コンタクトセンターはデータの宝庫!データ分析を成功させるための4つのポイント~前編~

 2023.10.02  2024.04.24

コンタクトセンターは、顧客接点の最適化に向けたリアルタイム業務の高度化が重要ですが、一方でデータの宝庫でもあります。その中には、顧客行動、VOC、生産性、品質など、さまざまな情報が眠っています。その中から真の価値を引き出すためにはデータ分析は欠かせません。ここでは膨大な情報資源の活かし方と、効果的なデータ分析を行うためのアプローチについて工夫すべきポイントを前編・後編の2つに分けて、今回は前編について解説します。

コンタクトセンターはデータの宝庫!データ分析を成功させるための4つのポイント~前編~

デジタルチャネルCX調査 2023年版

はじめに

データ分析ブームの中、分析すれば何かが見つかると信じて、課題や分析テーマを選定せずにプロジェクトが進められる場合が多くあります。その場合、データ収集、前処理、分析、レポート作成などの作業だけを順番に行っても、最終的には何の成果も得られず、時間やリソースを無駄にします。分析の方向性が不明瞭になり、分析チームのメンバーが、示唆をもとに深掘りしようとも、進むべき方向が分からなくなります。これらを回避するためには、正しい方法論やアプローチにもとづき、データ分析を行う必要があります。

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課題テーマの選定

データ分析は解決すべき課題を整理するところから始まります。経営課題や業務課題などを具体的に取りまとめ、その課題がデータ分析によってどう解決されるのかを、あらかじめ合意することが重要です。ただし、仮説を詳細化しすぎて、分析する前に検証視点が狭くなっては、データの中に眠っている情報を引き出す制約になってしまうため、具体性と分析自由度のバランスを取りながら、科学的なアプローチで、課題テーマを選定します。

課題の特定

最初に、ビジネスや組織における具体的な課題を洗い出します。これは、データ分析が解決しようとしている問題を理解する基本的なステップであり、課題が明確でない場合、分析が方向性を見失い、プロジェクトは失敗に終わります。そのために、出来るだけ多くのアイデアを包括的に集め、さまざまなステークホルダーから意見を収集し、課題を整理した上で、改善機会の討議に進みます。

次に、改善機会をまとめます。改善機会とは、課題を解決しうる改善や改革の可能性をすべてもれなく洗い出すことです。この場合は、データ分析による具体的な示唆が得られることで、そのビジネス課題が解決するイメージを具体的に考えながら列挙します。課題の裏返しがそのまま改善機会になる場合もあれば、実現できていない包括的なKPIの可視化で、戦略的なアクションが取れるなど、レベルも難易度もさまざまです。

改善機会討議では、網羅的な視点を持って討議し、最終的には優先度づけをして、データ分析要件を確定させます。一般的には、列挙された改善機会を、

実行の難易度(投資) ✕ 得られる効果

の2軸を中心に、改善・改革の優先度を決めますが、データ分析にこの手法を用いる場合は、いくつかの視点の追加や、詳細化が必要になります。

主なものを挙げると

  • データがそもそも存在するか?
  • そのデータは自由に利用可能か?
  • そこから示唆が出ると、業務を即変更可能か?
  • 変更した業務は、人の判断を無しに動くか?
  • マネジメントの優先事項、組織の抱える課題優先度との関連は?
  • 分析結果は横展開可能か?どの範囲のビジネス課題を解決するか?

などです。特に、データ分析の結果、人の属人性を排除し、適切な判断を含めたプロセスの変化を実現しうるテーマがあれば、特に優先度を上げて対応すべきでしょう。これらを予め決めた上で改善機会の優先度を最終決定し、それにもとづきテーマを具体化します。

課題のスクリーニングのアプローチ

テーマ別優先度(イメージ) 

テーマ別優先度(イメージ)

テーマ別優先度(イメージ)

分析テーマの決定と目標設定

改善機会討議の結果、対応すべき優先テーマを特定したら、プロジェクトに向けて、目標や成果物を設定します。目標は具体的で測定可能でなければなりません。例えば、オペレーターのパフォーマンス向上、管理コストの削減、顧客満足度の向上などです。できれば、期限を決め、具体的な数値にします。具体的な目標が無いと、プロジェクトが何を達成しようとしているのかが曖昧になり、出てきた結果を自画自賛し、お試しのための結果が生まれ、経営課題の解決には結びつかないからです。目標を定めることで、それに向かって計画を立て、優先順位をつけることができ、適切なプロジェクト実施が可能になります。

スコープ定義

データ分析プロジェクトのスコープ定義も、プロジェクトの成功には重要です。改善機会の優先度づけにおいて、対象テーマの難易度はあらかじめ予想がついているものの、実際にプロジェクトを始めてみると、数多くの困難に当たります。スコープ定義があいまいだと、目標の達成のためにどの範囲まで活動したら良いかに制限がなくなり、プロジェクト方向性喪失、リソース浪費など、プロジェクトが発散してしまう原因になります。どの課題に対しどの程度の改善が見込まれるのかの目標設定を踏まえて、

  • 誰を巻き込むべきか?
  • どのデータが対象となるか?
  • どの分析手法が使用されるか?

などを、後工程の自由度を制限しない範囲で具体化します。スコープを明確にすれば、プロジェクトの方向性もはっきりし、無駄な作業やリスクを回避することができます。

データ要件の明確化

改善機会討議の段階で、その実現に必要なデータが、ある程度はわかっているはずですから、最後にそれを具体化します。使用可能なデータの種類と品質を確認し、データが不足している場合、追加のデータ収集の必要性について定義します。また、データの品質に問題がある場合はその問題を特定し、クレンジングや前処理が必要かどうかも判断し、データの可用性と品質を評価することが大切です。これらを明確にしないと誤った分析結果が得られたり、出るはずの結果が失われたりして、せっかくの分析結果がビジネスへ悪影響を及ぼす可能性があります。データ要件をできるだけ具体化しておくことが、重要なカギとなります。

これらのポイントをしっかりと押さえ、プロジェクトを定義し、データ分析プロジェクトに関与するステークホルダーの期待を明確にすることが、プロジェクト成功に向けた大切な一歩となります。

データの準備と前処理

データ分析モデルの性能は、データの品質と前処理の質に大きく依存します。データが不適切であれば、いくら高度なアルゴリズムを使っても正確な予測や価値のあるものをつくる事はできません。そのために必要な準備や前処理として「データ品質の確保」「データの理解と可視化」「特徴量エンジニアリング」の3つ要素が重要なカギとなります。

「データ品質の確保」

データ品質を確保するためには、データ収集の正確性とデータクレンジング、そしてデータの一貫性の確保が重要です。よくあるのは、データの不正確さや、欠損、重複、不一致を無視したまま分析を行うケースです。誤ったデータがモデルに組み込まれると、その後の分析や予測に不正確さが影響を及ぼす可能性があります。収集したデータを検査し、欠損値、外れ値、重複データなどを検出し、それぞれに対して適切な処置が必要です。一方で一つ一つ確認するには多大な労力を要します。そのため、データのフォーマットと構造を一貫性のあるものに統一することでデータ処理と分析の効率を向上させることができ、更には予測モデルの精度を高めることにつながります。

「データの理解と可視化」

データの理解とは、データセットの特性や構造を把握するために行われるプロセスのことを指します。主な目的は、データが提供する情報、傾向、異常値、欠損値などを理解し、データ分析の方向性を定めることです。一方、データの可視化とは、データを使ってグラフや図表として視覚的に表現するプロセスのことを指します。これにより、データのパターンやトレンドを理解しやすくなります。ここで重要なのは、単純にデータを扱うのではなく、そのデータについてのドメイン(業務知識)に関する基本知識を持つことです。ドメイン知識があることでデータを適切に解釈することができ、正確な仮説や洞察を得ることにつながります。データを十分に理解することは、モデル構築のカギとなります。従ってあらゆるステークホルダーを巻き込みながら総合的な観点でデータを理解することが重要です。

「特徴量エンジニアリング」

特徴量エンジニアリングとは、手持ちのデータからドメイン(業務知識)を活かし、新たな特徴量を生成する取り組みのことです。これはデータ分析の中では最も重要なステップとなります。データから有用な特徴を抽出または生成することがモデルの性能向上に寄与します。そのためには、業務の専門知識や経験値をから有益な特徴を見出すことが重要です。例えば、従業員の経験年数からパフォーマンスの高い傾向を抽出するなどです。それらの有益な特徴を導き出すためには、より多くの関係者を巻き込み、意見を収集することが大切です。また、有益な特徴から適切なものを選択することで、モデルの複雑性を軽減し過学習を回避することにつながります。

退職分析による特徴量(サンプルイメージ)

退職分析による特徴量(サンプルイメージ)

データの準備と前処理はデータ分析の中で極めて重要です。データを整理し、欠損値や外れ値を処理し、正確なフォーマットに整えることで正確な分析結果と信頼性の高い洞察を得ることにつながります。また、不正確なデータは誤った結果を導きかねず、組織の意思決定に影響を及ぼす可能性があります。したがって、データ品質を確保するために、データの準備と前処理に充分な時間と注意を払うことが必要となります。

まとめ

データ分析プロジェクトの成功には、正確な方向性と高品質なデータが不可欠です。

適切な課題テーマを包括的に洗い出し、改善機会の手法を適用し、対応すべきテーマを明確にして、データ分析要件としてまとめることが重要です。

次に、データの準備と前処理に時間をかけ、データの品質を向上させデータを整理して分析に適した形に整えるます。これらのステップを踏むことで、信頼性の高い仮説を得ることができ、意思決定に貢献する適切な分析結果を得られます。

次回は後編として、「モデルの選択とトレーニング」「モデルの利活用」について解説します。モデルの選択やトレーニングはデータから有益な情報を引き出し、問題解決に向けた手段を提供します。また、モデルの利活用は分析結果を実務に応用し、組織の戦略に活かす重要なステップです。次回の投稿を乞うご期待ください。(後編はこちら

執筆者紹介

竹田 努
竹田 努
2004年に入社後、10年ほどは大型コンタクトセンターを中心に、オペレーション、経営企画、営業(プライシング)、事業管理部門など経験。その後シニアマネージャーとして、各種業界(通信、金融、メーカー、小売り、サービス業)のコンタクトセンターのソリューション導入、生成AIの活用や、データ活用など幅広い分野でプロジェクトを牽引。プロジェクト管理、統括責任者としての実績が豊富で、顧客に寄り添うことをモットーにしております。
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