FAQ/ナレッジシステムの価値が高まり続ける理由(中編) 
~生成AI時代におけるFAQ/ナレッジシステムの普遍的価値~

 

生成AIの登場と利用の一般化により、今あらゆる分野で現行ITシステムの陳腐化や、ビジネスモデルそのものの変化など、日本だけでなく全世界的に革新的な変化(パラダイムシフト)が起きると、2025年現在あらゆるメディアを通して喧伝されています。
一方で本稿をご覧いただいている皆様が直面するコンタクトセンター領域においては、AIブームの経験と腐心は度々繰り返されており、その活用には様々な課題を乗り越える必要があることを、現場現実の肌感覚として我々はよく知っています。

とくに必ずといってよいほど繰り返されているテーマのひとつが「FAQ/ナレッジ管理」です。AI活用の現実化が進めば進むほど、あるいはAI活用の有無を問わず、企業におけるナレッジの所在、管理の在り方が益々重要になっています。

本連載では、FAQナレッジ管理システムの重要さを3つのテーマを設定して、それぞれに関連する要素を整理し、詳しく掘り下げて解説します。

  • 生成AI時代におけるFAQ/ナレッジシステムの普遍的価値
  • コンタクトセンターでのFAQ/ナレッジ運用の課題と実践
  • 顧客体験、カスタマーハラスメントにも影響するFAQ/ナレッジ運用

中編は「コンタクトセンターでのFAQ/ナレッジ運用の課題と実践」についてまとめます。

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FAQ/ナレッジシステムの価値が高まり続ける理由(中編) ~生成AI時代におけるFAQ/ナレッジシステムの普遍的価値~

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サポート/コンタクトセンターFAQ/ナレッジが必然である理由

サポート提供とコンタクトセンター運用の領域において、FAQやナレッジの運用、管理システムの導入等は従来から切っても切り離せないものでした。その重要性は2000年代以降、高まる一方でもあります。まずはなぜFAQ/ナレッジが注目され続け、テーマであり続けるのか?その要素を整理してみましょう。

オペレーション上の要請(情報の多様性、迅速最速に、最新に誤りなく)

1990年代頃からのコールセンター(コンタクトセンター)の登場、サポートサービスの大規模化と呼応するように、サポート業務の情報システム化も飛躍的に進みました。
顧客が企業に問い合わせるという行動が一般化する中で、提供する情報の多様性もより多種多量に、複雑かつ高度になっていきました。

とくに商品/部材点数、品番、商材の多様性にナレッジが紐づく製造業、サービス特性上個々の決まりや制度が多量かつ顧客に正しく説明する責任を伴う銀行/証券といった金融業、法制度の影響を含め常に情報更新を反映する必要がある保険業等、ナレッジ/FAQがなければ、そもそもサポートのオペレーション自体が難しいサービスとも言えます。また顧客行動/サービスのWEB化に伴い、顧客側の知識量も2000年代以降、飛躍的に伸びました。それらに対応する企業サポート側からも、顧客の先をいく知識/品質を担保するには、ナレッジ運用が今後もカギになるでしょう。

労働集約型サービスとしての要請(誰でも、簡便に、手間をかけず)

コールセンター(コンタクトセンター)、とくに大規模センターは非正規雇用に支えられている側面もあって、人材流動性が極めて高い体制で成立しています。

スタッフ運用上で重要になるのがオンボーディング(業務内容に早く慣れ、早く実務実践(着台)し、迅速に知識を高める)ですが、初期教育を円滑に業務開始後も効率良く慣れていく環境を整える上でも、FAQ/ナレッジは必須のシステムでありテーマです。

探しにくく正誤の判断も難しい膨大なナレッジ(マニュアル、仕様書、書類やメモ含め)を使いこなすのはベテランにとっては片手間でも、業務に慣れない新人スタッフから見れば、至難の業です。FAQ(Q&A)の読み込みやすさ、使い勝手の良さが、業務の属人化を是正するというポイントはここにあります。

そして現在一層この重要性を加速させているのが、サポート業界にも押し寄せている、そもそものサポートスタッフ採用難/人材難です。

日本の就労人口減少の問題は社会課題であると同時に、人材が重要なサポートサービスにおいてサービス自体の存亡が懸念されかねない重要な課題です。労働賃金の上昇によって(これ自体は良いことでもありますが)他業種/業務との相対的な就業価値の低下(なぜコンタクトセンターに勤務するのか?)も回避する必要があります。

サポートサービスは前述のように実は非常に高度なオペレーションを担ってきた一方で、応対の作法から知識の習得まで現場の助力に頼ってきた一面もあります。昨今のテーマでもある採用競争力を上げる、ES(従業員満足)観点からも、より現場での学びやすい、業務に活かしやすい、ストレスの少ないナレッジ活用の在り方、FAQ管理運用が求められてると感じます。

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サポートにおけるFAQ/ナレッジの課題

サポート業務にナレッジ/FAQが重要な点は前述のとおりですが、一方でナレッジ/FAQの運用と利活用に何かしらの課題を感じている企業、組織は少なくありません。サポートにおけるナレッジ/FAQ運用は、非システム(Excel、Word、PPT形式からPDFなどドキュメントファイルそのものからマニュアル/仕様書など紙面形式まで)と、ITシステム(近年SaaS化が著しいFAQシステム等)それぞれ環境がありますが、本稿ではいずれの状況においても普遍的に存在する「コンテンツ運用」の視点、「運用体制」の視点この二つからまとめてみたいと思います。

ナレッジ/FAQコンテンツ運用の視点

前提として、昨今サポート業務ないし企業が管理するナレッジ/FAQの総量(コンテンツ量)は増えているということがあります。とくにITシステムが一般化した2000年代以降、作る保存するということが容易になったこともあり、かつては100~数百程度だったナレッジが1,000~9,000、数万というケースも珍しくはなくなってきました。とくにコンタクトセンター内、社内での利用においては一般消費者向けと異なり、膨大なナレッジを管理することが前提となっています。「多すぎるものは少なくすればいい」といった素朴な方法論が通用しなくなっていると言えます。故に発生しやすい課題が以下のような事柄です。

  • 「更新と最新化が追い付かない」
    大量のナレッジ(数千~)を一気に最新化するには相当の労力を要する。人のリソースが追い付かない。とくに絶対的に遵守する必要があるケース(法律や約款の変更等)では取捨選択も難しく、無邪気に断捨離などできない。
  • 「コンテンツの優先順位が定まらない」
    全てのメンテナンスは非現実的として、どこから手を付けるべきか、順番優劣の判断ができない。運用企業視点での優先順位(例:絶対に誤ってはならない情報、サービス仕様、規約、契約内容等)と顧客視点の優先順位(コールリーズン、問合せ主題、VOC等)が存在するが、いずれも精緻に分析できておらず順位が付けられない。
  • 「ヒットするがフィットしない」
    FAQシステム採用後の企業、近年の運用課題で増えている。大量にコンテンツを作成でき、情報がヒットしない状態(0件ヒット)は是正できたが、ユーザーニーズにマッチしない(フィットしていない)コンテンツが多量に提示されてしまいコンテンツ解決をむしろ阻害してしまう。0件ヒット解消だけを目標にした場合陥りやすい。

運用体制の視点

企業のナレッジマネジメントにおいて、担当者が少ない/居ない/人員リソース不足といった話題が出ないことはまずありません。企業の大小、組織の規模に関わらず、ナレッジ/FAQの管理運用は付帯業務、片手間の仕事になりがちな実態があります。マネジメントにおいては前述のようにサポートサービスを提供し発展する上での重要な価値がナレッジ/FAQ管理にあることを認識し、具体的な成果(ナレッジ/FAQが解決することは何か)を整理した上で、体制を組み立てる必要があります。発生しやすい課題が以下のような事柄です。

  • 「アサインの不在または不明確さ」
    良くも悪くも現場の自助改善、草の根活動からナレッジマネジメントを推進しようとするケースが多いことが、片手間運用を生み出す遠因になっている。善意や意欲に左右される為、明確な職務としてのアサインが不明瞭になりやすく、主務の忙しさ次第で活動が左右されやすい。
  • 「属人化(ベテラン化)から脱却できない」
     ナレッジ/FAQなどなくても良いとする暗黙の了解から脱することができない。経験が豊富な人員もおり、ある程度の運用ノウハウや作法が確立されているコンタクトセンターなどで起きやすい。オペレーション当事者にとってはナレッジマネジメント自体の意義や価値を感じにくい状態を是正する必要がある。自身の業務だけでなく組織の資産(将来を担う人材への貢献等)としてナレッジ/FAQ運用にコミットする価値を説く必要があり、担ったスタッフへの評価や還元も行う必要がある。

また、コンテンツと体制という2つの視点とは別に、とくにFAQシステムなどIT導入においてはROI(費用/投資対効果)としてコスト対プロフィットをどう見るか?という議論が課題として取り上げられます。しかしシステムを利用するにせよ、しないにせよ、
1章にある“必然である理由が自社にとってあるか”
本章にある“コンテンツ管理/体制の課題に対し向き合う方針があるか”
これらは可能なかぎり明瞭にすることで、投資の効果をより精緻に判断できると考えます。

他業種/業務に先行してきたAI活用の経験と実態

コンタクトセンターでのFAQ/ナレッジ運用の課題と実践において、AIによるオペレーション改善と実務への適用は、昨今の生成AIブーム以前より試行されてきたことは前編で述べたとおりですが、企業として、正確な情報を/誤りなく/適切に提供することがサポートサービスでは遵守であるが故に、セールスやマーケティングといった他業種/業務よりも一層厳しい視線でAI技術を見据えてきた業界的な経緯があると考えています。

実際にハルシネーション(情報提供の幻惑化≒もっともらしい誤答の乱用)を含む、人の手を離れた生成AI技術の脅威が社会問題化している現在、AI技術のコントロールに苦闘してきたサポート業界、コンタクトセンターの知見は、業種業態業務を超えて活かされるナレッジ(知識/体験)ではないかと感じます。

構造/非構造の溝を繋ぐハブとしてのナレッジ/FAQ

近年ストレージサービスベンダーからAWSなどを含むプラットフォーム企業まで、世界的に人々が扱うデータ量の増大を解説されており、その増大のほとんどは非構造データ(映像、動画も含め)と言われています。

一方で生成AI、AI技術の業務適用において、非構造データそのままを「元データ」としたアウトプットは、際限ないチューニングとノイズ除去の労力、ハルシネーションリスク、コストを要することをサポート関連当事者は理解しつつあり、世間一般における“大量に飲ませれば適切な生成/アウトプットが出るだろう”というイメージには語弊があることを知っています。テキストデータにおける構造化のもっとも簡潔な形態がQ&A(FAQ)であることは前編のとおりですが、FAQの価値がAI技術によって再評価されるというケースは、現在の生成AIブームが終わってからも度々発生しうると考えています。将来にわたっても企業活動としてAI利活用を促進し、生産性に寄与するには非構造から構造化へのデータのリバイバルをいかに実現するかが重要だと言えるでしょう。

二つの宝(VOC・AI活用)を繋ぐハブとしてのナレッジ/FAQ

KCS(ナレッジセンターサービス)と言われるフレームワークが近年改めて再注目されています。KCSはコールセンター発祥元年と言われた1995年にまで至る30年の歴史を遡る方法論ですが、顧客の問合せをトリガーとして、発生ベースでナレッジを記票し、再利用の為に構造化する。というナレッジマネジメントのプロセスが編纂されています。この顧客からのアクションをトリガーにしてナレッジをドライブするという点に先見性があります。

ナレッジ/FAQの蓄積は、一つは企業のもつ情報の集約であり、具体的には説明書に始まりサービス情報、提案、ルール規約、仕様から約款まで提供者側の知識知見の集合体ですが、二つめの側面として、顧客から得たニーズや課題提議、問い合わせから見出されるサービスの根本問題など、VOC蓄積が反映された知識知見の集合体にもなり得えます。
そして顧客へのAIによるコミュニケーション(自動応答)を将来実現する上では、このVOC→FAQ→AIという情報提供の流れは高品質な応対自動化を目指す上で欠かせない要素になると考えられます。

さて、次回「後編」は、顧客体験CXからカスタマーハラスメントまでを含め、FAQ/ナレッジ運用が顧客サポート全体に与える影響を取り上げたていきたいと思います。

まとめ

中編ではとくに日々コンタクトセンターの現場における当事者の皆様が直面する課題、魚の目鷹の目でいえば魚サイドに視点を据えてみたいと思い執筆していました。刻一刻と技術革新は起きているものですが、AI、ITといったトレンドを追いかける視点からではなく、あえて運用上の普遍的な根本的なテーマが何かを念頭に現場現実としての課題の整理を目指してみました。システムの利用有無、AIの活用有無に関係なく少しでも業務の改善や課題の整理のきっかけになるような内容であれば幸いです。

さて、テクマトリックス株式会社では、国産CRMシステム提供ベンダーとして30年余り、CRMシステム(FastHelp)とFAQナレッジシステム「FastAnswer」の提供に加え、チャットボット、ボイスボット、生成AI連携など拡張を続ける「Fastシリーズ」を2025年リリースしています。当執筆者の連載や開催中WEBセミナーの告知も随時更新しています。ぜひご覧ください。

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執筆者紹介

早見 拓也 氏
早見 拓也 氏
テクマトリックス株式会社
CRMソリューション事業部 CRMソリューション推進部マーケティング課
大手コールセンターアウトソーサーにて応対品質調査、サービス開発を経験。その後FAQソリューションベンダーにてシステム導入支援、カスタマーサクセスに従事。現在テクマトリックス株式会社にて、マーケティング課に従事。ナレッジマネジメントの伝道師として各種セミナー講師の活動も行う。
ナレッジCXデザインサービス

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