります。所定のシステムへの再発行処理などは必要です。そこから、関心が高いお客様にはプッシュ型のセールスを実施することもできます。
このように、センターのコールリーズン、それぞれの特性や必要なプロセスなどから、自動化の検討を行うことで、センターにどの程度の自動化のポテンシャルがあるか、またその自動化の最適な手段は、ボイスボットなのか、webなのか、といった検討を具体的に進めることができます。
なお、表中の導入検討「〇」も自動受付の対象として検討可能ですが、即時手続きの必要性やヒアリング事項の多さ、web手続きも可能であることから、他のチャネル誘導を検討するほうがよいと考えます。必要書類の郵送受付であれば、「控除証明書の再発行依頼」同様に検討することもできます。
効果を最大化するための導入ステップ②
コールリーズンからターゲットを選定したら、実際にその自動化について、具体的に仕様を検討し、設計してみましょう。ここでは、先に挙げた1点目の「控除証明書の再発行依頼」について、簡単に仕様や設計を検討したいと思います。
「控除証明書の再発行依頼」の仕様検討と設計
- 控除証明書の再発行依頼の入電において、オペレーターがヒアリング、案内していることを整理しましょう。それが、ボイスボットでお客様にヒアリングするベースとなります。
・対象となる証券番号
・保険契約者氏名
・保険商品名 - 次に、オペレーターが案内していることを整理しましょう。それが、ボイスボットでお客様にご案内する内容となります。
・再発行の際の注意事項
・お届けまでの期間目安
以上はとてもシンプルに設計できるはずです。 - 最後に、イレギュラーのパターンも整理しておきましょう
・証券番号が不明な場合
・合わせて住所変更が必要な場合(その他別の手続きが必要な場合)
- オペレーターが対応する際に、単純にいかないケースが、イレギュラーのパターンです。証券番号を把握していないお客様は、多くいらっしゃるのではないでしょうか。その場合、以下の検討を行いましょう。これは、各社の本人確認のポリシーに沿って検討することになりますが、この判断によって、自動化できる割合が大きく変わる可能性があります。
a. 証券番号を必須とし、不明な場合、即オペレーター対応に切り替える
b. 証券番号が不明な場合、保険契約者名と登録電話番号で受付を完了させる(複数契約がある場合、そのすべての再発行を行う) - a.よりもb.のほうが、ボイスボットでの完了率は高くなると見込まれますが、これは上述の通り各社のポリシーによって設計する必要があります。また、証券番号を必須とする場合でも、事前にIVRなどで「証券番号をお手元にご準備の上、~」と案内を行っておくことで、途中離脱や未完了を防ぐ対策を講じることはできます。
- 住所変更など、別の手続きが必要な場合は、オペレーターに切り替えるか、webへ誘導しましょう。たらい回しやおかけ直しができるだけ発生しないように設計することも、ボイスボットの利便性をお客様に提供するための設計ポイントとなります。
- さて、以上から、控除証明書の再発行依頼における仕様を整理できました。これをボイスボットで自動受付するフローを仮設計してみましょう。オペレーションのトークスクリプトのようにフロー化するのがコツです。
1. IVRで控除証明書再発行依頼を選択されたら、ボイスボットで対応する
2. この自動受付の流れの説明を行う
3. 「証券番号」をヒアリングする
4. 「契約者氏名」をヒアリングする
5. 「連絡先電話番号」をヒアリングする
6. お届けまでには〇日程度日数を要することをご案内する
7. 不備がある場合には、折り返しご連絡することをご案内する
8. 終話する - あわせて、再発行手配完了までのプロセスも合わせて考えておきましょう。
1. ボイスボットで取得したデータをダウンロードする
2. ダウンロードデータを用いて、基幹システムで再発行の作業を行う(RPAなどを活用することで更なる自動化、工数削減が可能)
3. 入力された「証券番号」「契約者氏名」に不備がある場合、「連絡先電話番号」にかけ直して、不備を解消したうえで再発行の作業を行う
いかがでしょうか。例に挙げた控除証明の再発行依頼は、比較的容易にボイスボットに切り替えることができそうです。前述のイメージにおいては、このコールリーズンは、11月の入電全体の約15%を占めていました。後処理作業の工数を加味しても、10%程度の工数削減を期待できるのではないでしょうか。
費用対効果の算定も、ここまでの仮設計を踏まえて実施しましょう。現行のオペレーターで対応している工数(コスト)と、ボイスボットを導入したことで発生する新たなコストや後処理などで発生するどうしても残ってしますコストを比較することで算定できます。できれば、採用コストや労務管理コストなど、間接的なコストの影響も算定、評価すると、ボイスボットの費用対効果を精緻に評価することができます。
導入後にやるべきこと
導入前の検討からいきなり導入後の話になってしまいますが、実際のボイスボットの構築作業自体は、各社のボイスボットサービスごとに、機能や設定方法などの違いがありますので、今回は割愛します。
さて、しっかり検討に検討を重ねて導入できたら、想定通りの成果を出せているか定期的に評価し、さらに定着、普及するようにチューニングを行いましょう(最初から期待通りの成果を出すことができている場合、事前の分析や設計の精度が高かったと考えられます。次のターゲットを検討しましょう!)。
ボイスボットでは、特に以下の指標を評価項目として管理することが多いです。
- 完了率
- ボイスボット流入数に対して、最後まで完了できている数は想定通りか確認しましょう。「これは単純なシナリオなのに、有人スイッチしている」「途中で離脱されている」という場合、どこで離脱しやすいかを確認し、その原因を分析しましょう。
- 開始前に必要事項の案内は十分か(=お客様の準備)
- 最初に流れを簡単に説明しているか(=お客様の理解)
- 案内やヒアリングの順序は適切か(=スムーズな動線)
- お客様にわかりやすい言葉を使っているか(=専門用語・業界用語は控える)
- シナリオは必要最低限にできているか(=できるだけ短く、利便性を追求する)
- ボイスボット流入数に対して、最後まで完了できている数は想定通りか確認しましょう。「これは単純なシナリオなのに、有人スイッチしている」「途中で離脱されている」という場合、どこで離脱しやすいかを確認し、その原因を分析しましょう。
- 不備率
- ボイスボット流入数に対して、不備でコールバック等が発生するケースは少なからず発生します。オペレーターでも聞き間違いや入力ミスはありますので、同様に対策を講じましょう。
- 音声入力、プッシュ入力などの組み合わせは適切か(たとえば電話番号等の数字は、プッシュ入力のほうが精度が高い)
- ヒアリング事項は適切か(必要最低限にすることで、不備発生可能性を低減する)
- 漢字氏名やメールアドレスなど、ボイスボットでは精度向上が難しいヒアリング項目を設定していないか(オペレーターでも確認に手間がかかるような内容)
- 導入したボイスボットの機能(復唱確認や入力制御など)によって実施可能な対策も変わってくるため、機能を見直し、より不備が起きにくい設定ができないか検討しましょう。
- ボイスボット流入数に対して、不備でコールバック等が発生するケースは少なからず発生します。オペレーターでも聞き間違いや入力ミスはありますので、同様に対策を講じましょう。
- 流入率
- これは根本的な観点ですが、対象のコールリーズンが、オペレーター側に流れず、ボイスボットに流入しているか確認しましょう。IVRなど、ボイスボットに流入するまでの設計・設定などを見直すことで改善する可能性があります(IVRでの案内順など)。
- 一定の呼量が想定される場合は、専用電話番号(自動受付)として独立させることも有効です。
以上の3点が安定すれば、ボイスボットは期待どおりの効果を出すことができるでしょう。なによりも、流入したお客様が完了できるか(目的を達成できるか)を重視し、改善を行っていきましょう。
今回は控除証明書の再発行のケースで考えてみましたが、たとえば資料請求であれば、その後のコンバージョン率だったり、アンケートであればアンケートの回答率だったり、用途によって管理すべき指標は異なります。
また、繰り返しになりますが、流入自体を増やすことは、ボイスボットではなく、それ以前の動線や施策の範囲になります。「24時間便利な自動受付でお手続きいただけます」といった案内を添えて、お客様が流入しやすいIVRになっているか、「ご利用前にお手元に〇〇をご準備ください」といった案内で、事前準備を促すことができているか、といった点は、ボイスボットの効果を最大化するうえで大変重要です。ぜひ合わせて検証しましょう。
まとめ
今回は、ボイスボット導入を成功させるための導入ステップについてご紹介しました。
各センターのコールリーズンを、それぞれの特徴や難易度も付けて分類してみると、ボイスボットで対応可能な範囲、かつ、オペレーターでの対応が難しい部分(繁閑差や効率的な対応など)を見出すことができます。
ボイスボットは、あくまで自動化の手段のひとつとして、電話が主流となっているお客様に受け入れられる設計を施して使い始めることが、活用の近道であると考えます。
執筆者紹介

入社後、弊社オペレーションマネージャーとして多種多様なコンタクトセンター業務設計・構築・運営管理を経験。2013年からは、弊社神戸SCのGMとして、様々な業界のBPO実現と、その高度化のための各プロジェクトを主導。
コンサルティング部でも、センター実態を踏まえた実効性のある業務改善、ナレッジマネジメントを推進。また、Voicebot導入、音声認識の実用化など、DX推進やセンター高度化のコンサルティングも行っている。
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