FAQ/ナレッジシステムの価値が高まり続ける理由(後編)
~生成AI時代におけるFAQ/ナレッジシステムの普遍的価値~

 

生成AIの登場と利用の一般化により、今あらゆる分野で現行ITシステムの陳腐化や、ビジネスモデルそのものの変化など、日本だけでなく全世界的に革新的な変化(パラダイムシフト)が起きると、2025年現在あらゆるメディアを通して喧伝されています。
一方で本稿をご覧いただいている皆様が直面するコンタクトセンター領域においては、AIブームの経験と腐心は度々繰り返されており、その活用には様々な課題を乗り越える必要があることを、現場現実の肌感覚として我々はよく知っています。
とくに必ずといってよいほど繰り返されているテーマのひとつが「FAQ/ナレッジ管理」です。AI活用の現実化が進めば進むほど、あるいはAI活用の有無を問わず、企業におけるナレッジの所在、管理の在り方が益々重要になっています。
本連載では、FAQナレッジ管理システムの重要さを3つのテーマを設定して、それぞれに関連する要素を整理し、詳しく掘り下げて解説します。

  • 生成AI時代におけるFAQ/ナレッジシステムの普遍的価値(前編はこちら
  • コンタクトセンターでのFAQ/ナレッジ運用の課題と実践(中編はこちら
  • 顧客体験、カスタマーハラスメントにも影響するFAQ/ナレッジ運用

後編は「顧客体験、カスタマーハラスメントにも影響するFAQ/ナレッジ運用」についてまとめます。

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FAQ/ナレッジシステムの価値が高まり続ける理由(後編) ~生成AI時代におけるFAQ/ナレッジシステムの普遍的価値~

ナレッジ管理とは?手法や目的も併せて解説

WEBサポート化、マルチチャネル化の功罪

サポートといえば電話。という時代が終わり、メール、チャット、WEBフォーム等による問い合わせチャネルはもちろんのこと、WEBページ上のFAQ、チャットボットからボイスボット(音声自動応答)まで、顧客が企業に接触するサポート接点は非常に多様になっているのは御存じの通りです。

電話からWEBへ不可逆な変化

あるサポートサービスアウトソーサー(コンタクトセンター業務を請け負う企業)の調査によれば、一般顧客が電話やメールでの問い合わせ行動を取る前に、何かしらの自己解決(情報収集、調べものをして、自身で解決しようとする)行動の割合は90%を望む数値が出ており、第一行動として企業へ問い合わせを行う顧客は一割に満たないというデータを示していました。
また、2025年現在は出生の瞬間からデジタルチャネルに触れてきた世代(デジタルネイティブ)も既に成人し、新社会人が苦手とする業務の一つに「電話を取ること」「電話を日常的に使ったことがない」という話題が取り上げられるほどになりました。そしてスマートフォンやタブレットの爆発的普及により児童から前期高齢者(65歳~)まで、「まずはWEBで情報を得るという行動」は、若者というセグメントに限らず日常化しています。
電話の直接会話からWEBへのコミュニケーションシフトは不可逆、サポートチャネルの主流がWEB化していくであろうとの未来予測は、一消費者の肌感覚としても腑に落ちるところでしょう。音声通話だけでなく、様々なマルチチャネルを通じて顧客に情報提供されることは、年齢、国籍や障害の有無といったユニバーサルデザインの観点からも望ましい転換とも言えます。

CXとWEBサポートの実際

このように社会全般の傾向から企業としても顧客接点のWEB化が著しい一方で、WEBによるサポートは充実かつ顧客にとって十分に機能しているケースは、実は希少とも言われています。日本企業のサポートサービスを十数年に渡りベンチマーク調査をされている、「HDI-Japan(ヘルプデスク協会)」によれば、FAQ(よくある質問ページ)の情報不足、WEBチャネル間の情報連携不足などが業種業態を問わず継続課題として取り上げられることが多いようです。
また近年では人の応答を介さない「自動応答システム」を採用する企業が増えた結果、チャットボット等がCX(顧客体験)における手間や不満をむしろ誘発させているといった結果も示されるケースが現れています。企業のDX推進が叫ばれ、サポートサービスにおいても良かれと思って導入したITシステムも、「機能しない」「かえって顧客の満足度を下げてしまった」といった結果では、企業にとっても顧客にとっても望ましくはありません。

コンセンタクトセンターにおけるナレッジマネジメントの革新
ナレッジマネジメント事例集

顧客体験設計の更なる困難さとカスハラ問題

サポートも提供チャネルが多様になり、顧客や消費者の選択肢は増えた一方、チャネルごとのナレッジやデータ連携不足によるバラバラな情報提供や、利用者の想定に叶わない自動応答システム等は課題として残ります。マルチチャネル、デジタル化、DXを採用・導入すること自体が目的になってしまうことから脱却し、課題解決に資する取り組みに進化させ、本来のCX(顧客体験)を設計する視座が企業に求められています。

カスハラに繋がる怒りの体験とチャネルの多様化

2025年現在サポート業界ではカスタマーハラスメント対策が大きな話題になっています。官公庁も含めたカスハラ対策啓蒙は日々取り上げられており、市町村区の条例制定等、具体的な動きもあって問題解決への進展が注目されています。顧客への感情労働の側面も強かったサポートサービスでは、カスハラ対応に頭を悩ませる窓口も元来多かった面もありましたが、前述のサポートにおける「解決できないWEBサポート」「機能不全なマルチチャネル」が、カスハラを呼び起こしてしまう顧客の「怒り体験」を誘発する環境になっている可能性も否定できません。

顧客体験の包括に必要なエフォートレス視点

WEB化マルチチャネル化とカスハラ(怒り体験の誘発)という一見関係性の無いテーマを意図せず関連付けてしまう要素には、以下のようなものが挙げられます。

  • チャネルをまたがって二度、三度と情報収集の手間をかけ“させられた”
  • たらい回し(窓口へ良かれと問い合わせをしたところ他チャネルへ誘導“させられた”)
  • 直接応対してほしいところ自動応答に受け答え“させられた”

マルチチャネル化は各チャネルそれぞれでの一次解決、根本解決を望む顧客にも答えなくてはならない結果、期待値とのギャップを埋めるにはどうするべきか、企業は今まで以上に腐心されている状況もあると感じます。
本来のハラスメント定義上は、落ち度が無い状況において理不尽な要求を繰り返されたり恫喝されたりすることですが、一般的な良識をもつ顧客や消費者でも、一度のストレスでは“炎上”しなくても度々の不愉快が蓄積していくことで “噴火”してしまうことは多くのサポート当事者が体験しています。
これらの課題に対して必要な視点が「エフォートレス(手間がかからない)な状態をサービス上どのように築くか?」ということになります。チャネル毎に出来る事、出来ない事が当然ある中で、エフォートレスを実現するにはチャネルそれぞれを通じて顧客が辿る体験(CX)に沿った情報提供や応対が必要です。チャネル同士が補完し合える環境も理想でしょう。(例:契約変更に伴い来店が必須だが、WEB上には来店時必要となる物品や書類の詳細を自身で確認できる等)そして、チャネル間を通じて一貫した対応や情報を提供するには、一元化されたナレッジ管理やシステム連携、FAQマネジメントがやはり重要になります。

ナレッジが紡ぐ顧客体験改善と生成AI適応

デジタル化・WEB化によって多彩になった企業と顧客の接点を通じて、多様かつ複雑な顧客体験を人々は享受できるようになりましたが、その成否を左右する基盤となるナレッジ、FAQマネジメントは、より質の高い管理運用を企業に求められるようになっています。顧客はWEBを通じた情報過多の時代にあって、One to One “自分事”に向けた情報やサービス提供が成されているかに敏感になっています。ナレッジにも正しい情報提示だけでなく、顧客にとっての個別最適が求められている時代になっています。

VOCとFAQの連携(KCS)~ヒットからフィットへ~

長くFAQマネジメントにおいては、0件ヒット(何もヒットされない≒情報0件)を改善するというKPIが用いられてきました。当然ながら情報が無い状態は在る状態に改善する必要がありますが、FAQ運用のPDCAが一巡した企業が増えた結果、情報提示はあるがヒットが多過ぎて本当に欲しい情報、臨んだものに辿り着かないという状況にシフトしています。ヒットから自分事に“フィット”しているか?が問題になっています。
自分にとって手間なく手早く(エフォートレスに)情報が提供される。そんな理想的な状況の実現には、以前も掲載させていただいたナレッジマネジメントの方法論であるKCS(ナレッジセンターサービス)を読み解く中からもヒントとなるポイントがあります。
KCSの解説は割愛しますが、KCS手法を実現する前提として、VOC(顧客の声・問い合わせ≒コールリーズン)をFAQナレッジに反映し、FAQナレッジを用いて対応する、双方にデータのフィードバックを行いサポートを設計する。という視点は外せません。
運用者(企業)起点ではなく問い合わせ(顧客)起点でナレッジマネジメントを推進するという考え方は、プロダクトアウトとマーケットインという対比にも通じるものを感じます。一般的にサポートとサービスの根本的な違いとして、サポート提供はリアクティブ≒“受ける”という前提がありましたが、“常に主体は顧客”という視点であるKCSからは、顧客エフォートレス実現が重要になる現在において、示唆に富む発想ではないかと考えます。

AI要約時代(SEO無効化?)到来と検索体験の変化

そして最後にKCSの注目を集めるもう一つの要素が昨今の生成AI登場の影響です。生成AI登場以前からKCSを語る上で必須となるキーワードにナレッジ記述の「構造化」があります。この“記述の構造化”が今後はサポート領域を超えて企業のWEB運用に影響する可能性すら出てきていると感じます。それがAI‐Overview(AI要約)の登場です。
本稿を執筆している間近、GoogleのAI要約機能が日本においても公開されました。すでに公開されていた米国では、AI要約登場によって自社サイトの80%のアクセスを失ったという記事が出るほどに、そのインパクトが話題です。企業への影響が甚大であると同時に、AI要約はWEB検索という消費者行動自体を大きく変化させる可能性があると言えます。人々が企業サイトをクリックする前にAI要約で満足するならば、いかに“AI要約に拾ってもらうか”の競争が激しくなるでしょう。
SEO(検索最適化)からGEO(生成AI最適化)へ。というWEB広告の転換を謳う情報も増えていますが、これらの最適化に影響を与えうるのが「構造化したコンテンツ」の存在です。FAQを中心とした構造化されたナレッジ記述は、元来AIとの相性が良いことは知られていましたが、一般にAI要約が普及しつつある今、構造化されたコンテンツのみがAIに選択され要約され参照される可能性もあり得るのです。サポート分野の専用コンテンツと見なされるケースが多かった“よくある質問ページ”ですが、将来はAI要約をブリッジとしてFAQコンテンツばかりがWEB上に流通され、消費されるという事態も企業は心得る必要があるかもしれません。

まとめ

本連載の最後となる後編ではFAQシステムとコンシューマー、一般顧客向けというテーマで論旨をまとめてみました。CX=顧客体験の価値向上というキーワードもコンタクトセンター、サポートサービス周辺にて取り上げられて久しいものですが、FAQを含むWEBサポートの取り組みによって真の顧客体験向上を実現できているケースは2025年現在も貴重な存在だと言われており、企業の課題、運用現場の悩みは尽きないとも伺います。
生成AIの影響も含めたFAQを取り巻く主だった課題を少しでも網羅的にまとめ、取り組みを検討される際の補助線になることを目指してみましたが、ご覧の皆様の参考の一助となる内容であったならば幸いと思います。
テクマトリックス株式会社では、国産CRMシステム提供ベンダーとして30年余り、CRMシステム(FastHelp)とFAQナレッジシステム「FastAnswer」の提供に加え、チャットボット、ボイスボット、生成AI連携など拡張を続ける「Fastシリーズ」を2025年リリースしています。当執筆者の連載や開催中WEBセミナーの告知も随時更新しています。ぜひご覧ください。

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執筆者紹介

早見 拓也 氏
早見 拓也 氏
テクマトリックス株式会社
CRMソリューション事業部 CRMソリューション推進部マーケティング課
大手コールセンターアウトソーサーにて応対品質調査、サービス開発を経験。その後FAQソリューションベンダーにてシステム導入支援、カスタマーサクセスに従事。現在テクマトリックス株式会社にて、マーケティング課に従事。ナレッジマネジメントの伝道師として各種セミナー講師の活動も行う。
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