VOC分析を使ったチャットボットのコンテンツ改善の手引き

 2023.12.04  2024.04.23

生成系AIの登場など、問合せ対応の自動化、エンドユーザーの自己解決促進への関心は高まるばかりです。一方で、FAQサイトやチャットボットで提供している肝心のコンテンツ整備が十分でないケースが多く見られています。生成系AIを最大限活用していくためにも、まずは既存のコンテンツを整備することが重要です。

そこで、今回はチャットボットのコンテンツにおけるFAQ、シナリオの作成についてポイントをまとめてみました。

VOC分析を使ったチャットボットのコンテンツ改善の手引き

VOC(Voice of Customer)の取得から分析までの方法とは?

なぜシナリオ作成が重要なのか

チャットボットで利用者の自己解決を促すためには、シナリオを作成し、利用者に対して選択肢を提示しながら、必要としている問合せにきちんと誘導してあげることが重要です。生成系AIの登場で、利用者の意図、質問内容を理解する精度は今後急激に上昇する可能性はありますが、カスタマーサポートの領域で実装するにはまだ検証段階と言えるのではないでしょうか。予想される急激な技術の進化に対応していくためにも、まずはシナリオ、コンテンツを整備することが重要です。

一方で、チャットボットをまずは簡易に始めてみたというケースも多く見られています。その場合、シナリオ作成はこれまでの経験に基づいた仮説をもとに、FAQも既存で準備している内容を転用、メンテナンスの工数も十分でないため、結果としてチャットボットの効果を十分に発揮できていないという課題があります。チャットボットを通じて、利用者の自己解決促進、コンタクトセンターの負荷軽減を図るためにも、しっかりとした分析結果に基づいたシナリオ、コンテンツの作成が求められています。

そこで、今回のブログではテキストデータのVOC分析結果をもとにしたシナリオ作成の重要性について、実際の分析手法も交えながらご紹介していきます。テキスト分析を行いシナリオを作成することで、利用者のリアルな声、問合せのされ方、解決に導くまでのプロセスを可視化することができ、的確に利用者を求めている回答にまで導くことが可能になります。

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シナリオ作成に必要な分析とは?

それでは、実際にシナリオ作成に必要な分析について解説をしていきます。
分析のステップとしては大きく以下の3つだと考えています。

  • 分析の目的を定め、データの準備を行う
  • テキストマイニングツールにデータを投入し問合せ傾向を可視化
  • 分析結果をもとに、問合せごとのチャネル選定、およびシナリオ作成

それぞれのステップごとに解説をしていきます。

分析の目的を定め、データの準備を行う

テキストデータを活用した、VOC分析にはいくつかの目的があります。当社の実績の中でも例えば、

  • キャンペーンの効果測定
  • オペレータのパフォーマンス分析
  • トークスクリプト作成
  • CRM基盤のカテゴリ、業務プロセス整理
  • ナレッジ(FAQ、マニュアル)の整備
  • チャットボットのシナリオ作成、コンテンツ改善

などの目的があります。

それぞれの目的に合わせた分析手法がありますが、いずれの目的であっても、分析を開始するにあたって、分析の目的を定めKPIを設定することが重要です。

分析の目的、KPIを定められたら、分析に利用するデータおよびテキストマイニングツールの準備が必要になります。チャットボットのシナリオ作成の場合、有人チャットのログデータを利用できることが望ましいですが、音声をテキスト化したデータを利用することも可能です。ただし、音声テキスト化データの場合、チャネルが異なるためチャットボットへの流入傾向と異なる可能性があること、またテキスト化エンジンの精度によって分析の難易度が影響される点を考慮しておく必要があります。

また、もし可能であればCRMシステムに記録している問合せカテゴリなどの付帯情報を紐づけることがあれば、そのデータも利用することで、より精度の高い分析を行うことが可能になります。

加えて、テキストマイニングツールの観点では、様々な形式のデータを取りこむことができ、直感的な操作でレポーティングまでつなげられることが望ましいです。また、チャットボットのシナリオは階層構造になるため、テキストマイニングにおいても問合せを階層構造に整理できると、シナリオ作成の工数を抑制することが可能です。

こうした観点から、当社ではVext社の提供するVextMinerをテキストマイニングツールとして利用しています。本記事では、VextMinerでの分析手法をもとにしながら、チャットボットのシナリオ作成についてご紹介していきます。

テキストマイニングツールにデータを投入し問合せ傾向を可視化

分析に利用するデータ、テキストマイニングツールが準備できたら、いよいよ実際のデータを投入し、分析を行います。選定したツールによって具体的な作業は異なりますが、分析できる形式にデータを前加工したうえで、テキストマイニングツールへ取り込みを行います。分析の第一段階としては、問合せをグルーピング、カテゴライズし、問合せボリュームの多い問合せを可視化します。

例えば、

  1. 新規入会に関する問合せ
  2. 退会に関する問合せ
  3. 商品の購入に関する問合せ
  4. 返品に関する問合せ
  5. その他

といった形式です。まずは大分類を整理し、問合せの全体像を把握します。さらに大分類を中分類、詳細分類にカテゴライズしていくことで、問合せ傾向を可視化することが可能になります。
新規入会に関する問合せを例にとると、
1.新規入会に関する問合せ
 a.入会手段
  i.ウェブでの入会はできますか?
  ii.電話で入会の受付はしてもらえますか?
  iii.・・・
 b.入会時の手続き
  i.入会時に必要な書類は何ですか?
  ii.入会時に印鑑は必要ですか?
  iii.・・・

のような形で、VextMinerを利用することで、問合せを階層化しカテゴライズすることが可能になります。

各カテゴリごとの問合せ件数、割合をもとに、チャネルの選定、シナリオの作成を行っていきます。

分析結果をもとに、問合せごとのチャネル選定、およびシナリオ作成

VOC分析によって可視化された問合せ傾向から、まずは問合せの内容に応じたチャネル戦略を検討することが重要です。たとえ、問合せ件数が多く寄せられているとしても、

  • 顧客の属性に応じて回答が異なる問合せ
  • 顧客の登録状況や利用履歴を参照しなければならない問合せ

等は、基幹システムと連携しチャットボットで回答を行う、マイページなどの参照先のみをチャットボットで回答する、あるいはこういった個別の問合せは電話やチャット等の有人チャネルに誘導する、といった判断が必要になります。この判断を行うには、問合せの中身を人間が確認する必要はあるのですが、VextMinerのようなテキストマイニングツールがあることによって、対象を絞り込むことができるので、大幅な効率化を図ることが可能になります。問合せごとに最適と思われるチャネルに誘導することで、チャットボット自体の解決率も向上することが期待されます。

問合せごとのチャネル選択を行ったうえで、チャットボットで回答できると判断した内容をシナリオ化していきます。当社では、VextMinerでのカテゴライズ結果の中で、全体の問合せの70%から80%を占める問合せ領域をシナリオ化することを推奨しています。VextMinerの階層構造をそのまま利用しながら、問合せ件数のカバー率が80%となるところまで、問合せ件数の多い問合せからシナリオの対象とします。

また、シナリオだけでなく利用者に選択肢として提示するQ文の言い回しも、なるべく利用者のリアルな声を反映することが重要です。利用者目線ではなくQAを準備する側の目線でQ文の表現が決めてしまうことで、検索性を下げている可能性が考えられます。利用者のリアルな声を反映できることも、VOC分析を行う大きなメリットだと考えています。

継続的なチューニングで更なる高度化を

これまで述べてきた分析の手法を駆使することで、利用者の声を反映したシナリオを作成することができました。しかし、これだけで完璧なチャットボットが完成したといえるでしょうか?

問合せの傾向は、新しい商品やサービスの投入、キャンペーンの実施など、シナリオをリリースした当初から日々変化をしていきます。また、仮にコールデータを利用してVOC分析を行っていた場合、チャットボットに流入する利用者層と異なるため、問合せの傾向が異なる場合もあります。

たとえ、VOC分析にもとづくシナリオを作成したとしても、それらの変化に対応していなければ、利用者の自己解決率は低下し、やがてこのチャットボットは利用されなくなるでしょう。このような事態を防ぐためにも、継続的なチューニングを行う必要があります。

チューニングの頻度は、問合せの対象となる商品、サービスの特性によって異なりますが、当初が設定したKPIの達成状況と、VOC分析によるカバレッジ分析を掛け合わせ、継続的にシナリオの追加、削除、修正を行っていくことが重要です。チャットボットを運用する際には、こうしたチューニングの工数を予め見込んでおき、問合せの規模によっては専任体制も検討する必要があります。加えて、こうした日々のメンテナンスを作業者の負担なく行えるUI、機能を備えたチャットボットシステムを選択することも重要になってきます。適切なシステムを選択することで、チューニング作業の負担を軽減し、効果的な運用が可能になります。

また、一問一答型の問合せに対して一定の効果が出ている場合には、チャネル判定で、利用者の属性や過去履歴を参照する必要があるとされた問合せに対応できるよう、基幹システムとの連携などのシステム開発も検討を行うべきです。

以上のように、チャットボットの運用においては、シナリオを一度作成して完成ではなく、継続的なチューニングが不可欠であり、それを実現するためのシステム選定、運用体制/プロセスの準備も重要になります。

まとめ

このように、VOC分析を活用することで、利用者のリアルな声を反映したチャットボットのコンテンツを準備することができます。これまで仮説や過去の経験から作成していたコンテンツに比べて、利用者の自己解決を促すことに繋がります。

しかし、コンテンツを一度作成しただけで終わりではありません。コンテンツリリース後の定期的な分析、メンテナンスが重要になります。このようなサイクルを回すためには、体制や運用プロセスを準備すること、また分析やメンテナンスの工数が少なくなる、チャットボット、テキストマイニングツールの選定も重要になります。

執筆者紹介

上野 隆洋
上野 隆洋
新卒から事業企画部門に配属となり、事業部のPL管理、品質管理、レポート作成の自動化などに従事。その後コンサルティング部に異動し、外資系企業や地方自治体など幅広い業界の業務コンサルティングや、ソリューション導入コンサルティングを多数担当し経験を積む。現在は、コンサルティング手法を活用し、クライアント課題に応じたチャットボットの構築に取り組んでいる。
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